11話 一悶着

「本当なのかしら?」


「だからホントですよ、私はゴブリンカラミティを倒しましたけど運が良かっただけですよ!!」


 ギルドに戻る途中アーゼさんが目を覚ました。

 そこまではよかったのだがそのあと、私が使った『灼熱地獄バーニング・ヘル』についてとことん追求してきた。

 『灼熱地獄バーニング・ヘル』だけではなく、『常闇領域エオニオ・スコタディ』や『暴走エクトス』と手刀で気絶させる前に使った魔法について聞いてくる。


「『灼熱地獄バーニング・ヘル』と、『常闇領域エオニオ・スコタディ』が使えることについては今更だから何も言わないけど『暴走エクトス』って何なのよ!!」


「『暴走エクトス』は魔法に使われる魔力を暴走させて、本来の効果とは別の効果が出るようにする魔法ですよ?」


「効果の説明を聞いてるんじゃないわよ!!それに何よその魔法......普通にヤバいやつじゃない.....」


 私が軽く『暴走エクトス』について説明をすると、アーゼさんは呆れたような表情を浮かべた、

 その上でどう説明するか悩んでいるように感じる事が出来る。

 何を私に説明しようとしてるんだろ?


「いい?魔法に使われる魔力を暴走させるなんてのは今まで一度も見つかったことがないのよ、ましてや魔力を暴走させることで効果が変わるなんてことが分かればあなたは確実に国お抱えの王宮魔術師になるわよ?」


「それは絶対に嫌ですね......」


 国のお抱えの王宮魔術師になるなんて絶対に嫌なのでそれだけは阻止しないと。

 そう思い、『並列思考タフトクロノ・スケプシ』でアーゼさんの話を聞きながら、今後どう行動するかを考え始める。


「王国魔術師になるのを嫌がるなんて....本当にリースちゃんって何者なの?」


「私は成人の儀式が終わったばかりの唯の平民ですよ」


「その平民は王宮魔術師とか近衛騎士団に所属したがるはずなんだけどね.....」


 王宮魔術師と近衛騎士団は平民だと誰でもなりたがる職業らしい。

 しかし私はなりたいとは一ミリも思わない。

 

「そうなんですね、まぁ私は絶対になりたくないですけど」

 

「本当に、リースちゃんは色々変わってるわよね」


「私は、私を突き通すんで、他の人と変わっていることなんて沢山ありますよ」


 我を突き通すと決めた私は、周りと違っても、異端と蔑まれても変えることなんて一度もなかった。

 それが”私”と言う存在の証明になると思っている。

 だから、私は一度決めた意見はよほどのことがないと変えない。

 勿論、そっちの方が正しいと判断したら変える、そこまで私は頑固ではない。


「そう、それがあなたの個性なのかしら?」


「そうですね、私の唯一のとりえはこの集中力だと思いますよ」


「.........それ以外にもリースちゃんの個性は沢山あると思うけどね?」


「お世辞でもそう言ってくれると嬉しいです」

 

 集中力以外に私には個性なんてないと思う。

 七瀬楓としては学校でいじめられていた。

 勉強も運動も頑張って、一番を取っていたけど、それがダメだったらしい。

 

「個性のないあんたは、一番なんかとったらダメなのよ!」


 それが母の言葉だった。

 今思えばクソ女神に母を人質に取られてもなんとも思わない。

 けど、その時は母に洗脳されていると等しい状態だったから、私は何としてでも母を救おうと思っていた。


「あんたが一位?そう、不正をしたのね」


「柳君と花瀬さんから不正をしたとの報告がありました、よってあなたは一か月の停学処分とします。」


 クラスメイトからも、担任からもそう言われていた。

 私の存在価値なんてないと思っていた。

 そんなことを考えていると自然と私は涙を流す。


「リースちゃん.......」


 アーゼさんは私の名前を一度呼ぶと、そのまま無言で抱きしめてくれた。

 優しく包み込んでくれたアーゼさん。

 その体温につられて、私はいつの間にか眠ってしまった。





「ふぅ、眠ったのかしら?」


 リースがアーゼの腕の中で寝た後、アーゼはそんな言葉を零す。

 その視線の先には先ほど眠ったリースの寝顔があった。


「こういうところは年相応なのね」


 確かに規格外の力を持つリースだが、16歳らしい行動もするのでよくわからない、と言うのがアーゼの感想だ。

 勿論、よくわからないと言ってもアーゼはリースがいい子ということはわかっている。

 だからアーゼは、リーズとパーティーを組んだのだ。


「この子は確かに強いけど、まだまだ子供ね」


 リースは確かに子供のような行動をよくするが、実際は違く精神年齢は既に数百を超えている。

 子供のような行動は無限に湧き出てくる好奇心によるものなので特に心配をする必要はないのだが、それはアーゼの知るところではない。


「何で古代魔法を使えるのかわからないけど、それは私が問い詰めることではないようね」


 先ほど泣いていたリースだが、それと古代魔法が使える理由に何か関係性があると思ったアーゼは古代魔法が使える理由について深く詮索する事を止めた。

 勿論泣いている理由は全く違うのでその意味は特にない。


「さて、報告は私が頑張りますか」


 リースがゴブリンカラミティを倒せた理由はアーゼにはわからない。

 しかし、実力を知られたくないことを感じ取れたアーゼはリースの手助けになるよう頑張るのだった......

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