9話 魔族

 魔神化の分の魔力が切れた私はふと我に返った。

 全て私のせいなのだがその場はものすごい惨状になっている。

 ゴブリンカラミティの生体反応は極限まで薄くなっており、生きているのがおかしいと言える状態だ、


「はぁ....全力でやるとこうなるのね」


 全くを持って全力ではないのだが、現実から目を背けたい私はそんなことを言う。

 それに.....


 『いるんでしょ?魔族』


 懐かしい気配。

 魔族の気配があるので油断させるためにも私はわざとらしくそんなことを言った。

 魔王の側近クラスは違うが、たいていの魔族は自分で見たことと聞いたことを第一に信じるのでこんなことを言うのがとても有効的なのだ。


『人間、何故気づけた?』


『勘かしらね、それと魔族特有の魔力の痕跡があったしね、どうせゴブリンカラミティの出現もあなたが仕組んだんでしょ?』


 魔族と私は人語ではなく、魔族語で会話をする。

 魔族語とは人間には理解できないとされている魔族の主流言語で魔族の国の9割以上で使われている言語だ。


『魔族語を話せるのか!?』


『当然よ、この世に現存している言語と古代語、神話語も話せるわよ?』


 古代語とはその名の通り数千万年前に存在したとされている文明の言葉である。

 そして神話語は神話の時代に神々が使っていた言葉、つまり人間や魔族に仕える言葉ではないのだ。

 それを大賢者と呼ばれていたころの私は研究に研究を重ねて、この世で唯一古代語と神話語を話せる存在になっていた。


『古代語と神話語を話せるだと!?これは魔王様に報告しなければ......ッ』


『私から逃げれるとでも思ったのかしら?』


 逃げようとする魔族を『闇の呪縛ダーク・バインド』という闇魔法の上級で捕縛する。

 闇魔法は人間には使えず、魔族や悪魔専用魔法というイメージが人間にも、魔族にもあるが実際はそんな事は無く素質があれば闇魔法は誰でも使う事が出来て強力な魔法なのだ。

 と言ってもこの事実に気づいているのは私だけなので、魔族が驚くのは当然と言えば当然のことだ。


『クソッ、魔王の側近である俺様が人間ごときにつかまってたまるか!!!!』


『これで側近ってどれだけ魔族弱くなってるのよ.....』


 ゴブリンのランクが上がっていたので魔族はさぞく強くなっているか変わっていないと思っていたがそんな事は無く、人間が弱くなることに比例して魔族も弱くなっているみたいだ。

 私の知る側近は、本当に有能で強さも私を倒しに来た勇者の数十倍はある者達ばかりだった。

 それなのに今の魔王の側近(自称)は勇者の四分の一にも満たない力しか持っていない。

 これで勇者に攻められたらどうするの!?

 と、思わず心配してしまうほどには弱そうに思える。


『魔族を俺様を侮辱したな!!魔王様の側近序列2位であるこの俺様、キルが貴様を地獄に送ってやる!!』


『序列2位って......』


 どうやら今の魔王の側近には序列なる者が出来ているみたいだ。

 そして2位でこれくらいということは序列1位も魔王も大した事は無いと簡単に予測できる。


『ああ、序列2位の俺様が人間という下等な生物を直々に殺してやるんだ、光栄に思え!!』


『ごめんね、少し幻聴が聞こえちゃったからもう一回言ってくれる?誰が何をするの?』


『俺様が下等な生物である貴様を直々に殺してやるんだ、光栄に思え!!』


『はぁ....私に聞き間違えじゃなかったみたいね』


 呆れの一言しか出ない。

 どうやらこの魔族、キルは私の事を殺そうとしているらしい。

 魔力にも筋力にも全てにおいて絶対的な絶望的な差があるにもかかわらずそれを理解できずに私をどんどんと侮辱する。

 キルのステータスの平均値は1万程、それに対して私は∞勝ち目など一ミリもないのだ。

 そもそも魔族のステータス平均が1万ということがおかしい。

 私の知っている限りの側近だとステータス平均は一番低くて100億、多いものだと兆や京も越えている。

 それが魔王の側近と言うものなのだ、しかし......

 

『死ね!!『灼熱剣カーフシ・クシフォス』』


 いくら人間で『灼熱剣カーフシ・クシフォス』が失われていたとしても魔族と人間には絶対的な魔力の扱い方に違いがある為、魔族は『灼熱剣カーフシ・クシフォス』.....中級下位の魔法剣は使える用だ。

 使えると言っても魔王時代に側近が使っていた威力の百分の一にもなっていない吹けば消し飛ぶような魔力しか込められていないが......


『魔法の衰退は魔族が原因かもって考えてたけど魔族は関係ないのか.....』


『なっ?!なぜ俺様の『灼熱剣カーフシ・クシフォス』を受けても無傷なんだ!!』


『魔力の使い方がなってない、だからその程度の魔力は私が常に纏っている魔力で相殺されるのよ、魔族もそこまで弱体化したのね......』


 魔力の使い方がなっておらず、おまけに魔力の量そのものが小さい。

 そんなのは私が常に纏っている魔力に相殺されるし、なんならアーゼさんの方が魔力量も使い方もちゃんとしている。

 2万年で本当になにが起きて、何故弱体化しているのか?

 大方予想は付いているが、それを確信に変えることは今は難しいので後々調べるとしよう。


『なっ、人間の分際で俺様を、魔族を侮辱するのか!!』


『侮辱って.....私は本音を言っただけなのに.....』


 私の本音を聞いてキルは怒りをあらわにした。

 侮辱したつもりは毛頭ないのだが、キルにとっては侮辱に聞こえたのだろう。


『死ね!!『水氷弾パーゴス・スフェラ』!!』


『それも魔力の使い方がなってない、弱すぎる』


 そういいながら息に少し魔力を込めると『水氷弾パーゴス・スフェラ』は跡形もなく消えた。

 まさかここまでできてないとは思ってなかったため、私は少し眉をひそめるてしまう。


『ヒィッ、ば、化け物!!!!!!』


『人間から見ればあんたたちの方がよっぽど化け物よ!!』


 全くひどい話だ。

 こんなか弱い少女を化け物扱いするなんて思考能力備わってないのかな?

 まぁ、こんな文句を心の中で言っても特に意味なんてないし、さっさと今の魔王の名前を聞きますか。


『まぁ私を化け物扱いしたことは許すけどその代わり魔王の名前教えてくれない?』


『だ、誰がお前みたいな下等な生物にま、魔王様の名前を教えるとでも!!』


『早くして?』


 軽く殺気を込めて威圧するが、キルはそれだけで死にそうな表情になる。

 さぁて、今の魔族は魔王はどうなっていることやら.....

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