7話 初の依頼

「それで依頼なんだけど私とリースちゃんの実力を考えてゴブリン村の壊滅なんてどうかしら?」


「何ですかそれ....結構物騒な内容なんですけど....」


「結構じゃないわ、かなり物騒よ」


「えぇ.....」


 アーゼさんが丁度いいと考えた依頼は『ゴブリン村の壊滅』だ。

 ゴブリンとは魔王の時代で言うDランク程度の上位種である『ゴブリンキング』や『ゴブリンエンペラー』などを中心にEランク下位のゴブリンが人間の村を似せて生活している。

 勿論普通に生活するだけならそれでいいのだが、ゴブリン達は近隣の村から金や食料、人をさらっている。

 魔王の時はそれでもよかったのだが今の私は一冒険者。

 魔物に同情などするわけにはいかないのだ。


「と言ってもゴブリンキングとエンペラーは精々Aランク、ゴブリンもBランクくらいだし私の敵では無いわ」


「アハハ.....デスヨネ....」


 もうなんとなくで予想出来ていたがゴブリンキング、エンペラー、ゴブリンのランクもかなり上がっていた。

 キングとエンペラーはDからAに、ゴブリンはEからBへとそれぞれ三段階も上がっている。


「ですよねってことはわかってたの?」


「あ、そういうわけではないんですけどね....それよりも行きましょう!!」


「まぁ、分かったわ、カイナちゃんこの依頼受けさせてもらうわね」


「わかりました!」


 説明が色々めんどくさいし、信じてくれるとも限らないので私は話を逸らすことでアーゼさんの興味を無くすよう誘導する。

 私のその作戦は成功?し、アーゼさんは依頼の方に集中してくれた。


「それじゃあ行きましょうか」


「アーゼさんってどんな魔法使えるんですか?」


「それは本番までのお楽しみよ」


 衰退した魔法の中でアーゼさんがどんな魔法を使うのか興味を持ったが上手くはぐらかせてしまった。

 私の持つ知識だと有名どころで言えば炎系統初級の『火炎弾フローガ・スフェラ』や中級下位の『灼熱弾カーフシ・スフェラ』、水系統初級の『水流弾ネロー・スフェラ』や中級下位の『水氷弾パーゴス・スフェラ』など色々ある。

 私のあってほしくない予想があっていればここら辺が最上位になり、中級下位に至っては『灼熱剣カーフシ・クシフォス』の様に古代魔法になっている可能性が出てきている。


「わかりました.....」


「はいはい、それじゃあ行くけど.....その恰好で大丈夫なの?」


「え、まぁ大丈夫ですよ?」


 今の私の格好は七瀬楓の記憶をもとに手縫い(『自動操縦アフトマト』で縫った)パーカーにミニスカート、スニーカーというこの世界では異端の一言に尽きる服装だ。

 勿論すべてに物理完全攻撃無効、魔法攻撃完全無効、浄化、魔力制御、自動修復等々色々つけているので動きやすさ重視だが、それなりに強い防具としても使えるのである。


「そう、リースちゃんが大丈夫っていうなら私は何も言わないわ.....」


「そうしてくれるとありがたいです」


「それではリースさん、アーゼさん頑張って来てください!!」






 依頼のゴブリン村がある場所は魔物の森という森の奥深くにあるらしい。

 森の奥深くにあるなら別に大丈夫じゃないか?

 そう思ったがゴブリン達は森を抜けて、近くの小さな集落を襲っているらしい。

 だからこそ冒険者ギルドとしてこれを見逃せないらしく、依頼が来たとのことだ。


「今回は、宵闇だけで大丈夫かな......?」


「宵闇?それは魔法かしら?」


「いや、私の持つ日本刀の名前です」


 神妖刀:現世幽世と同じく魔王の時に使っていた私の日本刀、魔刀:宵闇を『魂の収納プシュケー・ヴァーゾ』から取り出す。

 アーゼさんの持っている日本刀みたいなものとは違く、私の持っているこれは本物の日本刀だ。

 昔、私みたいにこっちに転移してきた人がいたのでその人に創ってもらい、そこに私の魔力を注ぎ込んだ業物である。


「ニホントウっていうのはわからないけど、それだけなら大丈夫かな?」


「じゃあ、宵闇使わせてもらいますね!!」


 宵闇がどんな刀かを一ミリも説明してないのでアーゼさんには少し切れ味のよさそうな刀にしか見えていないと思う。

 勿論この宵闇がただの刀というわけがなく、絶対切断や空間切断、魔法切断等々色々な効果を私が付与している。

 だからそこら辺にある普通の剣とは比べ物にならないくらいには強いのだ。


「何でそんなに嬉しそうなの?」


「気のせいですよ」


 だましているが宵闇のOKが出たので少しうれしくなってしまったんだろう。

 思わず声に出るほどには浮かれてしまった。


「そう、それじゃあゴブリン共の殲滅を始めますか」


「わかりました!!」


 アーゼさんとの雑談をしているうちに目的のゴブリン村についていた。

 村には200程度のゴブリンとゴブリンメイジ数体、ゴブリンキングがいる。

 勿論私が、宵闇を一振りすればここに居る全てのゴブリンを一発で殲滅、殺戮することなんてたやすいが、アーゼさんがどんな魔法を使うのが気になったので今回はしないことにした。


「それじゃあこれが私の魔法よ、炎よ敵を焼き尽くし、全てを穿て『火炎弾フローガ・スフェラ』!!」


 案の定というべきかアーゼさんは『火炎弾フローガ・スフェラ』を使った。

 魔力量∞の私と比べるのはあれだが詠唱ありにしては弱いと思ってしまう。

 魔法は詠唱ありと無詠唱があり、詠唱ありは安定した火力が無詠唱はイメージ次第で威力が変わるという風になっている。


「無詠唱ではないんですか?」


「無詠唱?そりゃあ私もできればそうしたいけどそれはもう失われた技術よ?......まさかとは思うけどリースちゃん無詠唱魔法出来るとか言わないわよね?」


「できますけど?『火炎弾フローガ・スフェラ』」


 私は『火炎弾フローガ・スフェラ』を無詠唱で発動する。

 本当なら『火炎弾フローガ・スフェラ』という名前すら言う必要はないのだが、アーゼさんがそれでは何の魔法を使ったのかわからないと思いあえて魔法名を口にした。


「なんで炎系統最上位魔法が使えるのよ.....」


「やっぱり最上位なんですね....」


 驚くような表情を浮かべたアーゼさんだが私はそれ以上に呆れていた。

 なんとなく予想はできていたが初級魔法のはずの『火炎弾フローガ・スフェラ』が最上位になっている。

 この調子だと『灼熱弾カーフシ・スフェラ』は古代魔法の枠に入ってるんだろうな.....

 そんなことを思っている間に私の放った『火炎弾フローガ・スフェラ』はゴブリン村の家々を燃やし尽くし、逃げれたゴブリンは一秒にも満たない刹那の間に私がすべて切り裂いている。


「まぁいずれ事情は聞くとしてそろそろ終わりかしらね?」


「そうですね.....ッ!?」


「どうしたの?」


 そう答えた私だが、念のために張っていた探知結界に唯一生き残りの反応があったので驚いてしまった。

 私の常識の強さで言えばBランク程のゴブリンにしては異常な強さを持っている。


「いえ、少し.....」


「?」


「ッ....宵闇!!」


 なんて言い出そうか迷っていた私はアーゼさんの後ろにゴブリンにしては異常な強さを持つ個体がいることに気づき、咄嗟に宵闇に魔力を流し込みゴブリンを斬った。

 魔力は少ししか流してないのだがゴブリンの後ろに生えてた木々を数百メートルにわたって全てをなぎ倒してしまった。


「まだまだいるみたいですね.....」


 探知結界に一気に反応が増えたので別の場所から来たということはわかった。

 呆然と驚いているアーゼさんを横目に私は宵闇を構える。

 さぁ、楽しい楽しい殺戮の始まりだ!!

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