いぬ討伐計画

夏伐

第1話 キャトルミューティレーション

 吾輩はこの星の人間からみれば異星人である。


 この原始的な生物が支配する星に我々にとって有益な資源があるのではないか、と調査のためにこの星に派遣されてきた。

 吾輩が所属したチームはそれぞれこの地球という星を調べて、体を適応させた。


 次に必要なのはこの星で使う貨幣である。閉鎖した星では両替など出来はしない。


 そして考えたのが地球人の誘拐である。


 道に落ちていた地球人を拾い、それぞれ気に入った人間になりすますことにした。その人間の資産も、家も何もかもをもいただいて成り代わるのである。


 この星の時間で一日を言語習得に費やした。いくつかの大陸に渡って数人を回収したせいでチームでバラバラ言語を習得することになってしまった。


 吾輩は出世頭であるにも関わらず一番の年少。発言力が低いせいでハズレを引いてしまった。

 社会的地位の高い仕事をして広い豪邸に住んでいる男はチームリーダーが管理することになった。

 絶世の美女として輝かしい仕事をしている女性、その女性の隣にいた男性はチームのなかにいたカップルがそれぞれ担当することになった。

 この二人は倒れていたわけではないが、何やら山の中で争っていた所をカップルのリード役が一目ぼれして勝手に連れてきた。


 貧乏な大家族の稼ぎ柱として日雇いの仕事をしている青年は、この星の人間という生き物を研究したいと言っている変人研究家が引きとった。


 他にも学生、社会人なんか色々いたが、吾輩は日本と呼ばれる区域の七十歳の老婆を担当することになった。


 彼女に関しては皆嫌がったのだ。


 まず倒れていた原因が他の面々と違って、心不全。死にかけていたのを吾輩らが保護したのだ。

 さらには彼女の飼っている下等生物が問題だった。


 彼女に化けて下等生物の世話をしようにも、吠えて威嚇してくる。おかげで吾輩の言語習得は一人だけかなり遅れてしまった。


 翻訳機を使いながら、この生物の体調管理をする。この生物は外で飼われており、彼女は近所でも好かれている人物であった。

 つまりこの生き物に何かあれば、彼女が行方不明になっていることに気づかれてしまう。


 外れくじを引かされた吾輩は一向に調査に行けることなく、やきもきした気持ちを抱えていた。


 言語学習は実施で行うことになったうえ、彼女の治療のために細心の注意を払わなければいけない。

 他の皆は一日で調査のために地球に向かったのに、吾輩は地球と基地シェルターを行き来する生活だ。


「メレ、散歩の時間じゃない?」


「ああ」


「私が見ていてあげるから、しばちゃんによろしくね」


「……」


 船を管理する役目を背負った仲間に見送られ、吾輩は本日二度目の散歩に行くことになった。


 彼女は本来寿命だったのだろう。庭で倒れていた彼女のそばにずっといた下等生物は誘拐した吾輩を恨んでいるのだろう。

 この生き物の知能はどのくらいなのだろうか。変人研究家の博士にでも聞けば分かるだろうか。


 とにかく吾輩は彼女の治療そして、『いぬ』と呼ばれる下等生物を自然に処分する方法を探さなければならない。


「わん!」


「しずか にしろ」


 このいぬにも色んな種類がいるらしくて、こいつは柴犬というらしい。調査の邪魔にしかならない。しかし彼女と交渉する時に、こいつはきっと良い取引材料になるだろう。

 それに既に調査に降り立ったチームメンバーたちは、既に地球に馴染んだようでやたらといぬの写真を求めてくる。


 消す方法より共存の方法を考えた方が良いのだろうか……?

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