第15話 「突然すみません。」
〇二階堂 海
「突然すみません。」
「ううん!!待ってた!!」
ビートランドの会長室に行くと、さくらさんはソワソワした様子でコーヒーを淹れてくれた。
…つい首を傾げてしまいたくなる。
この人は、会うたびに若返ってる気が…
「それで?何?」
目の前に座ったさくらさんは、俺の話に興味津々な様子で。
「…お願いしたい任務が…」
一言そう口にしただけで。
キランッ
「え…っ、ええっ!?ダメだよぅ!!」
口ではダメと言っているさくらさんの目が光ったのを、俺は見逃さなかった。
やはり…
この人は根っからのソルジャーで…
二階堂には欠かせない人だ。
「実は、一条の件で二階堂は国から高く評価されまして…」
「高く評価?」
「…どうして眉間にしわですか?」
「だって…二階堂は世界を救ったんだよ?」
「……」
「なのに…志麻さんや泉ちゃんをSSに引っ張っちゃうとかさぁ…」
…さくらさんの気持ちも分かる。
だが、志麻と泉もまた…ソルジャーだ。
秘密組織ではなくなる二階堂での任務より、自分の過去を捨ててでも生きることを選ぶのは不思議でもなんでもない。
「まあ…あの二人が…望んだことだから…あたしがいつまでもグチグチ言ってちゃいけないんだけどさ…」
唇を尖らせてそう言ったさくらさんは、小さく「んっ」とつぶやいたかと思うと。
「それで?お願いしたい任務って?」
スイッチを切り替えた。と言わんばかりの顔で俺に向き直った。
それを見て、俺も少し背筋を伸ばす。
「実は、二階堂は内務省特別高等警保局に位置付けされました。」
「じゃあ、晴れて秘密組織ではなくなったってことね?」
「ええ…しかし国家機密を扱う任務も多いので、影であることを求められる面もあります。」
「そっか…でも大きな一歩だよね。」
「はい。それで…」
「うん?」
「さくらさんに、警保局…二階堂の特別顧問になっていただきたいのです。」
「へ~、それがあたしの任務……って…えっ?」
「どう考えても、ほかに適任者がいません。」
「………」
急に無言になったさくらさんは、突然ぴょんっと立ち上がったかと思うと。
「…これ、頭…先代は知ってる?」
目を細めて言った。
「ええ。」
「…環さんも?」
「父が推薦したようなもんです。」
「…それで、織ちゃんとか舞ちゃんとか…」
「みんな大賛成ですけど。」
「…うぅ…」
胸を押さえてソファーにうずくまるさくらさん。
俺はその様子を見ながら。
「とりあえず…桐生院に帰って高原さんに相談しましょう。」
さくらさんに手を差し出した。
〇高原さくら
「…それで、さくらに特別顧問になってほしい…と。」
桐生院に帰ると、まずはリズちゃんの熱烈なお出迎えを受けた海さんは。
「リズ、パパは少しお仕事をして来るから、パパの代わりに大部屋の見張りを頼んでいいか?」
真顔でそう言って、簡単にリズちゃんを大部屋に潜り込ませた。
何ていうか…
二人とも二階堂脳だ(笑)
「はい。」
「……」
海さんの短い返事に、なっちゃんは腕組みをして考え込んでる。
そりゃあね~…問題だよね…
だって、あたし…ビートランドの会長だもん。
その傍ら、国家機密も扱う組織の特別顧問なんてさ…
ダメって言われちゃうよね…
…って、あたし、なんだかガッカリしてる?
「…分かった。」
「え?」
海さんと同時になっちゃんを見る。
今…分かったって言った?
「それはー…さくらさんに顧問をお願いしてもいいということですか?」
あまりにもあっさりと、なっちゃんが「分かった」なんて言ったからか。
海さんも驚きを隠せない様子で。
少し前のめりになって、なっちゃんに詰め寄ってる。
「正直…して欲しくないという気持ちもある。だが、帰って来た時のさくらの顔が「やりたい」って言ってたからな。」
「えー!?」
両手で頬を押さえて、なっちゃんと海さんを交互に見ると。
「あー…まあ、俺もそれは…感じてましたけど…」
「えっ!?」
「だろ?」
「ええーっ!?」
海さんは分かるとしても…なっちゃんにまでバレてた!?
…二階堂の特別顧問…
海さんから話を聞いた瞬間、色んな事が脳内を駆け巡った。
なっちゃんが創り上げたお城を、あたしは守っていきたい。
だけどそのためには、日本が…世界が平和じゃなきゃダメだ。
一条は消滅したかもしれないけど、悪は派生して増え続ける。
あたしに何ができるの?って…思うけど…
あたしのできることで二階堂が動けるなら…って。
「まあ…俺に秘密にして現場に行かれるより、ちゃんと把握できた方がこっちも安心だ。」
なっちゃんの言葉に、あたしはハッとして海さんを見た。
だけど海さんは静かに…なっちゃんに分からない程度に首を横に振った。
なっちゃん…この夏の…あの一条との闘いに気付いてたの…?
「俺は二階堂でのさくらのことを知らない。」
「……」
「だが、俺の入院中や出張先で、ふっといなくなっては無傷で帰ってくる。それで…さくらはきっととても優秀なんだろうと思った。」
「なっちゃん…」
「昔から変装の名人で、なんでも器用にこなす…だが、あまりにも度を越えてる。」
「う…」
あれだよね…
インターホンとか…滅菌君とか…
実用的で便利だと思えるものは、なんでも作って来た。
知花もだけど、「買う」って頭がないんだよね…
だって、作れちゃうわけだし…
「一般人としてはあり得ないことを普通にやってのけるさくらは…まだまだ俺の知らない能力を山ほど持ち備えていて、それはきっと…日本だけじゃなく、世界をも救う手助けになるんだろう。」
「な…なっちゃん、それは過大評価…」
「いえ、その通りです。」
「海さんんんん…」
なんだか…なっちゃんに褒められるのは…
うれしい反面、隠し事がバレたみたいな気にもなってしまう。
だって、あたしはなっちゃんに二階堂の顔を見せてるわけじゃない。
普段の、二階堂じゃないあたしだ。
…でもまあ…普通の人がしないことはしちゃうけど…
「形は違うが、俺も好き勝手にやってきた。」
「……」
なっちゃんは立ち上がって窓枠に手をかけると。
「そんな好き勝手をやってきた俺が、さくらの大事な世界を理解できないなんて、そりゃないよな。」
笑顔であたしを振り返った。
「えっ?」
「嫌味でも言わるれと思ったか?」
「あ…あっ、少しー…えへへ…」
「だが、条件がある。」
「…条件?」
少しだけ緊張して、ぐっと胸を張った。
そんなあたしを見たなっちゃんは小さく笑って。
「海。」
「はい。」
「まず、この件は千里と里中にだけは話しておきたい。」
真剣な目で言った。
「…知花には…いいの?」
「いくら以前と形は違うと言っても、まだ動いていない組織だ。知花に不安を与えたくない。」
ああ…
あたしってば、母親なのに…
知花が心配性なの、知ってるはずなのに。
「さくらさん、大丈夫です。きっと打ち明けられる日が来ます。」
「…そんなに顔に出てた?」
「はい。」
「はあああああ…あたし、ダメだね…」
「でも優秀です。誰よりも。」
「…ありがと、海さん。」
そんなこんなで…
翌朝、なっちゃんは会長室に千里さんと里中君を呼び出して。
忙しい海さんは、リモート参加で。
「…と、いう事になりました。」
海さんの説明に。
「…なるほどな。」
腕組みをする千里さんと。
「………はあ……?」
あんぐりと口を開けて。
「えっ?あっ、ああ…そう言えば…えっ、でも…ええええええ!?」
ひたすら驚く里中君に、首をすくめるしかなかった。
〇里中健太郎
「…で……だから…」
………
The Darknessの新曲の打ち合わせ。
一階のミーティングルームに全員集合して、さらには朝霧さんも来てくれて…の今だと言うのに。
俺の脳内は、今朝の会長室での出来事でいっぱいだった。
『さくらさんにビートランドの会長の傍ら、内務省特別高等警保局の特別顧問をお願いしたいのです』
神と二人して高原さんに呼び出された会長室で。
リモート画面の向こうでそう言ったのは、神の娘である『サクちゃん』の旦那さん…
えーと…
「…内務省…」
「まあ、ザックリ言えば『二階堂』だ。」
隣に座ってる神がサラッとそう言って。
俺はますます首を傾げる。
二階堂…
「神は…詳しく知ってるのか?」
「詳しくは知らないが、義母さんは普通の人じゃないからな。」
「ぶーっ!!」
神の言葉と共に、激しいブーイングが飛んできた。
驚いて振り返ると、今まで居なかったはずのさくらさんがそこに…
「…ほらな?いつ来たのか分からなかっただろ?」
神も目を細めてさくらさんを見る。
…確かに…さくらさんは普通じゃない。と、思う。
オタク部屋での知花ちゃんの知識にも驚きだが、さくらさんはその上を行く。
「…それで、その特別顧問と言うのは…」
「まあ、平たく言えば国家機密を扱うような秘密部隊の…」
「千里さーん!!そんなに大げさなことじゃないからー!!」
神の言葉に、さくらさんは大声で止めに入ったけど。
リモート画面に映る陸の甥っ子は真顔のままだ。
つまり…大げさな話じゃない…と。
「…そんな、国家機密を扱うような組織ってことは…さくらさんにも危険が?」
恐る恐る問いかけると。
「今まで傷だらけで現れたことがあるか?せいぜい服を汚してた程度だろ?」
神が目を細めてそう言って、それには陸の甥っ子も小さく笑った。
…さくらさんは、唇を尖らせているが…。
『さくらさんは誰よりも優秀な方です。だからビートランドとの兼任でも大丈夫と踏んでの申し出でした』
「…優秀…」
まあ…大体そつなくこなす人だ。
話には驚いたが、いろいろ辻褄が合うのも確か。
…知り合った頃から、謎の多い人だ。
そう言えば、渡米した時も急にいなくなって、連絡がつかなかった。
もしかして、あの時も…
「で、俺は面白いと思うんすけど…どうっすか?」
「……」
「…里中さん?」
「……あっ、え?」
ふと我に返ると、The Darknessの面々が俺の顔を覗き込んでいた。
結弦が譜面をトントンとしながら唇を尖らせる。
ああ…!!
しっかりしろ!!
「悪い。うん。俺はみんなにお任せで…」
彼らの能力を知ってる。
だから、あえてそう言うと。
「…言うたな?里中。」
ニヤリとしたのは朝霧さんで。
「…え?」
「よし。おまえら思い切り遊べ。」
「よっしゃ~!!」
「まさか里中さんが賛成してくれるとは…」
「じゃあ、Cメロから転調するパターンでいいっすね。」
「……」
譜面を見ると、俺が昔作ったラブソングが大改造されてて…
こんなおっさんがこれを!?と、今更ながらに青くなる。
「祭りや。ノッとけ。」
朝霧さんはそう言って笑ったけど…
あの歌は…
…ああ!!
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