第7話 救出
「数馬焦るな!ストレッチャーは地下から入った。特に、玄関と霊安室の間の壁をビシッと調査しろ!その辺だと一助と金森刑事のGPSが教えてくれている。絶対にある!」美紗の祈りを込めた叫びが響く。
沈黙が流れる。美紗の息遣いが通信機を通して聞こえる。一心と同様ジリジリとした焦燥感に苛まれている。
10分経過して「おーあった!刑事を呼んでくれ!」と数馬の雄叫び。
一心は飯田警部に耳打ちして、刑事を地下に向かわせる。
5分後地下の玄関近くの廊下に刑事と探偵と7名が集まる。数馬が得意げに何も無い壁の少し高い位置にカードを近づけると、ゴーと壁が左右に分かれ隠し部屋が現れる。一斉にどよめきが起きる。暗闇の中でエレベーターが微かな灯りで存在を訴えている。数馬と刑事が次々に乗る。行き先は10階固定。
ゆっくりした速度でエレベーターは沈黙したまま上がってゆく。
やがて、張り詰めた空気を壊さぬように、静かにエレベーターは停止しゆっくりドアを開く。
静寂を破って刑事らが一斉に飛び出す。そして、動くな!警察だ!と叫びながらその部屋にいた医師らを抑える。
数馬は三方の壁にカードを当ててゆく。すると三ヶ所とも壁が左右に割れて二ヶ所に手術室が現れる。その片方は他に出入り口の無い隠れ手術室。もう一方は表の手術室でその先には廊下が繋がっていた。数馬は廊下に出て一心に隠れ手術室の発見を知らせる。
刑事らは隠し手術室にも雪崩れ込み「動くな!警察だ!手術台から離れて」と叫んでいる。
西方刑事と静が院長の行動を抑え、一心と飯田警部は院長宅を飛び出し、真っ先に金森刑事の無事を確認しようとする。廊下から真正面のエレベータのある隠し部屋に飛び込んで、ストレッチャーの上に載せられた閉じたガラスケースの中を覗くと、衣服を纏わず寝かされている金森刑事が横たわっている。「金森っ!」と一心が叫んでも反応がない。
医師に厳しく状態を問いただす。仮死状態にする為の過冷却中だと説明する医師に、すぐ戻せと怒鳴りつける。
医師はあまり表情を変えず、作業に取りかかった。回復まで2時間ほどかかるが、命に別状はないと呟くような声で説明した。
一心は金森刑事の衣類を用意しようとする警部を抑え、衣服一式と新しい下着一式を用意するよう美紗に伝え一助に取りに行かせた。
それから一心は手術中だという奥の隠し手術室に入り2台の手術台に寝かされている年配の男性一人と若い女性一人の顔を覗き込む。
その女性の顔を見てあっと驚く。絵梨花ちゃんだ!と叫び体を揺する。が、既に胸が大きく切り開かれて心臓が外され、太腿から血液を抜かれているところだった。
執刀医師の胸ぐらを掴み「何をしたんだ!まだ高校生だぞ!何の病気も無いと聞いてる。何なんだこれは!」激しく身体を揺さぶり詰問する。
医師が苦しいともがく。手を緩めると、彼女がドナーで午後2時から心臓移植手術を始めたと説明する。
一心は思わず拳を医師の顔面に叩き込んだ。ぐえっとうめき医師が倒れる。
刑事が間に入って一心を抑える。医師の鼻から血が滴り落ちる。
肩で息をする一心。「何人だ!何人殺した!
絵梨花ちゃんが何したって言うんだ!」
心臓を絵梨花ちゃんに戻せと迫ったが、もう彼女は死んでいて心臓を戻しても生き返らないし、男性の心臓はもう機能することは無く、手術を止めれば二人とも死んでしまう、と医師が告げる。
男性の横には人工心臓と思われる装置がグワングワン・・と不気味な鼓動を伝え、傍らのトレーの上では力尽きた心臓が横たわっていた。
そう言われて飯田警部は止むを得ず、男性の手術を続行するよう指示をする。続けて絵梨花ちゃんの出血を止め、傷口を縫合して衣服を、と命令する。
数馬は残りの開いた壁の奥の死体安置所の様な部屋に入る。そして一つの抽斗を引き抜こうとすると、隣の部屋から見ていた医師が「開けるなあ〜!仮死状態が壊れるっ!」と叫んだ。
一心が医師に駆け寄りどう言うことか詰問する。
その医師は顔を背けなかなか喋らない。
数馬はもう一度力一杯引く真似をする。その動作に医師が、待ってくれっ!と叫ぶ。なら、喋れと一心。
一呼吸間をおいた後、移植用に仮死状態にしているドナーだ、と言う。
引き出しは全部で、10列の3段だから、30人もいるのかっ!と一心が詰め寄る。
今は8人しかいないと医者。
すぐに飯田警部に報告し、その医師に全員の蘇生を命じる。
医師の一人が、私は20人くらいとぼそぼそっと言って、のろのろと歩き出し、蘇生しますと呟いて仮死状態の人を保管している引き出しの一つを引き抜く。と、棺のような箱が出てくる。看護師を呼んでストレッチャーに移す。
蓋を開けると液体の中に若そうな女性が眠っているように沈んでいる。一心が覗き込み、わあ〜!柚葉ちゃんだ!と叫ぶ。彼女の頭の上には何かの装置が、微かな生命の営みを伝える様な音を出しながら数値やグラフを表示している。こんな所に居たんだ。可哀想にと思い涙が出そうになる。「これで生きているのか?水に沈んで呼吸もしてないぞ!」叫ぶ声に反応して「水ではなく『アナキシサレン液』という仮死状態を保存する特殊な液体です。だから蘇生できます」と医師が言う。
そんな事が出来るなんて聞いた事がない。一心はそう思いながら「ここにいる全員直ぐに蘇生させろ!」驚き、怒りが込み上げて拳を強く握り締めその後は言葉にならない。
美紗に衣類を3セット用意するように伝えた。
蘇生には一人半日以上かかる為、蘇生した順に警察病院へ移送する事になった。
一心は柚葉ちゃんの両親に警察病院で待つよう伝えたが、絵梨花ちゃんのことは言わずに切った。絵梨花ちゃんの両親には警察から遺体の引取りを含め電話することになっていた。
美紗は病院内のデータからすべての被害者をリストアップして一心と飯田警部に送ってきた。100人を超える名簿だった。そこには〇〇移植とか売却とかの記載があった。
飯田警部は弥井田純加を金森刑事の拉致誘拐と大川原絵梨花ちゃんの殺人そのたの容疑で緊急逮捕し、その場にいた医師と看護師も共犯として取り調べると一心に語った。
全員の蘇生が終わったのは4日後の3月15日だった。
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