第5話 おとり捜査

一心は、必死に水上野外科総合病院の10カ所以上に設置したカメラの録画映像を見直した。

しかし、どう見ても女子高生は7階の休憩室から外に出ていない。じゃあ、何故居ないんだ。休憩室内にカメラさえ設置していたら事実は明らかになったのにと悔やむ。

堂々巡りにしかならない。


一心は全員を集めて、調査方針の変更を伝えた。

「美紗!お前囮になれ!希死念慮大募集のサイトで女子高生になって自殺希望者になるんだ」

「それは良いけど、ボーナスはずめよ」

「ちょっと待って、うちがやります」と静が言い出す。

婆あは引っ込めと、全員睨みつける。

飯田警部に計画を話す。万一に備えバックアップが必要だからだ。

しかし飯田警部に断られた。警視庁も関わる重大事件であり、おとり捜査は警視庁がすでに計画し捜査1課の金森愛刑事がその役を担うことになっているという。

そこで美紗が3年前まで着ていたのセーラー服を貸すので事務所に来るように伝える。

翌日、飯田警部と金森刑事が事務所を訪れる。見た目は美紗と体型は似てそうだ。目が爛々と輝きスリムだが鍛えられた拳を持っている。

静は一眼見るなり「かいらしいなあ」と美紗を横目で見る。

「何よ。悪かったなあブスで・・親に似たもんだからさ」

「ふふふ」っと笑い方も金森刑事は可愛い。

「こらっ男ども見せもんじゃねえ!しっしっ」

美紗が男連中を追い払い金森刑事に囁く。

「本番で通信機とか携帯とか持たされるんだろうけど、これを付けて」そう言って足の親指用のネイルチップを渡す。左右二つ。

「この中にGPS発信機が入ってるのさ。万一警察が把握できなくなっても、これさえ付けていれば必ず救出するから」そう念を押す。

金森刑事はミス警視庁の微笑みを見せて、ありがとうございます、と女子高生っぽい可愛らしい口調で礼を言って、恥ずかしそうに俯く。

本番は翌週の3月5日とし、一人暮らしをしている彼女の自宅で行う事にし、一心らも立ち会うことを許された。


2月末日の朝、これまでのその病院の調査結果を纏めると、酷い状態であることが分かった。

複数の医師の不倫。相手は同じ病院の看護師。院長も不倫をしている。相手は厚生労働省の研究開発振興課の女課長で建華という人物で、聞く範囲では金の受け渡しがあるようだ。

また、一心と一助は7階の独身看護師の二人がよく行く居酒屋で声を掛け、酔わせた上で病院の話を聞くが、不倫や恋愛話と不正経理の噂話で、ケラケラと大声で騒ぎまくり、闇サイトなど無縁の人間に思えた。

そして美紗のハッキング報告によれば、少女の拉致誘拐や違法な手術などに関わるものは発見できなかったようである。


3月5日警察や探偵らが見守る中、金森刑事はサイトに入りニックネームと電話番号を登録した。

翌日再度サイトに入り電話を待つように指示されるまで進んだ。

そして2日後相手から電話が来て、3月10日午後6時半に中野の水上野外科総合病院7階の第3家族休憩室に来るよう指示された。


いよいよその日の午後、金森刑事が事務所にセーラー服姿で現れ、美紗に自分の足のネイルチップの確認して貰っていた。帰りがけ金森刑事は美紗の方を振り向き緊張した表情に笑顔を貼り付け頭を下げていった。警視庁でもGPSや無線機などを持たせたようだ。


午後6時15分女子高生に扮装した金森刑事が水上野外科総合病院の玄関に姿を現した。

「来たぞ!皆んな用意はいいか?全員無線ONのままな」

美紗はカメラで監視しつつGPSの移動も監視。一心と静は車で病院駐車場待機。数馬と一助はバルドローンを車に乗せたまま病院駐車場に置いて、病院内に潜入7階のトイレや面会場などで待機。

覆面パトカーもあちこちに居るようだ。近くに飯田警部も見えた。

突然、ぞろぞろ親類らしい大人と子供が談笑しながら7階の廊下を歩いてきて第3家族休憩室は入る。

既に金森刑事は7階の廊下を歩いている。

そして第3家族控室前まで来て、札が使用中であることに気付いて戸惑っている。その後ろから白衣の男が近づいてきた。そして手招きされて隣の第4家族控室に入った。

「あ〜ダメだ!何だ?別の部屋に入ったらカメラ効かない!」

「美紗!廊下は?」

「そっちは大丈夫だ!で、今の男、この病院の医者じゃない!」と緊張した声で報告する。

「全員、来たぞ!」

金森刑事は15分後廊下に出て斜向かいの会議室に入る。5分ほどでまた控室に入る。

10分後一台のストレッチャーが部屋から出てくる。誰も乗っていない。が、美紗から「移動開始した。」と報告がある。

意味不明だがストレッチャーに金森刑事が乗せられているとしか考えられない。飯田警部に電話すると、GPSは動いていなという。事情を話すと、わからないがそれぞれ自分の守備範囲を徹底し、連絡を密に。と指示を受けた。警部に後は頼む、と言って、半信半疑ながらも全員にストレッチャーを追え、と指示を出す。

7階から地下へ、そしてバンに載せられる。走り出す。

「数馬!一助!バルドローンで追え!」

「静!車回せ!追うぞ!」

「美紗!どっち方面だ!」

「東だ!首都高湾岸線だっ!」

美紗からの指示が飛ぶ。

「数馬!お前今真上にいる!車見えるか?」

「美紗、居たぞっ、一助!俺が見えるか?」

「お〜お前の後ろ百メートルだ」

「二人ともそのまま。気づかれるなよ〜見失うなよ!」

飯田警部から電話が入る。

金森刑事の携帯やGPSだけでなく、衣類や下着までもが掃除のおばさんが集めた控室のゴミの中で発見された。

金森は丸裸にされストレッチャーに隠され運ばれたとしか考えられないという。

会議室の男女2名は単なるアルバイトの医大生で身体測定と採血をして、それを控室のテーブルに置くまでが仕事だったという。その後のことは分からないと言ってるそうだ。

それで、こっちは湾岸線を東に向かっている事を知らせる。

「数馬!何処まで行った?」

「おう、今、千葉県に入ったかな」

「美紗!数馬の位置は?」

「357号線、間も無く都川を渡る」

「サンキュー、飯田警部にも伝える」



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