第3話 さらなる疑惑


それから、3ヶ月は進展がなかった。

分かった事と言えば、あの部屋が医師と看護師の密会場所になっていること。外で浮気している医師も多い。

看護師に派閥が4つほどあって、イジメが横行していること。くらいだ。つまらない。

ところが、10月1日午後6時15分玄関から制服姿の女子高生が入ってきた。

一助が見つけ「一心!女子高生だ!」

皆んなで行き先を見つめる。

エレベーターに乗った。7階のボタンを押した。そして、休憩室のドアをノックする。

「一助、数馬、現場急行!」

一助はバルドローンの用意をし外へ。

数馬はのんびり。一助が出た後飛び立った。

俺と静は車で急行する。

「美紗!様子は?」

「誰だ休憩室にカメラセットしたのは!別の部屋じゃねえか!・・・それと・・・今、医者姿の男が休憩室に入ったけど、ここの医者じゃない。顔が登録されていない」

「分かった。一助!何処だ?」

「空のうえ、あと10分で病院」

美紗からの連絡では、休憩室に入ったまま15分経過し、女子高生は廊下にでて向かいの会議室に入る。そこも盗聴の対象外。

10分ほどで再び休憩室に戻った。ということだ。

数馬も病院に着いたようだ。

午後7時20分。道路に車を停め静を残して病院内に入る。

美紗から次々無線が入る。

「一心!休憩室にストレッチャーを持って男が入った。女子高生は室内」

3分ほどして「ストレッチャーが出てきた。誰も乗せていない。毛布がバサっとかけられているだけだ女子高生は室内だ」

美紗からの報告で、確信した。

女刑事に電話を入れる。

「なに?」と女刑事は冷たい応答。

「今、あの病院で女子高生が1名休憩室から出てこない。拉致だ!。俺らは部屋に向かう」とだけ言って切った。

空のストレッチャーを載せたエレベーターが降りてくる。

地下まで行ってから1階にくる。それに乗って7階へ向かう。

美紗から、休憩室に掃除のおばさん入った。ゴミを回収したみたいだ。大きな荷物は無い。と報告。

一心は7階休憩室のドアを無言で開ける。

誰もいない?。

掃除のおばさんを呼び止め聞くが誰も居なかったよ。と不審な顔をされた。

「一助!数馬!病院内全部当たれ!」

そうは言ったが何故女子高生が消えたのか皆目見当がつかなかった。

出入りしたのはストレッチャーとおばさん。

ストレッチャーは反対側もきちんと見えていて人を隠す場所は無い。おばさんも人を隠すような物は持って無いし、休憩室内に隠し部屋とかも見つけられなかった。


1時間後、一助も数馬も収穫無しだ。


飯田警部が到着した。事情を説明。

警部は院長に面談を申入れる。

一心も手招きされ院長室で院長に会う。

一心から状況を説明すると。前にも話した通り休憩室は開放していて誰がどう使っているかは分からない。との繰り返し。

拉致誘拐の可能性があり、まだ病院内にいると詰め寄ると、院長は自由に調べて下さいという。しかし、何事も起きていなかった場合きちっと謝罪してもらうと釘を刺された。

その後、警官数名と我ら4名と病室、トイレ、手術室、関係者の休憩所、部屋という部屋は全部開け、天井裏まで捜索したが、何一つでない。

2時間後、警部は院長に深々頭を下げ、2度と同じ事はしないと約束し、院長も今回だけは警視庁への苦情は言わない、と言ってくれた。

一心も直角に身体を折った。



「急いでくれっ!後何分だ!」

「はい、新宿の山之内ビルですから、あと10分で着きます」

「悪いな、いつも安全運転だなんて偉そうに言ってたのに・・チョット大口取引なもんだから」

「はい、社長、分かってます、社長は気を使われる方ですから、よっぽど急ぐんだなあと思ってます」

「そうか、ありがとう伊藤くん」

午後3時の約束。玄関前に3分を残し着いた。

「ありがとう、間に合った!専務行こう」

「お仕事の成功を祈っております!」

階段を走り3階の山之内貿易の事務所に着いたとき、丁度午後3時だった。汗が流れ落ちる。

「一本柳です。遅くなりました」

受付嬢が内線電話で来店を社長室に繋げる。

「どうぞ、こちらへ・・只今、社長が参りますので、少々お待ちください」そう言って下がる。

ソフアに座り汗を拭きホッとした瞬間。ズッキンと心臓をナイフで抉られるような激しい痛みに襲われ、ぐわっと呻き一緒にきた立木専務の膝の上に倒れ込む。

「社長!一本柳社長!・・どうしました!」

その叫び声はあっという間に遥か彼方へ消え去ってゆく。


気が付いたのは、天井が白い、病室らしい。

妻の葵が横にいる。泣き疲れた顔をしている。

「おっ、ここは?病院か?」

「貴方あ〜!・・やっと気が付いたのねえ・・あっ、笹島くん先生呼んできて!」

「どうした?お前そんなに泣き腫らして」

「何言ってんの。貴方死んだのよ!」

「ばか、俺生きてる」

「そうじゃなくって、狭心症!倒れて3日目よ!今日は・・」

「おっ、そうかあ、それは心配かけた・・」

「立木専務さんから電話きてビックリしてもう!脅かさないでねっ!」

「それは、悪かった。・・・そうだ!契約はどうなった。専務なんか言ってなかったか?」

「相手の社長さんが救急車の手配してくれて、専務が社に電話入れて部長とかなんか3、4人駆けつけて、相手の社長さんへの説明だとか、なんだとか皆んな必死で、それが相手にも伝わって、契約成立したそうよ!相手の社長さんにも、専務さんや部長さんにも、お礼しなきゃダメですよ!」

「分かった。で、いつ退院できるんだ?」

「何言ってんの〜これから検査よ。ただの狭心症じゃないみたいなこと先生言ってたから」

「子供たちはどうしてる?」

「毎日、代わりばんこに来てるわよ・・さっき帰ったばかりよ」

そこへ先生が入ってきた。

「一本柳一さん!やっと気がつきましたね。良かった。奥さんから聞きましたが、なんぼ貿易会社で年商300億とか言っても、病気には勝てませんから、明後日、検査します。病名はまだハッキリしませんが、簡単な病気ではありません。心臓ですから。ストレスは禁物、会社は暫く休んで頂きます。・・死にたくなければですが・・」

「先生!脅かさないで下さいよ〜言う通りにしますから」

「うん、その調子。なんか事務員だった奥さんを見染めて、強引に結婚を迫ったらしいじゃないですか・・・子供さんも3人ですか?・・・幸せ絶頂というところで、一旦休憩です。病気治したらまた、頑張ってください。いいですね!」

・・・

先生が病室を出た後葵を手招きする。

「おい、葵、お前何先生に喋ってんだ!」

「あら〜、あんな事言ったかしら〜」

「とぼけんな!お前が言わなきゃ誰が言う!」

「まあ、そりゃそうじゃ!・・はははっ」


それから1週間して2026年の9月末、検査の結果、突発性心筋症だと先生に言われた。

取り敢えず一命は取り留めたが、治すには移植しかないと断言された。さまざまな薬を投与しても余命は5年余りと告げられた。

突然の死刑宣告に妻は泣いて医師に「何とかならないの?・・移植は?・・この医学の進歩した現代で、こんなに元気な人がそんな急に、どうしてそんな病気になったの?すぐ移植してほしい!」と食い下がった。

医師は「ご家族のお気持ちは分かりますが、ドナーさえ見つかれば移植は年間数十件も全国の病院で行われているので、勿論、当院でも可能ですが、・・奥さん!・・問題は提供者がいるかという事なんです」

心臓を移植するという事は、自分に適合する人が死亡するということだ。

頭から血がすーっと抜けてゆくのがわかった。

「仮に移植するとしても現在でも都内で20名程の患者が待っていて、その後となるので5年以内に移植できる保証はありませんが・・・いずれにしてもこのまま入院しているか、一旦、自宅で療養されるかになります」

そう言われて返す言葉が見つからなかった。


私は、自宅に戻りベット生活をすることにした。会社は、専務にゆずり、自分は会長職ということにして一線を退いた。


死の宣告から2週間ほど経った日、葵からとんでもない提案を受けた。

何とか移植できる病院を探そうとしてネットで調べていて、ある闇サイトに行き着いたそうだ。

そのサイトに入り込み、内容をよく見ると、どうやら違法な手段での移植らしい。

その病院では色んな臓器の移植を受けていて、保険が効かないこと、他言無用とあること、心臓の場合は事前に1億1千万円を支払い成功報酬として同額を支払うというモノだった。

成功とは一年間生存した時と定められていた。

藁をも掴む気持ちで、その内容を私に打診してきたのだった。


そんなもの信用できないと私は思った。所謂、闇サイトだ。高額な金を取って何処かへ逃げるに決まってる。

しかし、葵が諦めてくれない。11月の初め、葵はその相手に会ってきた。

葵の話だと、厚生労働省の幹部と太いパイプがあり、人命を救う為の行為であり、優先順位をお金で買うと理解して欲しいと言われて来た。

自分でその病院のサイトを調べると、普通の総合病院で、ベット数は200名余りらしい。外科、整形外科、内科など各種の診察科があり、地元では有名な病院らしい。

ただ、手術の情報が他に漏れた場合は、手術は直ちに中止になると念を押されてきた。

申し込みと同時に前金を支払い、キャンセルしてもお金は戻らないようだ。


私に資産はある。数十億円の預金や有価証券、その他にも不動産が多数ある。海外資産も多額に上る。

5年後といえば、まだ、55歳だ、楽しみは数限りないだろう。数億円でその5年という余命が延びるのであればやりたい。

自分の中にそういう思いが日増しに強くなってくる。

自宅のベットで横になっている時に欲求が自制心を超えた。

「葵!いるか?」

「なに?・・・決めた?」

「おう・・どうして分かった?」

「何年一緒にいると思ってるの?やるんでしょ!」

「ん〜、どうかな?良いかな?」

「当たり前です!やるしか無い!と思ってたわよ・・・ず〜と・・」

葵は涙を浮かべて喜んでくれた。

「貴方が、一生懸命働いて稼いだお金だもの、自分の命のために使って何が悪いの?」

「俺は、金で順番を越えて先に手術を受けるってとこに引っ掛かってたんだ」

「あなた・・今どき、珍しいくらい真面目というか・・私は断言できるわよ!全ての人、お金で家族の命が救えるなら、順番をひっくり返しても手術でもなんでもするわ!・・・逆に、しない人が居たとしたら、それは、命よりお金が欲しいと思ってる人ね!」

「分かった、お前のいう通りだ・・明日にでも申し込んできてくれ、定期解約してその金振り込んで・・」

「うん、明日行ってくる・・・良かったあ」

・・・

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