第38話 ぶつかり合う二人
「データは既に十分、こちらから行かせてもらう!」
「いいや、先行は俺だァ!」
取り合う様に、二人の魔法が炸裂した。
エンターが放ったアイスバレット。
リューリが放った火球。
(データの上では、僕と今の奴の力量は互角だが……)
ぶつかり合った赤と青は、水蒸気を上げながら対照的な互いを殺し合い、少しだけアイスバレットが残った。
ぶつかり合った場合、形の不安定な火より、固形である氷の方が残り易いのだろう。
リューリの炎から生き残った氷片が、リューリの頬を掠め、肌を切る。
だが、そこまでだ。
致命傷にはならない。
リューリは、致命傷以外の攻撃は基本避けない。瞬きもしない。前へと歩き続ける。
前へ前へのバトルスタイルは、例えトーナメントを無傷で駆け上がろうとも変わらない。
変わっていない。
そして、それはエンターのデータ通りだった。
「僕の手のひらで踊って貰うぞ、リューリ!」
「なら、その手のひらを貫いてやるぜ!」
エンターが叫び、リューリが
その足元には、薄く青く輝く幾何学模様。
魔法陣を踏んだら、地面から氷柱が生えてくる魔法——————つまりは地雷だ。
そして、それはリューリの打つ全ての手を読む最強のデータ男、エンターによって設置されている。
当然、リューリはそれを踏む。
だが、リューリは凶悪に笑う。
「お前が俺の打つ手を全て読んでいる事を、俺が読んでいない訳がないだろうがァああああああああああッ!」
それは、あまりにも野蛮な回答だった。
地球を蹴り沈めるかの様に、力一杯踏み締める。それだけ。
それなりの硬さがある筈のコロッセオの地面にクレーターができる程、強く。
エンターが拳を掲げると、リューリの足が魔法陣を踏み砕くより一瞬早く、魔法が作動した。
「僕のデータは、"僕が貴方の打つ手を全て読んでいるという事を貴方が読む事"まで読んでいるッ!」
「無効を無効にするのを無効みたいな事を言いやがって——————だが!」
地面からせせり出でる氷柱。リューリの腕より二回り太いだろうそれが、頭を出した瞬間に、リューリが踏み込んだ足とぶつかった。
「踏み砕いてやる……」
魔法の超常パワーと、単なる脚力の戦い。
バキ……
それが何処から出た音なのか分からない。
「疾ッッッ!」
だが、そんな事を確かめるより早く、エンターは氷槍の一閃を放っていた。
(奴の意地なのか気合いなのかで致死のダメージを食らっても向かって来るのに前回は苦しめられた……だから、もう奴が動かなくなるまで一瞬たりとも攻撃の手を緩めない!)
足元と、右前。二方向からの攻撃。
避ける事は叶わない。そんな温い手を打つ相手ではない。
だから、リューリは踏み込むその足を止めなかった。
「うおおおおおおおおおおおおお!!!」
裂帛の如き気合いを叫び。足元の氷柱を破壊、右前の氷槍を左腕で受け止める。
手のひらが貫かれ、焼ける痛みと氷の冷たさという相反する苦痛が同時にリューリを襲った。
「だがっ……捉えたぜ!」
エンターの氷槍がリューリの手に引っ掛かっている。
(武器を捨てなければこの間合いから脱せない。脱さないなら至近距離で強力な攻撃を当てる……いや、狙いはその両方ですか!)
一瞬の硬直。
エンターの動きを注視するリューリと、データから最適解を導くエンター。
そして、エンターの指先が動く——————
「ここだあああああああああああ!!!」
その刹那、リューリの瞳が光った。
そして、爆炎がエンターの右半身を襲う。
「スカーズ・スペル。俺の左手の痛みを触媒に同じ苦しみを味わわせる……ただし、お前は全身で味わいな。」
半身を焼かれ、膝をつくエンター。
しかし、その瞳は死んでいない。
その腕は、氷槍を離していない。
「分かっていた……分かっていたさ、こんな痛み——————ッ!」
氷槍が、リューリの左腕を引き裂いた。
「チィッ!」
(中指と薬指がぶっ飛んで、筋の辺りにかなりの深傷……こりゃ、試合終わるまで左腕は駄目だな……)
冷静に分析しつつも、度重なる激痛で額に脂汗が滲む。だが、それは相手も同じだ。
「前はちょっと刺しただけで意識飛びかけてたのに、随分と我慢強くなったモンだな……」
「ああ、信じられないぐらい厳しい師匠に鍛えられましてね。」
「はは、そりゃ、奇遇なモンで……」
肩で息をしつつ、睨み合い、にじり寄る二人。
傷が痛くて、喉が枯れるように苦しくて、足が泥のように重くて——————それなのに、二人は笑っていた。
自分の打つ手を全て読んでくる強敵。
全てを読み切ってなお、ほんの一筋の勝機しか見出せない難敵。
((お前相手なら、己の全てを出し切れる!))
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