第37話 覇道の先に、待つ相手。
「——————なぁ、自分にはどうしようもない、圧倒的恐怖に襲われた時、どうすればいいと思う?」
目の前の旧制服(学ラン? とか言うんだったか?)の男は、Fランクとは思えない圧倒的な力で僕を蹂躙し、這いつくばった僕にそんな質問を投げ掛けた。
Aランク中堅程の実力を自負する『砦のミカロ』こと僕は、頭の内側に冷たい触手を何本も突っ込まれたような理解不能な気味の悪さを感じずにはいられない。
防御とカウンターに秀でた僕の魔法を一度も受けずに掻い潜り、たった一撃で僕の膝に土を付けた。
真っ向からの削り合いや、読み合いなどとは違う。
戦っていても、競っていない。勝負になっていない。
Sランク相手に戦った時ですら、こんな感覚は覚えなかった。
「それはな——————自分自身が、"恐怖"になる事だ。」
次の瞬間、僕の意識は消えていた。
そして翌日、起きた時には全てが終わっていた。
とりあえず、僕は見に行く事はないだろう。
自らを、"恐怖そのもの"と謳った、あの男の結末など。
「下法魔術、"自分喰らい"」
一瞬前までリューリが立っていた場所から鋭い氷柱が飛び出す。
「ぐああああああああ!」
真下という、完全に意識外からの攻撃は、対戦相手の無防備な腹部を貫いた。
「これで、四つ。」
斬り捨てるように一言そう言うと、リューリは次の戦いへと向かった。
「死ねぇえええええ!!!」
氷剣を掲げてSランクの男が突撃してくる。
「大層な叫び声まで上げてくれちゃってまぁ……どんだけ親切なんだよ、お前。」
「——————え?」
鳩が豆鉄砲を喰らったような顔。
気付けば、男の腹に拳大の火球がめり込んでいた。
「詠唱短縮による速射だ。——————これで五つ。」
「ジャイアントキリングでいい気になってるんだか知らないけど、魔力量でFランクがSランクに敵う筈ないわ!」
気の強そうな女子が、魔力を帯びたネットを投げ付ける。
ネットであらゆる動きを封じ、後はリューリの魔法的バリアが貼れなくなるまで魔法を浴びせ続ければ簡単に勝てるという訳だ。
「真正面からネットを投げるのはナンセンスだぜ……そいつの本質は【罠】だ。故に、相手を出し抜いてブチ当てるッ!」
リューリは踵を翻し、風を蹴り出した。
身体的アクションによる魔法詠唱である。
蹴り出されたその風はネットにぶつかり、相手の方へと運ぶ。
「しまった!」
気の強そうな女子は、自分が放ったネットに絡まってしまったのだ。
そこへリューリがゆっくり近づくと、拳をパキパキさせながら言った。
「さて、どうしてくれようか。」
「降参しますぅーーー!」
(これで、六つ。)
リューリは、一学期の苦戦が嘘のような快進撃を見せていた。
六試合やって、無傷。
リューリは、とうとうトーナメント決勝戦へと駒を進めたのだった。
「——————そう言えば、お前が居たな。」
コロッセオのゲートを潜ったリューリの視線の先には、当然、あの男が居た。
エンターは白いブレザーをぴっちりと着こなし、眼鏡を軽く押し上げる。
眼鏡に一瞬光が反射し、その後、リューリは男の眼を見た。
燃えている。
鋭く、けれど憎しみや恨みの混じらない純粋な闘志。
「待っていましたよ、貴方と再び相見えるこの時を!」
「そんな闘志(モン)をぶつけられたら、流石の俺も滾っちまうよ。」
リューリの頬が自然と吊り上がる。
白と黒。
二人の男がスタートラインに立った。
双方の距離はおよそ10メートル。オーソドックスな魔法戦の間合いだ。
(今、この瞬間以外の事を考えたら負ける……全ては、勝利した後に考えるか。)
(僕は運が良い。一回戦ではなく、決勝で当たれたのだから。トーナメントでこの男の試合を見れたのは四回。以前とは別物だと僕のデータが言っている……だが、それは僕だって同じだ!)
殺気がぶつかり合い、紫のスパークが可視化する。
張り詰めた糸の様な緊張が、コロッセオ全体に伝わる。
大魔道祭トーナメント決勝戦。
エンターvsリューリ。
突き詰める男と、龍の道を往く男の戦い。
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