第21話 ドラゴンの里に行ってみた!




 アシェッタ=ドラゴンの背中に乗って数時間。

 越えた山の数が数えられなくなる頃、ドラゴンの里に辿り着いた。

 山と山の間、岩が露わになっている様な灰色が、ぽっかりと緑の海に穴を開けている。

 殺風景だが、何処か神秘的なこの場所がドラゴンの里らしい。

 アシェッタは俺とドラッグが背中から降りたのを確認すると、人間体に戻った。


 「ようこそ、私の故郷へ! まぁ、滅びちゃってるけどね。」

 「お邪魔します。」

 「おっ、お邪魔しま〜す……」


 灰色の地面、降り立ってみて分かったが、この砂みたいなのは、全て灰だ。

 足裏からは、確かな熱を感じる。

 ここが、アシェッタの故郷か。


 「随分と寂しい場所だよね……」


 アシェッタは自嘲気味に頬を掻いたが、


 「そうか? あったかくていいと思うけど」


 俺はきっぱりと否定した。


 「あ、暑い……」


 その傍らで、ドラッグがダウンしている。

 俺とアシェッタは薄着だが、ドラッグはいつもの白衣を着ている。

 そりゃ、暑いだろうよ。


 「白衣脱げば?」

 「いっ、嫌っ!」


 うおっ、いつになくキッパリ言うな……

 女の子には、知られたく無い秘密の一つや二つあるモンなんだろう。

 いつも世話になってるし、これ以上追求はしないでやるか。


 「まっ、とりあえず水やるよ」


 水筒を投げ渡す。道中はそんなに飲まなかったから、まだ中身はある筈だ。


 「はへっ! こ、これ間接……」

 「? 何か言ったか?」

 「おーい、早く行こーよー!」


 ドラッグがわちゃわちゃしていたが、アシェッタが先に行っているで、俺は気にせずアシェッタを追った。




 一通りドラゴンの里を歩き回ったが、灰しか無かった。


 「ここまで何も無いって、一体ここで何があったんだ?」

 「話長くなるけど聞く?」


 アシェッタが下から見上げる様な目で訪ねてきた。

 その瞳からは、何処か陰りが感じられる。


 「要点だけ頼む」

 「最強のドラゴンが来てめっちゃ火を吹いて全部燃えた」

 「おっ、おっかないね……」


 では、この灰から感じる熱はその最強のドラゴンの炎によるものなのか。

 アシェッタの感じからして火を吹いてから年単位の時間が経ってる筈なのに、まだ熱が残ってるとかスケールが違い過ぎるな……


 「じゃあリューリ、この灰食べてみよっか!」

 「何故そうなる」

 「それが、ドラゴンの力のヒントになる筈だよ。まだこれだけ熱いし、アテは外れてないみたい」


 正直不信感しかないが、アシェッタが言うのだ。やってみよう。

 リューリはしゃがんで、地面に手を突っ込み、出来るだけ下の方から灰を掬った。

 恐る恐る、それを口に運ぶ。


 「まっ、まじ……?」


 側で見てるドラッグが思いっきり引いているが、ええいままよ!

 ぱくり。


 しょっぱ苦い。


 「あっ、あんま美味しくないからサッと飲み込むのが良いよ!」

 「アドバイスありがとう! 出来ればもっと早く教えて欲しかった!」


 軽口を言い合うのもつかの間、リューリは身体が熱くなるのを感じた。

 これは……


 魔力循環。

 血の巡りと同じ様に、魔力や気が身体を巡っているという概念だ。

 リューリは、それを感じていた。

 激しい運動の後、心臓が加速し、血の巡りを意識する様な感覚に近い。


 そして、魔力循環には心拍と同じ様にリズムがある。

 人間でそれを実感できるのは、魔力量の多いSランカーの更に上部に限られる。

 だが、リューリは今、それを実感していた。

 ドクン……ドクン……

 心拍より遥かにゆっくりなそれは、まるで命よりももっと大きな何かの鼓動だ。


 「リューリ、リズムだよ! リズムを覚えて!」

 「あ……ああ!」


 未知の感覚に一瞬惚けてしまったが、アシェッタの言葉で我に帰ったぜ。

 ドクン……ドクン……ドクン……

 俺はその雄大なリズムを、身体の芯に刻み込んだ。


 「しかし、どうして俺に魔力循環の鼓動が……?」

 「ドラゴンの影響を受けた灰によって、ドラゴン的感覚が共鳴され、リューリに鼓動を聞かせたんだろうね。」

「すげぇ理屈だな……」


 まぁ、俺はドラゴン博士じゃないし、こうだって言われたら納得する。

 めちゃくちゃだが、ドラゴンがドラゴンの言葉を言っているのだから、そうなのだろう。


 「こっ、鼓動はいいとして……実際あっ、どうすればコントロール出来るのかな……?」

 「ドラッグ君、いい質問だね。」


 アシェッタは変な口調になって、何処からともなくメガネを取り出した。


 「そもそも、リューリが今聞いたのは、多分最善の状態の鼓動なんだ。実際の鼓動はもっとぐちゃぐちゃになる。だから、今聞いた最善のリズムを維持すればいい。」


 「アシェッタせんせー質問です!」

 「何かねリューリ君。」

 「リズムを維持する方法が分かりません!」


 「視野を広くしたり、自己のイメージを大きくしたりするとリズムがゆっくりになって、逆に視界を狭めたり自己のイメージを小さくすると早くなるから調整してみて」


 ふざけた小芝居をしているが、そのアドバイスは的確で分かりやすい。

 リューリは、久々に人の教えをまともに聞いたのだった。




 「そっ、そう言えばアシェッタは、力のコントロール方ともう一つ、天使攻略の手掛かりがあるって言ってたよね……?」

 「神話の時代にドラゴンと天使が戦ってたから、そん時の資料でもあればと思ったんだけど、探した感じ全部燃えちゃったみたい……」

 「ざ、残念……」


 「それじゃ、そろそろ帰ろっか」


 「あっ、待ってアシェッタ……素材拾ってきたい」


 白衣の懐から、幾つかの小瓶を取り出したドラッグ。

 彼女はテキパキと、小瓶に灰を詰めていく。そこに、普段の鈍臭さはない。


 「この感じだと、もしかしたら近くに松茸が生えているかも……」


 松茸と言えばスーパーレアの高級食材だ。

 街で売ればそれなりの金になるだろう。


 「天使と戦う為の武器代もいるし、少し収穫していこうよ」


 「お、おう……お前って知ってる事になると急にハキハキ喋るよな……」

 「はっ、はへっ!? そうかな……」


 いつものドラッグに戻った。


 「日が落ちるとヤバい魔物が出てくるから、早めに済ませちゃおうか」


 「分かった!」「りょ、了解……」


 それから俺達はドラッグの指導の元、幾つかの素材を調達。

 そして、そそくさとドラゴンの里を後にするのだった。

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