第22話 最強天使の素敵な学園(支配)生活
アマミヤから這い出できた天使。
彼女の話をするにはまず、この世界の黎明————神話の話をする必要があるだろう。
まだ人が生まれる前、世界を創りたもうた神と、その使徒である天使が世界を総ていた。
だが、突如として誕生したドラゴン達は、世界の覇権を得ようと神に挑む。
戦いは長きに渡った。
大天使ミカエルと覇龍ガルビオンとの戦いは海を割り、熾天使アーゼウスと紫龍ポイジアの戦いで大地は死に絶え、堕天使ロビンと龍皇ジークフリードの戦いで世界は正しい道を外れた。
戦いの果て、神はこの世界を見限り、天使達を引き連れてこの世界から去って行った。
こうして、ドラゴンが地上の覇権を握り、長い、長い年月が流れ、人の文明が生まれ、今に至る。
これが、一般的に語られるこの世界の神話だ。
だが、この神話には抜けがある。
神が天使を連れてこの世界を去った時、取り残された天使が一人だけ居たのだ。
天使ザラギア。
そう、アマミヤから這い出できた天使こそ、その天使である。
元はアマミヤの姿をしていたが、アマミヤと完全に分離した事で天使は元の姿に戻っていた。
幼い少女の様な体躯で、カーテンの様な服を素肌の上に纏う。アマミヤと似た白い髪色だが、ロングヘヤーで、先端はウェーブがかかっている。そして、背中には勿論白い翼。
彼女は魔法学園エンドランドの生徒達を洗脳し、全裸で組体操をさせた。
種目はピラミッド。
半壊したコロッセオの中心、全裸ピラミッドの頂上に、彼女は鎮座している。
「きゃーっはっはっはっ! アマミヤが変な気を起こして無理やり引き摺り出された時はヤバいかと思ったが、やっぱりアタシって最強だったわ! なんの問題も無えええええええええええええええええええ!!!」
天使は、調子に乗っていた。
龍皇ジークフリードが、天使の残党=ザラギアを狩ろうとしていると言うウワサを耳にし、ビビって人間に寄生して隠れていたから、ザラギアが元の姿に戻ったのは、実に数百年振りだ。
「久々に身体を動かすのは、気持ちいいわ!」
今は、久しぶりの身体を謳歌しよう。
ザラギアがそう考えていた時だった。
「コキュートスバイツっっっ!!!」
校舎の半分程はある、巨大な氷柱がザラギア目掛けて飛来してきた!
その先端には、魔法学園エンドランドの由緒正しい制服を、ぴっちりと着こなしたメガネ男が乗っている。
「あ? 何だよお前?」
「僕はSランク残党、論理のエンター。よくも僕の学園をめちゃくちゃにしてくれたなっ!」
「めちゃくちゃだぁ? それってSランクとか言って粋がってたボケ共を椅子にしてやった事か? それとも洗脳したカス共を使って同士討ちさせた事かぁ?」
「くっ……僕のデータの新しい項目に、天使は屑、と書き込んでおこう」
「お前存在が負けフラグなデータキャラ(笑)かよ! データも無い初対面の相手に無茶すんなよ、ギャハハハッ!」
「ああ、確かに君のデータは無い。だが、データが無いというデータがある。そして、データが無い相手に立ち向かう為のデータを、僕は持っている!」
「けっ、詭弁じゃ勝てねぇってデータを叩き付けてやるぜ!」
ザラギアは四つの光の球を己の背後に展開した。
待機状態の天使魔法。自由なタイミングでレーザーが出せる。
「オート、距離133cってとこかね」
「消し飛べえええええええええええええええええええええええええ!!!」
エンターの放った氷柱が轟音を立ててザラギアに迫る。
ザラギアと氷柱の対比は、まるで子供とトラック。
当たればひとたまりもない。が、当たる訳がない。
白き一閃。ザラギアのレーザーが左右から一つづつ発射され、氷柱を打ち砕く。
「まだだッ!」
氷柱が破砕する瞬間、エンターは氷柱を蹴り、高く飛び上がった。
右手を天に向け、魔法を詠唱する。
「そっちが本命か!」
ザラギアもエンターの策に気付いたが、もう間に合わない。
エンターの魔法が完成する。
「この地に染み付いた血の跡よ、勇猛なる戦人よ、コキュートスなるエレメントの力を以って、今この地に終焉を齎せ——————」
掲げられたエンターの手のひらの上に、コロッセオから吹き出した赤い霧が集まっていく。
そしてそれは凍てつき、固まり、やがて、太陽を隠す程に巨大な岩となった。
「ブラッドメテオ!」
「なっ、デケぇ!」
巨石が、ザラギア目掛けて落ちる。
オート発射のレーザーが巨石目掛けて飛んでいくが、物量が違い過ぎる。当たって、巨石を少し削っても、まるで意味を成していない。
「潰れるがいい、コロッセオで戦った生徒達の、華々しい歴史と共に!」
「チッ、クソ……予想外だわ、そこら辺のカスにこれを使わせられるなんて……」
「何を—————————ッ!」
「我命ず。神の使者の権限以て、荒ぶる力を沈めたまえ!」
ザラギアの右腕が眩い光を放った。
「天使魔法、
ザラギアは巨石に向けて、パンチを放った。
高速道路で走るトラックの前に飛び込み、それを片手で止めようとする程の無謀。
しかし、
巨石はパンチが当たった所から白い羽毛に変化していき、やがて真っ二つになってコロッセオに落ちた。
「アタシの天使魔法の前ではどんな攻撃も、意味無ぇーんだよッ! 残念だったなデータ野郎!」
「—————————ッ!」
全ての力を使い果たしたエンターは、なす術も無く落下した。
が、
「よっと」
ザラギアはそれをキャッチした。
「テメーは下等生物にしては中々手こずらせてくれたからな、アタシの奴隷にしてやるよ」
光栄だろ? とザラギアがいやらしい笑みを浮かべてエンターを見下ろすと、エンターは氷のナイフで自らの腕をザクザクと切り裂いていた。
「はっ! 自分の身体を傷付けて洗脳に抵抗ってか! 意味ねーよバァーカ!」
ザラギアの瞳が、怪しく光ると、エンターはがっくりとうなだれ、ナイフを取り落とした。
そして、再び目を覚ますと——————
「ザラギア様、こちら最高級の青汁でございます。データによれば、健康に良いと……」
「このデータバカっ! マジでうるせぇ……」
ザラギアの忠実な奴隷となっていた。
何人もの生徒が屈した相手に果敢に挑んだ勇者の面影はまるでない。
あせくせと走り回り、自らの研鑽の為に集めた己そのものであるデータを惜しみなくザラギアに捧げている。
その姿は無惨だ。
制服をぴっちりと着こなしていた彼らしくもない、ノースリーブ。
しかも、傷付けた腕の治療もされておらず、腕から血がポタポタと零れ落ちていた。
天使ザラギアはリューリに妹を殺させる原因を作り、アマミヤを睡眠不足にし、エンターを洗脳して弄んだ。
何たる非道。
悪虐は、悪趣味なピラミッドの頂上に座し、悪辣なる高笑いを上げた。
最早、魔法学園エンドランドは悪魔の居城。
コロッセオに散乱する白い羽毛とは対照的に、空には暗雲が立ち込めていた。
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