第20話 ドラゴンの里に行ってみよう




 リューリは過去の惨劇を一通り三人に話した。


 「……まぁ、私はリューリが生きててよかったって思うよ。」


 アシェッタは、何処か冷めた様な目で窓の方を見る。


 「情が無いって思うかい?」

 「いや、きっとそれでいいんだ。そして、俺はアシェッタにそう言って欲しかった。」


 アシェッタは俺を非難しなかったが、積極的に慰めようともしなかった。

 自分を許せない俺にとって、それが何より心地がいい。

 リューリの頬を、熱い液体が伝った。

 それは、温い血とは違う。熱さがあった。


 「でさ、話続けていーい?」

 「あっ、アマミヤさん、さっ、流石に空気を読もうよ……」

 「いや、お前らにとっては無駄話だったよな。話の腰を折って悪かった。」

 「まっ、ボクは全部知ってたからね〜」




 「てっ、天使ザラギアが全部悪いよね、よく考えたら……」


 沈黙の後、思い付いた様に声を上げたのはドラックだった。

 彼女にしては珍しい。きっと沈黙に耐えられなかったんだろう。


 「そう、ボクの睡眠を邪魔したり、リューリ君の妹ちゃんを暴走さてたり! アイツ本当に碌なことしないんだよ!」


 アマミヤが食い付いた。

 彼女の意見は優しい。

 でも……


 「でも、リリスは俺が殺した……」

 「うるせー! いやこの際そう思っててもいいからか仇は討とーよ! ホラ! スッキリしてきっとぐっすり眠れるよ!」


 アマミヤは、わちゃわちゃと手を振り、必死にアピールしている。


 「リューリ、騙されないで。この女、私達を利用して天使を倒す事しか考えてない。」


 「おーおーお姉ちゃん、さっきからボクの意見にいちゃもんばっか付けてくれちゃってよぉ〜!」


 (なんで荒くれ口調なんだよ……)


 「リューリ、やっぱりこの女はここでシメよう!」

 「やるってんならドラゴンだろうとボクはやるよぉ〜」


 「ひっ、ヒートアップしないで……」


 「「ドラッグは黙ってて!」」


 「はひぃ〜」


 止めに入ったドラッグが撃沈した。このままバトられても仕方ないし、二人を止めるか。


 「少し……静かにしてくれ……」


 「リューリがそう言うなら……」

 「リューリ君が言うなら……」


 再び、ボロ家は沈黙に包まれた。

 リューリは考える。

 どうするべきなのかを。

 未来の事を考えるのは難しい。それも、妹を殺してしまったという過去が絡まれば余計に複雑だ。

 一時正解を見つけた気になっても、どこかに綻びがある。

 一時間違えに思えても、それは感傷でしかないのかも知れない。


 怖い……

 赦されるのが怖い。

 天使を倒して妹の仇を討ったからと、自分を許してしまうのが怖い。

 だって、妹を直接殺したのは、他の誰でもない、俺本人なのだから。


 だが、やはり、リリスが死ぬ原因は、天使にもあるのだ。

 そんな奴が、のうのうと生きているのは許せない。

 俺が許されるべきではないとして、天使も許されるべきではないのだろう。


 俺は何処までも人だ。

 アシェッタの様に矛盾を吹き飛ばすパワーはない。

 だから、矛盾と寄り添い、割り切りながら生きていくしかない。

 そういう生き物なのだ。


 「俺は……妹を殺した。」


 「どうあっても、それは変わらない。」


 「だけど、天使はぶっ殺す。赦しは乞わない。ただ、妹を殺さなくてはならなくなった俺の、憂さを晴らす!」


 そう、これは憂さ晴らし。

 復讐なんて高尚なモンじゃない。

 妹を殺して落ち込んだ気持ちを、丁度いい立ち位置に居るキャラクターをぶちのめしてスカッとさせる。

 ただのエゴ、もしくは、残虐なる略奪か。


 「それでこそリューリ君だ! ドンドンパフパフー!」

 「憂さ晴らし……悪くないね」

 「くっ、クスリは任せてっ……」


 三人の返事は、素直に頼もしい。

 さっきまで天使を倒せる前提みたいな感じであれこれ考えていたが、そもそも天使に負けて逃げた身だ。

 だから、


 「アシェッタ、ドラッグ、アマミヤ、ありがとう。俺に力を貸してくれ……」


 三人は、俺の言葉に快く返事をしてくれた。




 「天使に対抗するには、リューリ君がドラゴンの力をコントロールするのと、単純に強くなる必要があるね」


 天使に寄生されていたアマミヤの意見は、正確だ。

 そもそも、俺を覚醒させたのはコイツだしな。


 「アシェッタ、コントロールの方法とか分かるか?」

 「分からないね。分かっていたらリューリの魔力を吸ったりなんてする訳ないじゃない」

 「それもそうなんだよなぁ……」

 「けど、私の故郷——————ドラゴンの里なら、力のコントロール方や、天使と戦うヒントが分かるかも知れないよ」


 指を立て、自信あり気に提案するアシェッタ。

 手掛かりが他に無い以上、それがいいだろう。アシェッタの故郷ってのも気になるしな。


 「よし、ドラゴンの里に行こう!」


 リューリが拳を振り上げると。


 「わっ、私も行く……め、珍しい素材とかありそうだし……」

 「ボクは天使の様子を見ておくよ」


 ドラッグは小さく手を挙げ、アマミヤは別行動となった。

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