第25話 抗う者たち




 触れた全てを天使の羽毛にしてしまうザラギアの最強魔法が発動されてしまった。

 壁に叩き付けられたリューリは未だ起き上がらない。


 「だっ、大ピンチだね……」

 「うーん、これはすごく……どうしよう。」


 詰み。——————という言葉が一瞬、アシェッタの脳裏によぎった。

 ドラッグもあえて言葉を選んだが、同じだろう。


 「とりあえず、アタシをバカスカ殴ってくれちゃった野郎潰すか」


 ザラギアがリューリに向かって歩き出す。

 ゆったりとした足取りをしているが、それ故に隙が無い。

 ザラギアは、全てを下に見た言動とは裏腹に、じっくりと、しっかりと、確実に相手を追い詰めていくスタイルなのだ。


 (だけど、このままじゃリューリが……)


 絶望的な状況。だからこそ、アシェッタは限界まで葛藤し、

 結局、隙を晒す覚悟でリューリとザラギアの間に飛び込んだ。


 (リューリを見捨てるなんて、私にはできないよ……)


 風圧で羽毛が舞い、羽根吹雪の中両者の眼光がぶつかる。

 激しく燃えるアシェッタのドラゴン・アイ、瞳孔の奥から鋭い殺意を放つザラギアの眼光——————


 「ドラゴニック・レイ!」

 「審判は回帰せりぃぃぃーーーっ!」


 両者は、同時に技を放った。

 アシェッタの吐き出す熱線が、ザラギアの手に触れた途端に白い羽毛へと変わっていく。

 元より承知だが、アシェッタはあまりにも不利だ。


 「で、本命はそいつか」

 「ぐへっ!」


 アシェッタの熱線を目隠しに、ザラギアの背後に回っていたドラッグ。

 しかし、薬品を振りかぶった右腕に大量の羽毛が纏わり付いて、動きが封じられてしまっていた。


 (いっ、いきなりそこら辺の羽毛がくっ付いてきて……ざっ、ザラギアが何か詠唱した様子も無かったのに……)


 「天使権限——————『翼は背にあり、

腕には杖あり。』アタシはそこ等の羽毛一つ一つを正確に操る事が出来るのさ!」


 しかも、これは『魔法』ではなく、『権限』。

 鳥が当然飛べる様に、魚が当然泳げる様に、当然の事。

 当然の事に『理由』は要らない。つまり、詠唱の必要が無い。


 「なっ——————」


 アシェッタが驚愕するのも無理はない。

 フィールドは度重なる『審判は回帰せり』により羽毛だらけ。羽毛のプールと言っても過言ではない。

 今自分が踏んづけている羽毛一つ一つが、ザラギアの手となり、足となる。

 視界一面に広がる幻想的な白は、更に絶望的な不利をアシェッタに突き付けた。


 「んじゃ、愚かな龍に天使の審判をくれてやろうかね」


 ザラギアが指をパチンと弾くと、そこら中の羽毛が、津波となってアシェッタに襲い掛かる。

 羽毛、一つ一つのそれは軽い。

 だが、それがドラゴンの三倍の高さになれば、量があれば—————————


 「ぐあああああああああああああ!!!」


 塵も積もれば山となる。

 驚異的な量が集まれば、驚異的なドラゴンでさえ、押し潰すのだ。


 「さて、今度こそパンチ野郎にトドメを——————」


 ザラギアが羽毛の山に背を向け、倒れているリューリの方へと歩き出す。

 その時—————————


 ザラギアは、背後から炎の槍で貫かれた!

 それは右翼の付け根から、内臓をぐちゃぐちゃに破壊してへその少し上に突き出している。


 「なっ、テメェ……」


 「ハァ……ハァ……へへっ、してやったりだわ!」


 アシェッタは人間体に変化し、一点突破で羽毛の津波を脱出。完全な隙を見せたザラギアに手痛い一撃をお見舞いしてやったのだ!


 「かっ、下等生物みてーな姿に化けるだなんて、ドラゴンお前……プライドとか無いのかよ!?」

 「そっちこそ、自分の力を過信して隙を晒すとか、愚かね!」

 「ぐぬぬぅ……審判は回帰せりぃ!」


 痛い所を二箇所も突かれたザラギアは声を荒げ、乱暴な手つきで突き刺さった槍を羽毛に変えた。


 「だが、こんなに近付たんならテメェも羽毛にしてやるよ!」


 発光するザラギアの腕が、アシェッタに肉薄する。

 それをアシェッタは、無意識にガードした。

 しかし、天使の腕はガード無用。触った端から羽毛へと変えられる。


 淡い光と共に、アシェッタはガードに使った左腕を失った。


 (くっ……隙を突いても結局これだ……あの腕をなんとかしないと、私達に勝ち目は無い……)


 「勝負を焦ったなドラゴンの末裔、これでトドメだ!」


 ザラギアが腕を振り上げる。

 そして、それが振り下ろされれば、全てが終わってしまう。全てが決まってしまう。


 「うおおおおおおおおおザラギア死ねええええええええええ!!!」


 全てが絶望に包まれたその時。

 コロッセオの裏口の方から素っ頓狂な叫び声を上げ、白い女が天使に火炎弾の魔法をけしかけた。

 この状況で天使に挑むなど、どんな愚か者だろう。

 愚か者の名は————————————


 「魔法学園エンドランド次席、アマミヤさん参上だよっ!」

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