第18話 円卓会議(ちゃぶ台)



 今の一撃で私は理解した。

 あの天使は、私達より強い。


 「リューリ、意識があるなら一緒に逃げよう」

 「ウ……ウガ……」


 腕を上げたリューリを口で掴み、アシェッタ=ドラゴンは全速力で飛び立った。

 それはソニックブームを巻き起こし、コロッセオが半壊!

 天使の羽と瓦礫が舞う中、天使は笑った。


 「ぎゃははははっ! あのドラゴンが、文字通り尻尾巻いて逃げやがった! この、私から!」


 空中で身体を思いっきり逸らし、文字通り腹を抱えている。

 リューリ達を追う気配は無い様だ。

 ……




 そして、一週間が過ぎた。


 「リューリ、もう大丈夫……?」

 「ああ、それよりあの後どうなったか教えてくれ……」


 アシェッタとリューリは天使から逃亡後、ボロい空き家に忍び込み、療養をしていた。

 空き家は築数十年年は経っていそうで、カーペットが所々禿げていたり、アシェッタと俺で布団を二つ敷けばもう殆どスペースは残らない程に手狭。

 桁違いの魔力を使ったリューリの身体はトーナメントのダメージも合わせてボロボロで、歩ける様になったのは昨日の事だ。

 そして、リューリが療養している間に、アシェッタは学園に残ったドラッグとコンタクトを取り、情報を収集。

 今は、空き家に三人で集まり、ちゃぶ台を囲んで作戦会議中。


 「えっと……まずは学園の現状から説明するね……」


 ドラッグが指をわちゃわちゃさせながら切り出した。


 「学園にはあの天使が居座って、気に入った生徒を洗脳して下僕にしてるよ……」

 「人の心を弄びやがって……許せねぇ!」

 「あとっ、なっ何かを迎え撃とうとしてるみたい……」


 ドラックから伝えられた事実に、リューリは怒った風に膝を叩いた。

 それを宥める様にドラックが追加の情報を寄越す。

 まぁ、正直茶番だな。他人がどうなろうとどうでもいい。

 問題は、妹の情報を吐かせる筈のアマミヤが天使になっちまった事だ。


 「私も様子を見てみたけど、あの女があんな事するとはね」

 「天使の羽が生えると気が大きくなるのかもな……」

 「いや流石にそれはボクに失礼だろリューリ君!」


 引き戸を開けてツッコミを入れたのは、誰であろうアマミヤだった!


 「で、出たあああああああああ!!!」

 「何故この場所が……」

 「ドラゴンフォー—————————」


 三者三様に警戒を示す。

 しかし、もう潜伏先がバレるとは……


 「わああああ待って待って! ホラ! よく見て! ボクに羽生えてないでしょ!」


 必死に手を振り、背中を指さすアマミヤ。

 確かに羽は生えてないが、それが警戒を解く理由にはならない。


 「話を! 話をしようじゃないか!」


 「あっ、あれだけの事をしておいて、ずっ図々しいんじゃ……?」

 「何か?」

 「ひゃんっ!」


 噛み付いたドラックだったが、蛇に睨まれた蛙の様に、一瞬で黙らせられてしまった。

 哀れなり。


 「まぁ、戦うのは情報を聞き出した後からでもいい……話せよアマミヤ。」

 「さっすがリューリ君話が早ーい!」


 軽口を叩いてアマミヤがリューリに抱き付こうとすると、


 「……」


 ギン!と音が聞こえそうな程鋭い目付きでアシェッタに睨まれてしまい、


 「あらら、怖い怖い」


 と、アマミヤは両手を上げるしかなかった。


 「じゃ、まずはなんで天使になったお前が元に戻ってるか教えろよ」

 「尋問タイムなら牛丼が欲しいにゃ〜」

 「私のクスリならあるけど……」


 猫撫で声を上げたアマミヤに、ドラッグが紫色の液体を差し出したが、当然のように無視される。


 「ちぇっ、まあいいや。話を戻そうか」


 そしてアマミヤは目を瞑り、少し疲れた様な口調で喋り出した。


 「ボク、あの天使クソ嫌いなんだよね……」

 「あ゛ー……」


 ドラッグが真っ先に共感した。

 実際に調査に行ったドラッグは、あの天使の悪行や態度を肌で知っているのだろう。


 「あの天使は神話の生き残り、その時代毎に人類で最も才能豊かな人に取り憑いて生き長らえてきたの……」

 「遠回しな自慢か?」


 「ボクはアイツが取り憑いてから、毎晩頭の中で五月蝿くて全然眠れなかったんだ……だから、アイツを頭の中から追い出そうと思った」


 アマミヤが憎悪を込めて語った言葉には、思う所があった。

 よく眠れないのは辛い。

 常に頭が痛く、疲れも溜まっていく一方で、人生をまともに送れなくなる。

 手を緩める事はしないが、アマミヤの所業にも、一応同情の余地はある様だ。


 「俺の過去はどうやって調べたんだよ」

 「天使の瞳さ、アレで見ればあらゆる物事の真実を知る事ができる。」

 「な、成る程……そっ、その能力で鏡を見て、天使を追い出す方法とかを思い付いた訳だね……」


 ドラックが一を聞いて百を理解した。

 凄いな、流石はFランクのブレイン。

 リューリは、天使の瞳=見ればなんでも分かる。程度の認識で話の続きを聞いた。


 「因みに、天使の一つ前の宿主はリリスちゃんって言うんだけど、リューリ君なら知ってるよね?」


 アマミヤが目を細め、こちらを見た。

 その表情は、硬い。

 ああ、天使の瞳で見たから全て"知ってる"のか。

 成る程なアマミヤ、全て繋がったよ。


 「ああ、リリスは—————————俺の妹だ。」

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