第11話 肌と肌
「ねぇ、えっちな事しようよ」
「随分いきなりだな」
いきなり凄い事を言い出したアシェッタに、リューリは平静を装いつつも内心ドキドキが止まらなかった。
リューリはソファに深く座り直し、手をわちゃわちゃと忙しなく動かした。
「物事には順序がある、それは知ってるけど、同棲して、デートして、帰ってきて、順序と言うならパーフェクトだと思うんだよ」
「す、筋は通ってるな……」
正論、リューリは屈しそうだ。
だが、さっき暴れるに暴れてスッキリしちゃっている。
あんまりえっちな気分じゃないんだよなぁ……
「順序はよくても情緒が無いよな、とか言う?」
「アシェッタお前、実は頭めっちゃいいよな……」
「ドラゴンですから!」
言おうとした事を先に言われ、リューリはとうとう手詰まりだ。
まぁ、えっちしたくない訳ではないのだが……
それに、誘ってくれたアシェッタに恥をかかせたくはなかった。
リューリはいつもの服のボタンをゆっくりと外し始めた。
その手つきはたどたどしい。
「むむむ……」
「その、あんまり見られてると恥ずかしいんだけど……」
「じれったーーーい!」
アシェッタはリューリをソファへ押し倒した!
「うおおっ……」
「なぁ〜んだ、リューリもノリ気じゃん」
リューリの手は不可抗力でアシェッタのお尻を掴んでいた。
柔らかいのにハリのある、矛盾した感触だ。
お互いの熱い吐息が触れ合い、ピンク色の雰囲気は加速していく。
「服、脱がすね……」
アシェッタの白い手がリューリの胸元を滑り、はらりはらりとリューリの服は脱がされた。
ぞくぞくとした感触がした。
ぱさり。
リューリの服がソファから落ち、彼の上半身が露出した。
年頃の平均よりかなり筋張った体つき、その上に無数に走る古傷は彼の人生の壮絶さを悠然と語っている。
アシェッタは、腰から脇腹に走った傷跡をつーっとなぞった。
「これ、トーナメントの時のだね」
「ああ」
「じゃあ、この傷は?」
「もう忘れたよ」
リューリは少し目を伏せると、何処か遠くを見つめた。
窓の外には、一日の終わりを迎えた街が静かに佇んでいる。
そして、リューリは決心した様にアシェッタの方を向いた。
「俺には、お前に話してない事がある」
「女?」
「いや、妹だ。」
「女じゃんかー!」
いや、妹は女に入らないだろうとアシェッタを嗜めて、リューリは続けた。
「アシェッタ、俺は————————」
「ストップ!」
アシェッタはリューリの言葉を遮った。
彼女の瞳に映る彼が、まるで大切な何かを壊してしまった小さな子供の様に見えたからだ。
「リューリに話してない事なら、私にもあるから」
「男か?」
「いや、おとーさんの事。」
「男じゃねーか……」
いや、おとーさんは男に入らないだろうとリューリを嗜めて、アシェッタは続けた。
「まぁさ、それを話すのは今じゃなくてもいいんじゃない?」
アシェッタは小首をかしげてリューリに問うた。
「先延ばしにするってのか?」
「いや、いつかそんな大層な覚悟や意識も無しに、話せる様になるんじゃないかってね。それに今日はもう疲れちゃったよ」
もう寝るねーと、アシェッタは寝室へと歩いていった。
広いリビングには、リューリ一人が残されている。
リューリはソファに深く座り直した。
そして天井を眺める。
そうしていると、いい事やら悪い事やらがぐるぐると巡って、纏まらない考えがどんどん混沌と化していった。
アシェッタの言う通り、今日は疲れた。
喫茶店行ったり、廃墟で暴れたり、長い一日だったしな。
眠くなってきたし、もう眠ろう。
『お兄ちゃん、どうして……?』
あー、聞こえない。
昔の景色もフラッシュバックしない。
今日は本当に疲れているんだ。
だからきっと、夢も見ずに寝られるだろう。
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