第8話 Sランク、論理のエンター登場!
不死身のFランカーと呼ばれた俺の実力、見せてやるぜ!
と、カッコを付けて出ていったボンがボロ雑巾みたいになりながらもAランカーから勝利をもぎ取ってきた後、次は俺の番だ。
「しかし、ボンのやつめっちゃ頑張ってたな」
「ぐへへ……まさかクスリの効果が切れる直前、新しいクスリを入れて粘り勝ちするとはね……2錠目の効き目は3〜5分っと」
「詠唱短縮えいっ! リューリの回復分はちゃんとリューリの身体三人分回復しても余る様に残しておくから恐れずファイトだよ〜っ!」
俺の後ろでは、可愛い彼女が頼もしい事を言ってくれた。
「ああ、これで安心して怪我ができぜ!」
リューリとアシェッタは互いのグーとグーを合わせた。
「にへへ……」
そして、俺はアシェッタに背を向け、バトルアリーナへ向かった。
そして、後ろから最後の忠告が入る。
「ぐへへ……頑張ってねリューリ……クスリの効果時間は15分だよ……」
ドラッグに貰ったのは、魔力増強の作用がある粉薬だ。
使用後の反動は大きいが、これを使えば俺でも初級魔法の応用レベルは難無く使える様になる。
ドラッグの作るクスリは凄い。
身体能力を強化するクスリなんて聞いた事が無い。
もしかしたら、世界的な発明なのかも知れないなと思った。
実際、この世界にドーピング薬という概念はまだ存在しない。世界各地でそれらしい薬品はちらほらと頭角を表しているが、本格的に周知されるのは数百年先の話だ。
「赤コーナー! Fランクのリューリ、白コーナー! Sランクにして筆記試験満点、理論のエンターが登場だあああああああ!!!」
些か偏りがあるゴールと共に、二人のファイターがバトルフィールドに現れた。
一人は、リューリ。
彼は硬い握り拳を作り、肩で風を切る様にして歩む。
対してエンターは、リューリとは対照的に、ゆったりと進む。
リューリは、肩に羽織っていた黒い学ランを、マントを剥ぐ様に投げ捨てた。
エンターは白い学ランをぴっちりと着こなし、眼鏡を薬指でクィと整えながら、態度を崩さない。
リューリが、エンターが、スタートラインに立った。
彼我の距離はおよそ10メートル。
オーソドックスな魔法戦の間合いだ。
「リューリさん、あなたの事は知っていますよ。」
「Sランカーの人に知られているとは、光栄だぜ」
「あなたのデータは実に面白い。最低ランクでありながら、格上相手に2勝している……はっきり言って、異常だ。」
エンターの眼鏡の奥から覗く視線は、鋭い。
「偶々さ」
リューリは適当に誤魔化すが、エンターには通じていないだろう。
「ですが、所詮ジャイアントキリングなど夢物語。油断さえしなければ、僕が圧勝出来るとデータが出ています!」
ピシッと背筋を伸ばし、エンターは勝利宣言をした。
(そういうのが油断って言うんじゃ無かろうか……)
かくして、試合開始のゴングが鳴った!
始めに動いたのは、エンター。
「あなたはここ二試合連続、初撃にパンチを放っている!」
エンターのデータはどうやら正しい様だ!
故に、予め決めていた行動を、迷い無く実行できる。
エンターは、走った。
走っていれば早々パンチに当たらないからだ。
そして—————————
「氷のエレメントよ、氷柱の鋭さ以って敵を貫く槍を形作れ!」
魔力で空気中の水分が凝固し、鋭い槍を形作った。
学園最強トーナメントに武器の持ち込みは許可されていないが、氷魔法で武器を作るのは禁止されていない!
槍は、長い。そう、パンチよりも長い。
エンターは、槍のリーチでリューリを圧倒しようというのだ!
「フハハァッ! どうだ!」
どうだと言われれば、リューリは想定内だと返すだろう。
そもそも、今回はパンチを使うつもりは無い。
瞬間、エンターの視界が消えた。
突然の事に、エンターの頭脳は混乱する。
(まさか、この世の光を全て奪うと言われる伝説の暗黒大魔法……)
否、リューリはそんな魔法など使っていない。
エンターの視界を奪ったのは、学ランだ!
リューリは、入場の時に脱ぎ捨てた学ランを、風魔法で操り、エンターの攻撃のタイミングで彼の頭に被せたのだ!
そして、隙だらけの相手に全力の一撃を放つ!
「炎のエレメントよ、未だ我が手を離れぬ風と共に、紅蓮の腕で敵を焼き尽くせ!」
炎魔法に、風魔法で酸素を送って威力を増強する。
そして荒ぶる炎がエンターにクリーンヒットした!
「グボァッ!」
エンターの身体は1メートルほど浮き上がり、落ちた。
が、
「うっ、うう……」
まだ息がある!
「炎よ—————————」
「っらぁッ!」
追撃を仕掛けようとしたリューリだったが、槍の薙ぎ払いで距離を取らされてしまった。
ひょろい貴族サマだと思っていたが、被弾しても立ち上がるとは……
「チッ、なかなかガッツがあるじゃねぇか」
リューリの言葉に、エンターは眼鏡をクィと直しながら反論した。
「感情論ではなく、僕は僕のデータに基づいて行動している。この程度のダメージで僕は負けないと出ているし、ここから僕が勝てるとデータが言っている。」
エンターは槍を支えに立ち上がり、言った。
「データが勝てると言っているのに、諦める理由が何処にある!」
コイツ……
リューリは思い出していた。
エンターの試合履歴を。
対戦相手をストーキングし、データを集めるのはエンターの専売特許ではない。
リューリだって、勝つ為の労を惜しんだりはしない。
リューリの調べた限り、エンターの試合結果は、ワンサイドゲームの勝利と棄権による敗北のみ。
つまり、コイツは試合で負けた事が一度も無いのだ。
コイツが試合に出るという事は、自身の勝利を確信している事を意味する。
「勝利は、僕のデータの中にある!」
リューリには、エンターが追い詰められた時、どう動くのかのデータが無かった。
「データ量の勝負はくれてやる! だが、勝負はデータだけじゃねぇぜ!」
だが俺には、数多の修羅場を潜り抜けてきた戦闘経験がある。
獣じみた勝負感。
それをリューリは持っていた。
故に、咄嗟の行動。
リューリはあえて前に出た。
「一歩でも引いた奴に、勝利の風は吹いてこない!」
「データ通りだ! バカめ!」
エンターは試合前、これまでのリューリの試合を全て確認していた。
リューリのバトルスタイルは『前へ前へ』。
絶対に来る。
絶対に来ると分かっているなら、全力をぶち当てる!
「大いなる氷のエレメントよ、怒りの牙で我が敵を貫け!」
上級氷魔法、コキュートスバイツ。
それは、エンターの使える最強の魔法。
バン!
地面に叩きつけたエンターの手のひらの先から、大地を砕き、巨大な氷柱がせせり出でた!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおあお!!!」
確信の牙が、リューリの喉元へと迫る!
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