第7話 魔を統べる者
「ひひっ、トーナメントぶっ壊すの、案外簡単かも知れないよ……」
ドラッグは、いつにも増して不気味な笑みを浮かべていた。
こういう時、コイツは決まって調子が良い。
「ああ、行けるぜ……」
ボンも乗り気だ。
一体どんな情報を手に入れたのだろう。
「とっ、トーナメント延期の記録が見つかったんだよ……それも沢山!」
ドラッグはくっ付けた四つの机の真ん中に、古ぼけたファイルを置いた。
そこには、過去のトーナメントの記録が記されている。
「台風で延期、対戦の準備期間が変わってしまう為、マッチングの組み直し……」
「こっちには流行り風邪で人数不足が起こって延期って書いてあるよ〜」
その他にも、『バトルアリーナ半壊につき、トーナメントやり直し』や、『対魔法バリアを張る係が足りなくて延期』などの記録があった。
「この中で使えそうなの……ぐへへ、これだよねぇ……」
「これしかないね!」
「これしかねぇな」
「よし、これで行こう!」
俺達は、全会一致で作戦を決定した。
バトルアリーナ半壊作戦、始動!
まず、学園最強トーナメント時の、バトルアリーナについて説明しよう。
この学園のバトルアリーナはコロッセオの様な形状をしており、ファイターは円形のリングで、観客は段上からそれを見下ろす。
だが、それだけではない。
強大なパワーがぶつかり合う魔法使い同士のバトルでは、余波ですら危険!
故に、二十人以上の熟練魔法使いが対魔法バリアを張って観客を守る。
だが、それは所詮人の力だ。
一人の天才や、ドラゴンなんかが全力でパワーを発揮すれば、それが壊れてバトルフィールドが半壊する事だってあり得ない話ではない。
故に、今回俺達が立てた作戦は……
「対魔法バリア係をどうにか減らし、アシェッタvsドラッグの試合で事故に見せかけてバトルフィールドを破壊、全てを有耶無耶にしてトーナメントをやり直させる!」
リューリは言いながら、拳を掲げていた。
握っているのは、勝利への確信。
他の三人も、自信の満ちた表情だ。
いける、いけるぞ……
そして、トーナメント当日。
アシェッタvsドラッグの試合が始まった。
(とりあえず、私達の意図がバレない様に暫くは戦うんだよね)
事前の打ち合わせ通り、試合開始のゴングと同時にドラッグがアシェッタに突っ込む。
普段のおどおどした彼女からは考えられない程の疾駆。
それは、彼女自身が彼女に使った薬の作用だ。
持続は15分と持たない。だが、その間は超人的な身体能力を得られる。
「雷のエレメントよ、我に纏て姿表せ!」
ドラッグは、走りながら初級雷魔法を詠唱した。
雷魔法には『帯電』と呼ばれる一種の待機状態があり、一度ストックを作ってしまえばいつでも素早く打ち出せる。
それに、ストックしている雷魔法に詠唱を追加すれば、後から中級の威力に強化する事もできる。
(とは言え、中級程度の威力じゃ私にダメージは与えられないんだよねっ!)
迫るドラッグに、アシェッタはパワー系魔法で迎え撃つ。
ドラッグの歩幅を計算しつつ、ギリギリ当たらない様にして。
「集えや集え、万物のエレメントよ……」
立てた人差し指をくるくると回し、魔力を集めていく。
「火、水、風も、全ては力……」
やがてそれはオレンジの発光となって可視化される。
「唸れ、『グランドフィスト!』」
アシェッタは、集め、圧縮させた魔力を纏った人差し指を地面に叩き付けた。
ドッカァアアアアアアアアアアアアン!!!
すると、圧縮されたエネルギーが全て解放され、ものすごい重さの地響きと、ドラッグの身長をゆうに越える高さの粉塵を巻き起こした。
これが、パワー系魔法。
魔力を圧縮、解放して爆発を起こすシンプルな魔法だが、それ故に術者の実力を端的に表す。
今の爆発で出来たクレーターの大きさが、アシェッタの実力という事だ。
(ドラッグの半歩前に当てつつ、粉塵で状況を隠したよっ!)
粉塵が晴れ、白衣が泥だらけになっているが無事なドラッグと、人が腰まで埋まってしまう程大きなクレーターが露わになる。
観客の目には、私があえて攻撃を逸らしたのではなく、ドラッグが上手く躱した様に見える筈だ。
ここで一応、試合中止のサインが出てくれるか待つ。
流石にFランクの相手にあのレベルの魔法を使えば怪我じゃ済まない事は素人でも分かるからだ。
だが、アシェッタが暫く待ってもサインが出ない。
流石は実力主義の学園。判定が手厳しい。
(リューリ達は、こんな中で戦っていたのか……)
アシェッタは、右足で強く地面を蹴った。
それを見たドラッグはアシェッタの意図を察する。
そう、プランB開始の合図だ。
ゆっくり、ゆっくりとした歩みでアシェッタはドラッグに近付いてゆく。
強者の余裕、ではなく、確実に相手を倒すハンターの歩みだ。
「雷のエレメントよ、紫電となりて我が敵を討て!」
ドラッグは立ち上がりながら雷魔法を近付いてくるアシェッタに打ち込んだ。
雷のエレメントが、紫電の一閃となってアシェッタに迫る。
ここだ!
「平伏せよ、隷属せよ、我は魔を統べる者なり。」
大詠唱、その序章。
「全てての力は我に還り、全ての力は我より出でる……」
アシェッタの周囲の魔力が強烈な"力"の影響を受け、歪む。
「我こそ王道、我こそ起源、我こそ混沌。」
それは、圧倒的な力の差を以ってあらゆる魔法を屈服させ、奪い取る。
「大いなる渦の本質を知るが良い……」
そして、何十倍もの威力でそれを打ち返す、特級の大魔法だ!
「叛逆魔法、カウンタースペル!!!」
ドラッグの放った糸の様な紫電は、カウンタースペルの効果領域に入った瞬間に捻じ曲げられ、解かれ、ぐちゃぐちゃに弄ばれる。
そして、陵辱の果て、それは奪われた。
そして、残酷が始まる。
力の差は歴然……どころではない。
細い糸だったドラッグの雷魔法は、今や極太のレーザーとなって天を貫いている。
元来空から降ってくる雷を、空へと落とす。
神をも恐れぬ所業だ。
やがてそれは対魔法バリアを粉砕し、彼方の雲を爆散させ、差し込んだ日の光と共に霧散した。
「試合中止だバカヤローーーーー!!!」
誰かがそう叫んだ。
そして、作戦通りトーナメントは延期、マッチングも配り直しとなった。
「やっ、やったねアシェッタ……へへっ……」
「凄かったぜ!」
「ふふーん!」
ドラッグとリューリが褒めると、アシェッタはドヤ顔で鼻を鳴らした。
ボンはと言うと、マッチングを組み直したたらAランクの相手と当たる事になってしまい、それどころでは無さそうだ。
因みに、今回の一件でアシェッタは殿堂入りとなり、トーナメントの参加が免除される事となった。
どうにか、落ち着くところに落ち着いたって感じだ。
「けど、リューリの新しい相手、Sランクに上がっちゃったよね?」
アシェッタが不安そうな顔で覗き込んできた。
リューリはそんなアシェッタの頭を撫でると、
「今回はアシェッタに頑張ってもらったからな、次は俺のカッコいい所を見せてやるぜ」
と、自身ありげに笑って見せた。
「んふふー、楽しみにしてる〜」
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