第6話 ドラゴンの景色
早速俺たちは作戦を開始した。
ドラッグは図書館で過去のトーナメント中止履歴をチェック。
ボンはバトルアリーナの確認。
そして、俺とアシェッタは、アシェッタのドラゴン体のサイズや変身スピードの計測の為、人目に付かない山奥へと向かった。
「なんだか、あの時を思い出すな……」
「そうだね。」
アシェッタにしては短い返事。
きっと彼女にも思うところがあるのだろう。
リューリは、それを深くは問い詰めない。
学園から列車に乗って数時間、山道に入ってから数時間が経過。
リューリの身体に若干の疲れが出てきた頃、ソレは現れた。
「出やがったか、モンスター……」
豚の様な体躯に、顔面に生えた鋭いツノ。
イノシシ型モンスター、ドコドコだ。
「アシェッタ、アイツは素早いぞ!」
「分かってるよリューリ!」
ドコドコは、その名の通りドコドコと突進してきた。
俺の方に。
「野郎っ、真っ先に弱い方から潰そうって腹かっ!」
だが、ドコドコ如きに負ける俺じゃねぇ!
「アシェッタ、目ぇ閉じてなっ!」
「うんっ!」
俺の意図を察したのか、アシェッタは素直に目を閉じた。
「爆ぜろっ、光のエレメント!」
光魔法とは、極めればレーザーを出せるロマンのある魔法だ。
だが、リューリはFランク、当然そんな荒技はできない。
ならば何をしたのか、それは—————
「光による目潰しだ! 突進野郎はそこらの木にでも突っ込んでな!」
リューリの言った通り、ドコドコは木に突っ込んだ。
あの勢いだ、相当なダメージが入って、もう襲ってはこないだろう。
が、アシェッタの追撃が入る。
「集えや集え、風よ集え、そして、瞬きの一瞬、その力の全てを解き放て!」
アシェッタは風魔法で風を操り、かまいたちを発生させる。
不可視の刃はドコドコの首をスパンと見事に跳ね飛ばした。
「おやつゲットだねっ!」
「挽肉にしてハンバーガーを作ろう、こんな事もあろうかとパンズを持って来たんだ。」
「流石リューリ、分かってるぅ〜!」
「へへっ、よせやい。」
こんな調子で、俺達は山を進んでいく。
そして、崖の近く、丁度良く開けた場所を見つけた。
「よしっ、この辺で良いだろう」
「おっけー。んしょ、んしょ……」
アシェッタはいきなり脱ぎ出した。
いや、服着たまま変身したら服が破けちゃうか……
いかん、いかんぞ俺。
アレでアシェッタは常識を知ってるし、二人きり以外の時はそんなにスキンシップも激しくしないし……
「? どうかしたー?」
「大丈夫だ、感覚でいいから、どんくらい離れたらいいか教えてくれ」
「こんくらい!」
リューリはアシェッタが指差した場所ぐらいまで離れた。
正直、かなりワクワクしている。
ドラゴン体と人間体、甲乙付け難いと言ったリューリだったが、あの時持ち上げられる程の大きさしかなかったアシェッタ=ドラゴンが、成長してどのぐらい大きくなっているのか、作戦抜きに気になるのだ。
「リューリ、なんか盛り上がる掛け声言ってー!」
ここは気の効いた事を言いたい所だ。
よし!
「大いなる力封じ込めし女神よ、獰猛なる力を解き放ち、最強を証明しろッッッ!」
大きく息を吸い、人生最大級の大声で叫んだ。
「ドラゴンフォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオム!!!」
「最高だぁあああああああ!!!」
アシェッタの身体に可視化出来るほどの魔力が集まり、一瞬、これから起こる未来を予め警告するかの様に半透明のシルエットを幻出させた。
そして、透明なヴェールが風に飛ばされ、まるで新車のお披露目の様な盛大さを以って、龍は姿を表した。
深い緑の鱗は分厚く、空を仰いだ首の裏から見える肌は薄い黄色をしている。
広げた翼が太陽に透かされ、力強い血管が見て取れた。
そして、山の木々と比べても遜色ない巨大。
デッカアアアアアアアアアアアい!!!
「す、すげぇ……」
身体を丸めたら校舎の半分ぐらいのサイズがある。
あの時感じた炎は、今、大火となっていた。
「リューリ、私……どう?」
ドラゴンと化したアシェッタは巨大な頭を俺の目の高さまで下げ、なんなら上目遣い気味に聞いてきた。
「ああ、凄く……良い。」
「えへへ……」
「な、なぁ、少し、抱き締めていいか?」
珍しく自分からスキンシップを求めてきたリューリにアシェッタは面食らったが、目を細めて彼を受け入れた。
そっと、そっと鱗に触れる。
やはり分厚い、鎧の様だ。
だが、生きているモノの感触でもある。
鎧の奥にある、命が持つ暖かさがある。
「ああ……凄く、落ち着く……スゥゥーーハァーースゥゥーー」
「あははっ、くすぐったいよぉ〜」
アシェッタが照れると、リューリはすぐに手を離した。
「すっ、すまん! 我を忘れた……」
「もうちょっとくっ付いてても良かったのにぃ……」
アシェッタがそう言うと、リューリが『えっ、いいの!?』って顔をしたが、鋼の自制心で堪えた。
「サイズ計測終わりっと。うし、もう人間体に戻っても大丈夫だぜ」
一通りの作業を終えたリューリは、腰を叩きながらアシェッタに声を掛けた。
が、
「ねぇ、人間に戻る前に一つだけ付き合って欲しいんだけど……」
「お前の頼みなら、一つと言わず何だって付き合うけどな」
「いや、今は一つで十分。来て……」
促されるまま、リューリはアシェッタの背中に乗った。
「見せてあげる、ドラゴンの景色。」
「飛ぶのか!? やったあああああああ!」
あまりの出来事に、リューリは少年の様に素直な歓声を上げた。
ドラゴンの背に乗って空を飛ぶ。
憧れのシュチュエーションの一つだろう。
期待十分パワー十分、レッツフライ!
アシェッタドラゴンの大きな翼が、空気の重さを感じさせる雄大な動きではためき、やがて巨体は浮き上がった。
ゆっくり、ゆっくりと高度を上げていく。
背に乗るリューリを気遣っているのだろう。
当の本人は、焦らされている様で身体の震えが止まらなかった。
そして、高度が山の頂上を超えた時———
最大の景色が、そこにはあった。
地平の果てが、カーブして消えている。
カーブの端には沈みゆく夕日、世界はオレンジと紫の混沌だ。
遠くの山が小さい。俺は巨人だ、あんなの簡単に跨げる。
街が遠い、あそこから来たのか。
「リューリ、真上を見て見て」
リューリがひとしきり感動し尽くし、身体の震えが止まった事を悟った頃合いで、アシェッタは声を掛けた。
見上げると、そこには全てを飲み込む無限の闇があった。
吸い込まれそうなのに、実際はアシェッタが羽ばたいてくれていないと落ちていくだけなんて不思議だなぁと思う。
そして、闇の中に無数の煌めきを見た。
いつも空に見る星とはどこか違う、この闇の中にしかない"特別"。
それが何なのか、リューリはその答えを知らない、アシェッタも知らない。
ただ、この時この瞬間、二人は同じ、知らない星を見ていた。
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