第4話 日常と来訪者と四つ目の机
最低ランク教室のボロ戸を開けると、いつもの面子が俺を見て驚きの表情となった。
「リューリ、死んだ筈じゃ……」
緑のトゲトゲ頭のコイツは借金仲間のボン。
「おおっ……無事で良かったよ!」
そして、紫のウェーブがかったロングヘヤに不健康そうな肌をしている白衣姿のコイツはマッドサイエンティストのドラッグだ。
「まぁ、俺は不死身だからな」
いつも通りふざけた調子で返し、俺はいつもの席に座った。
俺達3人は、こうして机をくっ付けて授業を受けている。
ドラッグが授業中に薬品をこぼして、机が溶けてくっ付いたからだ。
「で、Sランカーに呼び出された結果、どうなったんだよ」
「同棲する事になった」
「ぴぎゃっ!?」
淡々と答えると、ドラッグはネズミを潰した様な声を上げ、ボンは。
「ヒモじゃん! いいなー!」
と、いつも通りのクズ発言。
なんだか落ち着くぜ……
生活にはリズムみたいなものがあり、それは簡単に狂ってしまう。変わってしまう。
だが、こうして慣れ親しんだリズムのある場所に戻ってくると、リズムが調律され、変わらずにいられる気がした。
が、その日常のリズムも、すぐに崩れる事となる。
「リューリー!」
制服姿のアシェッタが現れた!
「アシェッタ、お前Sランク教室じゃないのか?」
「分身置いてきたからだいじょーぶ!」
ぎゅーっと、もう癖の様にアシェッタが抱きついてきた。
見知った顔の前でやられると、流石に照れるな……
「ヒュー、お熱いねぇ……」
「ひぎゃっ、ひぎゃっ!」
「あ、あはは……」
笑うしかなかった。
アシェッタはひとしきりスキンシップした後、周りを見回した。
「リューリ、コイツら誰〜?」
「ああ、紹介するよ。ボンとドラッグ、俺のクラスメイトだ」
「どうもクズ1号でーす!」
「えっえへへ、クズ2号でぇす……へへっ」
Fランカージョークだ。
俺達クズは、あらかじめ自虐を挟んでおく事で、口撃を抑制する習性がある。
「ふーん」
アシェッタ、完全に興味無し!
ある意味潔い態度だった。
「で、アシェッタアシェッタ呼んでるから分かるだろうけど、コイツはアシェッタ。昔死地を共に乗り越えた仲だ」
「ラブラブでーす!」
「ふーん」
「ほへー」
ここに居る連中、興味無い事に対して適当過ぎるだろ……
そしてさっきからドラッグの瞳からハイライトがどんどん消えてるのは気のせいか薬のせいでいいんだよな!?
ガラガラガラ……
前側の戸が開いて、教師がやってきた。
どうやら授業が始まる様だ。
「ありゃ、もう来ちゃったか」
「気にしなくていいぞアシェッタ、どうせ後ろの方なんて見てない」
「じゃあ催眠術とかしなくていっか」
「帰るか迷ってた訳じゃねぇんだな……」
ボンでさえ若干引いていた。
「ぐっ、ふへっ……今日はどうする、ドンジャラ持ってきたけど……」
ドラッグがナイスな提案をしてくれた。
いつもは3人でやっていたが、今日はアシェッタが居るし、フルパワーの最強ドンジャラが出来る!
「ごめん私それルール知らない」
「ぐっ、ぐへっ、ならいいカモ……」
「「いやダメだろそれは!」」
リューリとボンが同時にツッコミを入れた。
俺達にとってはいつものやり取りだが、アシェッタはなんだか嫉妬の目を向けている。
「今日はアシェッタも居る事だし、全員で遊べるモンをしようや」
リューリは懐から小箱を取り出した。
「リューリ、これ何ー?」
「もしかしたらと思って、持ってきたんだ。お前とも遊べそうなゲーム。」
「まさか……」
「おぇぇ……」
クズ1号と2号は察した様だ。
そう、俺が持って来たのは……
「最強! リューリすごろく!」
自作双六だった。
「良さそう! 名前にリューリが入ってる所とか!」
「そう……?」
「最強! の部分は好きだよ……ぐへへっ」
ルール説明!
基本的な双六のルートと同じく、サイコロを振って出た目の数だけマスを進み、ゴールを目指す。
止まったマスによって、書かれた効果が発動する。
ゴールをオーバーしたら戻るなどの反則ルールは無しだ。
「まっ、やって見せた方が早いだろ」
リューリはサイコロを振った。
出た目は3。
可もなく不可もなくだ。
紙屑を丸めたコマを3マス進める。
止まったマスは……
「次の自分ターンの終わりまで、サイコロの出目2倍、か……」
「つまり、リューリと私のLOVEパワーで沢山進めるって事だねっ!」
「ああ、そうだ!」
リューリが力強く肯定する。
「そうか?」
「リューリと私のLOVEパワーっ、ぐへ……」
こうして、リューリすごろくは進んでいった。
『リアルファイトで相手のサイコロ権利を奪え』マスによるとボンとリューリの殴り合いや、『ゲーム終了まで恋人繋ぎ』マスでアシェッタとドラッグが恋人繋ぎになって眼福だったりした。
そして—————————
「ドラゴンテールスピン!」
「スピアトルネード!」
一流すごろく士として覚醒したアシェッタのパワー系サイコロ回転奥義、ドラゴンテールスピンを、製作者の意地とドラッグの薬によって指先の神経を限界突破させたリューリのテクニック系サイコロ回転奥義、スピアトルネードのぶつかり合いという、双六史上でも類を見ない程白熱した展開になっていた。
単純なフィジカルと、この一戦で覚醒したアシェッタのセンスは、ただのサイコロに無限の回転力を与える。
サイコロを回転させた事のある読者諸兄ならこの状況の異常さが理解できるだろうか。
アシェッタの回したサイコロは、面で接地しているのだ。
角ではない、1の面が、べったりと。
通常、接地面積が大きいと、摩擦抵抗によりすぐ止まってしまう。だと言うのに、アシェッタのドラゴンテールスピンは止まる気配がまるでない。
圧倒的なパワーの為せる技だ。
対して、リューリのサイコロはオーソドックスに角で接地している。
操作の精密さは一朝一夕ではない、が、流石にパワーが違い過ぎる。
一撃で決着を付ける必要があった。
「貫け! スピアトルネード!」
「私のドラゴンテールスピンで受け止めてあげるわ、リューリ!」
回転力対貫通力!
しかし勝負の結果は、意外な形で着くことになる。
「何……? 机(フィールド)が溶けて—————————」
アシェッタのドラゴンテールスピンが机に沈んでいく様だ。
「いや、違う! 溶けているのはこのフィールドにかけられた呪い———私が昔溢した薬品だ!」
!?!?!?!?!?!?!?!?!?
いち早く俺の解説を理解したのは、薬を溢した張本人、ドラッグだった。
「あのクスリは、常温でほっといたら固まった……であれば、今回の様に回転で摩擦を与え、熱が加われば、溶けるのは必然!」
「そう、今こそ、フィールドにかけられた魔法が溶ける……」
アシェッタのドラゴンテールスピンは、沈みながらも回転を落とさなかった。
「「「「「いっけぇーーーー!!!」」」」
こうして、くっ付いていた俺達の机は離れた。
双六は俺のスピアトルネードを破ったアシェッタが勝った。
3日後。
俺達四人は、四つの机をくっ付けて昼飯を食べている。
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