第3話 愛と推理と丁寧カレー


 Fランクのタコ部屋から数少ない自分の荷物を持ち出し、アシェッタの寮に運び込んだ。

 アシェッタの寮にお世話になるのはヒモっぽくて正直気が引けたが、断ろうとしたらこの世の終わりみたいな顔をされたので、俺はヒモになった。


 「改めて、ようこそ私のテリトリーへ!」


 テリトリー、か。

 ドラゴンっぽい言い回しだ。


 「そう言えば、アシェッタはどうして人間の姿をしてるんだ?」


 ふとした疑問を聞いてみた。


 「ドラゴンの姿の方が好きだったりした?」


 するとアシェッタは、蠱惑的に目を細め、手を頬に当てる。

 くらくらする仕草だ。


 「甲乙つけがたいとだけ言っておく。両方魅力的さ。」


 「うふふ〜ん♪」


 「で、実際人間の姿して人間の世界に来てるのは何でなんだよ、俺と出会えたのだってたまたまだろ?」


 俺の言葉に、アシェッタは不思議そうな顔をした。


 「いや、リューリと出会う為だけだけど……」


 ???


 「いや、それだとこの学校に通う理由とか……」

 「リューリ、考えてみて」


 珍しくアシェッタは神妙な面持ちになった。

 彼女は人差し指を立てて話を続ける。


 「リューリが私と出会ったのは昨日、5月8日。それは何故でしょう?」


 5月8日?

 その日付に意味があるのか?

 いや、違う。

 アシェッタは俺と出会う為だけに行動していたという前提を飲み込んで考えるんだ。

 俺と出会う為に行動していたなら、入学式の時点で出会っていないとおかしくないか?

 つまり、アシェッタがこの学校に来たのは最近……?

 いや、それだと学園最強の噂が立っている事の説明が……


 「うんうん、考えてるねぇ〜、もっともっと私の事を考えてぇ〜」


 アシェッタが俺の耳元で囁く。

 脳が痺れる様な甘美な刺激。脳が活性化する。


 「まさか……いやそんな……」


 そしてリューリは答えに辿り着いた。

 が、突飛が過ぎると自制する。


 「ふーん、その表情、多分当たりだよ」

 「お前、そんなにも……」


 リューリが辿り着いた答えはこうだ。

 まず、俺の年齢から学生であるとアタリを付け、そこら中の学校に自分の分身を送り込んだ。

 そして、俺に出会うまで分身から分身へと意識を乗り継ぎ、やっと俺を見つけたという訳だ。

 そこら中の学校から、だった1ヶ月程で。


 「因みに今の私は本体だよ、ぎゅー!」


 BIG LOVE……




 「せっかくお前と同棲するんだし、美味い飯を作ってやろう!」

 「よっ、待ってました!」


 ご飯を作るのは、大変だ。

 生活に慣れてくれば慣れてくる程、適当になっていく。

 ならばこそ、環境の変化で盛り上がっている今こそ、丁寧で美味い飯を作ろうと思うのだ。


 と言っても、俺はそんなに料理をしない。

 丁寧に作る事は出来ても、力量の面で必ず不足が出るだろう。

 だが、あらゆるモノには抜け道がある。


 「カレーを、作りたいと思います。」


 真剣な表情で、リューリは呟いた。

 作る料理は、カレー。

 基本的な技術で作れる上、誰が作っても美味しい。

 無論、一流のシェフが作れば一流のカレーが出来るのだろうが、誰が作ろうと味は最低限担保されているものだ。


 今宵俺は、炎の料理人と化す!!!


 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお丁寧カレー、完全したぜええええええええええええええ!!!」


 へいお待ち! とアシェッタに皿を差し出す。

 時刻は午前2時を回っていた。


 「あ、ああ……出来たのかい……」


 アシェッタが空腹で死にそうな顔をしている。

 しまった、丁寧に作り過ぎた!


 「わ、悪い! 時間が飛んでた……」


 気が付けば、俺も腹が鳴っていた。


 「……ねぇ、」


 弱々しく、アシェッタは俺の服の裾を引いた。


 「早く食べない?」


 いつもハイテンションな彼女の、弱々しい仕草に、不覚にもグッと来てしまう。


 「ああ、食べよう……」


 リューリもソファに座り、手を合わせた。


 「「いただきます!」」


 いざ、実食。


 正直、腹が減りすぎてて何を食べても美味しく感じる。


 (いや、アシェッタと一緒に食べるから、こんなに美味しく感じるのかな……)


 なんて感傷に浸っていたら、


 「ガツガツガツガツ! むしゃむしゃむしゃ……おかわり!」


 と、いつもの調子を取り戻したアシェッタが皿を差し出した。


 「やっぱ、アシェッタはいつもの調子が一番だな。」


 「うれしー!」


 「俺も、アシェッタが嬉しそうだと嬉しいよ」


 次の日、俺達二人は盛大に遅刻する。

 次からは、料理の手際というモノを意識しようと、俺は反省するのだった。

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