第2話 火傷とポロリと広いお風呂!
3日前。
学園最強トーナメントにて、俺は窮地に立たされていた。
まず、相手。
Aランクで上級貴族のカースト。単純な魔力量で既に勝ち目が無い。
さらに、状況。
Fランクの生徒である俺は、このトーナメントで一勝もできなければ即退学になる。
「なんて、なんてツイてないんだ……」
「それはこっちのセリフだよ」
反論したのは、目の前のキザな男だった。
彼は金の長い前髪を指で払うと、鼻を鳴らして俺を威嚇する様に睨む。
「Fランクのクズを一匹潰した所で、僕の評価は上がらないじゃないか。こんな試合、魔力と体力の無駄だよ」
事実ではある。が、人を見下した態度が気に障って、リューリが食ってかかろうとしたその瞬間、試合開始のゴングが鳴った。
「うらあああああああああああああ!!!」
リューリが繰り出したのは、パンチであった。
リューリの魔法は最低ランク、対して相手はAランク相当の魔法を使える。
正面からの撃ち合いでは勝ち目は無い。
ならば、魔法が詠唱される前、詠唱の必要が無いパンチで相手の動きを封じてしまおうと言うのだ。
「ぐあああああああああああああ!!!」
野郎の顔面にめり込んだ拳から、確かな手応えを感じる。
「へっ、お坊ちゃんが! トロいんだよ!」
「やっ、やってくれたな……」
頬を押さえながら立ち上がったカーストに、俺は追撃のパンチを放った!
が、カーストもバカではない。
「炎の精霊よ、我が敵を阻め! 『ファイアーウォール』」
高速詠唱により、突如として炎の壁が出現!
このまま突っ込めば、燃える!!!
「幻出せよ、水のエレメント!」
リューリは下級水魔法を発動した!
水魔法は文字通り水を出す魔法。
が、Fランクの魔力では、服を湿らせる程度が関の山だ。
「バカめ! クズの魔力じゃ僕の炎は防げないぞ!」
「うおおおおおおおおおおおおお!!!」
リューリは炎の壁に突っ込んだ!
熱い! 身体が燃える様だ!
実際、燃えている。
「こんな炎じゃ、俺は止まらねえ!!!」
「なっ!?」
炎の魔人と化したリューリ、慄くカースト。
カーストが一歩後ずさった。
そこが勝負の分水嶺。リューリはそれを見逃さない。
「死ねえええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」
ドロップキックだ! しかも燃えている!
「ぐわああああああああああああ!!!」
こうして、リューリは辛くも勝利した。
服を水魔法で湿らせる事で炎ダメージを軽減していなければ、炎で焼き尽くされていただろう。
まさに、魔法戦。
なんとか一勝をもぎ取り、退学を回避したリューリだったが、身体中火傷だらけで二回戦は棄権する事にした。
保健室の建て付けの悪い戸を開く。
Fランク生徒用保健室には、ベット二つと医療キットがポツンと置いてあるだけだ。
医療キットを開き、火傷用のクリームを取り出す。が、そこで意識を失ってしまった。
「Sランクの風呂はSランクだな……」
アシェッタの家に連れ込まれた俺は、風呂を貰っていた。
広い。足が伸ばせる。
ウチの寮の風呂は共同な上によく分からん立方体みたいな風呂で、えらい格差だ。
「いちちっ!」
3日前のトーナメント戦での火傷が染みる。
脇腹の辺りの水膨れがヒリヒリする。
我ながら、かなりの無茶をしたと思う。
こんな事を続けていては、いつか身体を壊すと分かっているが、リューリには退学できない理由があった。
「学園からの奨学金に、学生ローン……」
とある事情で借金を抱えているリューリには、金がいるのだ。
その為に、これからは退学回避だけでなく、さらなる奨学金獲得の為、ランキング上位を狙わなければいけない。
そもそも、3日前は運が悪かったのだ。
同じランクとは言わずとも、Cランク相当の相手までなら経験の差や緻密な作戦で、ダメージを受けずに勝てる。
が、流石にAランク相手となると、消耗は免れない。
勝てはしても、消耗すればトーナメントで勝ち切るのは困難だ。
理想を言えば、弱い順から相手をしたい。
そうであれば、トーナメント上での順位が伸ばせる。
が、対戦相手は完全ランダムで決まる。
こればっかりはどうしようもなかった。
「しかし、火傷ってやっぱキツいな……」
深く息を吸って、傷付いた部位に力を込める。
リューリは昔から、こうやって痛みを堪えてきた。
そんな時、
「リューリー、一緒に入ろー!」
アシェッタが飛び込んで来た。
飛沫が上がり、浴槽に二人、肌と肌がぶつかり合う。
いくら広い風呂とは言え、二人入ると流石にぎゅうぎゅうだ。
「あ゛〜極楽極楽〜」
「流石に、裸で密着するのは刺激が強過ぎるぜ……」
「ありゃ、リューリ照れてる?」
「察しがいいな、良ければ前とか隠してくれよ」
「あっははーっ、昔裸で抱き合った仲じゃないかー! ぎゅー!」
アシェッタは、その豊満なバストを押し付ける様に抱き付いてきた。
「ぐっ……」
リューリはそれに喜ぶでも照れるでも無く、痛みを堪える様に歯を食いしばった。
「あれ、もしかしてリューリ怪我してる?」
「……」
リューリは目を伏せ、火傷を隠した。
正直、情け無い所は見せたくない。
「手、どけて……」
アシェッタは優しい仕草でリューリの腕を退けた。
火傷の跡が露出する。
「あんま見ないでくれないか、その、恥ずかしい……」
「いいから、じっとしてる!」
強気な声に、リューリは思わず固まった。
「渦より出で、大地を巡る命の輪廻よ、この者にささやかな祝福あれ」
回復魔法の詠唱だ。
命の輪廻、或いは大いなる渦より命の力を借り受ける奇跡の魔法。
それは命の本質への深い理解が必要な、非常に高度な魔法だ。
暖かな命の光が、癒しの力となってリューリの身体を包む。
リューリの火傷は、あっという間に消え去った。
「はい、これでもう大丈夫!」
「あ、ああ、ありがとうな、アシェッタ。」
「ううん、これでくっ付いても平気だよねっ! ぎゅー!」
(今度は別の意味で平気じゃないんだが、アシェッタが喜んでいるならいいか……)
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