おまけ5 栗より甘い恋心(語り メイ)

「やっぱりこれを食べると、この世に帰ってきた実感がわいて幸せだなーってなりますね。」

ノースちゃんの太陽のような笑顔。

彼女が帰ってきたのは、私にとって想定外の幸福だった。

また私の愛を込めるだけ込めたスイートポテトを、この貴女と一緒に過ごしたいがために美しく整えた庭園の中で一緒に食べられるのが、何より幸せ。


蝶舞う庭に、最愛の人が座って、紅茶と私のお菓子を嗜んでいる。

この光景は、私にとって天国そのものよ。

ノースちゃんのいない生活は、やっぱり私には耐えられない。

初めて学園で出会ってから、教師と生徒という関係ながら恋に落ちて、彼女の博愛の心と聡明さ、そしてこの純白の穢れない心。

聖女という概念そのものが人になった存在とでもいうべきかしらね。

とにかく、そのような少女に私は恋をしたの。

彼女はもしかしたら、私を悲しませまいと本音を押し殺して愛を受け入れてくれただけなのかもしれないけれど。


「勇者に付き従う賢者、聖女」という感覚であればまさしくこのような感覚ね。

当然、ノースちゃんは勇者の一員になったわ。

私としては、これほどつらいこともないけどね。


勇者に選ばれるのは、単に能力や才能、先天の素質というものではなくて、精神に美徳あるもの、善良さを失わない精神の持ち主である必要があるわ。

善良で、強くて、生きていれば幾万人を救うような大人物ばかり選ばれる。

でも、この世の当然の流れとして、そのような心根の持ち主には大切な人がいるの。

そのような人を大切に思う人が、そのような人から大切に思われる人がいるの。

魔王の封印の度に、多くの人が私のように、愛する人との死別に涙を流した。


でも、その時代は終わりを迎えたわ。

魔王は今度こそ、もう復活しない。

だから、私達の間を引き裂く世界の都合はもはや存在しない。


魔法の勉強をするノースちゃん、慈善活動に精を出すノースちゃん。

争いの調停の為に、何をすべきかを冷静に見極めるノースちゃん。

そして、シルクちゃんを甘えさせるノースちゃん。


そのどれにあっても、一緒にいられる。

いつもいつでも一緒にいられる。

彼女のぬくもりを感じられる。


「おかわりをいただいてもいいですか?」

ああ、かわいい。

「どうぞ。ふふ、ほっぺにお芋が付いてるわよ?」

指で優しくとって、食べさせてあげる。

ああ、愛おしい。

ノースちゃんにあんなにおいしそうに食べられるお芋たちが、正直うらやましくさえ感じる。

「ノースちゃんに食べられたいかも……」

「もう、お姉さまったら、ふふ。」


ああ、優しいこの昼下がりをいつまでも堪能したい。

こんなにも愛おしいノースちゃんとの挙式は、世界一幸せなものにしなければならないわ。


ああ、聖堂選びも、指輪のチョイスも間違いはできない。

大好きなノースちゃん。生き返ってくれて、本当にありがとう。

ノースちゃんの笑顔とこの庭園があり続ける限り、私はきっと、幸せでいっぱいだわ。





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「力不足」と勇者パーティを追放された黒魔道士、新たな仲間と共に魔王を蹂躙する 龍丼 @tatudon

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