おまけ2 きみとここで、海が見たいんだ(語り ダン)
魔王討伐の祝宴や、各地での魔王討伐記念パレードに、それから歴史書に記す内容の証言。
魔王討伐後の僕達は、本業も休息も縁遠い、多忙な日々を過ごしていた。
一区切りがついて、本業に割く時間や休息が取れるようになるころには、すっかり夏になっていた。
神の選任を受けた勇者ではなくなった僕たちは、それでもまた5人で冒険者稼業に精を出していた。
そんなあるとき、僕達は南西の観光地に向かうことがあった。
かつて先生の紹介で訪れた魔道具工房があるこの街の景色。
まずは荷物を宿にまとめて置き、おのおのが街を散策することになった。
「ねえダン、まずはどこに連れて行ってくれるの?」
ドロテアの笑顔に、心がときめいて仕方がない。
まずは先日の指輪や魔王討伐の際の結界装置のお礼に、魔道具工房を訪れることにした。
「きひひ、その様子だと告白成功か?よかったなあ!」
店番のルビエラさんは茶化すように祝福してくれた。相変わらず悪い魔女のイメージ通りの意地悪な笑いと表情だ。
そして、この工房に来た理由はもう一つあって、
「凄い……最新式の魔力調整システムだ。こっちの杖飾りは学会で出たばかりの命中精度と威力を向上させる構造を組み込みつつしっかりかわいい……」
ドロテアもすっかりご満悦だった。
この工房の技術力を示す展示品の数々は、こだわりの強い魔道士たちのツボを相変わらずおさえている。
そして看板娘のリズノワールも相変わらずだ。
「仲睦まじき事、まるで私のお母様方のようですわね」
ふよふよと店内を漂いながら僕達の様子をにっこりと眺めるリズノワール。
単純なドールとしての完成度の高さもさることながら、生きた人間と大差ない思考や受け答え、そして自己判断に寄る魔法の行使までやってのける。
「さて、婚約成立記念ということで、こんなものはいかが?魔王討伐の少し前に遠い北国で発明された魔法兵器の機構を取り込んだペアステッキですわ。」
リズノワールが提案したものは、一対の片手杖だった。
多人数で多種の魔法を一点に組み合わせることで各員別個に魔法を行使するよりも高い威力を発揮する技法。
それを塔のような大型の魔法の杖を複数設置し、大砲のような感覚で放ち、巨竜さえも一薙ぎにしようという大胆な魔法兵器。
これを早くも片手杖サイズに小型化する技術には感服仕切り。
それになにより、ドロテアと二人、お揃いの杖。
魔道士同士の恋人として、これほど良いものもないような気がした。
「では、このペアステッキをお願いします。」
「毎度あり!出来上がるまで時間かかるから、その辺でたんと遊んできなよ!」
僕達は杖の仕上がりを楽しみにしながら、次の場所に向かった。
この街の名産フルーツを提供する喫茶店。
前に来た時よりもさらに盛りの季節とばかりに大ぶりになった南国植物が出迎えてくれる。
この自然の息吹を感じさせるテラスで、ドロテアと並んで食べる甘味。
「しあわせー……」
二人並んで、このフルーツの甘く和やかな風味と感覚を堪能する。
あの日夢見て、それでも叶うまいと諦めたものが、現実に今起きている。
胸の底からこみ上げる想いがとまらない。
「あーもう、そんなかわいい顔してるとあたしがキスしちゃうぞー。ちゅっ。」
僕をのぞき込んで悪戯に笑うドロテアがまたかわいくて。
少し前までは夢だとしてもこうはなるはずもなかった現実に対するいとおしさが込み上げてくる。
そして、この街の名物、展望台から見る海だ。
展望台から見える海は、やはり素晴らしい。
「この大地が球形をしているっていう新説も、本当なんじゃないかって思う景色!すごいよダン!来てよかったね!」
目いっぱいにはしゃいで、幸せいっぱいを表現してくれるドロテア。
嬉しかった。景色がきれいなのも、素晴らしいけど。
その景色を前に、こんなにも喜んでくれる彼女が、僕にとっては一番素晴らしいことだった。
暮れ始めた空のオレンジ色と、紫色に染まり始める海。
「ずっとドロテアと、一緒に来たいっておもってたんだ。本当に、戻ってきてくれてありがとう。」
言葉が込み上げてきて、思考する間もなくこぼれだす。
「あたしも、一緒に来れて幸せだよ!戻ってくるように願ってくれて、ありがとう!」
心の中が、ときめきと、ドキドキと、幸せであふれる。
たとえこれが悪魔の誘惑で、満足したら地獄に送るというような話であったとしても、「時よ止まれ、お前は美しい」と唱えずにいられないほどに幸福だ。
そして、翌朝。
僕達のもとに魔道具工房から届いた完成品のペアステッキ。
「大切にしようね!ダン!」
それを手にしてまた、ドロテアはこの笑顔だ。
ああ、僕は彼女に恋をして、そして結ばれるために生まれてきたのか。
そう思わずにいられない、幸せな旅行だった。
二人で決めた結婚式の日まで、そう遠くない。
僕達は、きっとこれからも、お互いに恋して、愛して、生きていくのかな。
だとしたら、もう最高というより他はない。
水色が鮮やかに広がる夏空のように、僕の心は熱く、さわやかなものに満ちていた。
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