最終話 新しい時代

魔王は倒れた。

僕達が倒した。

夜明けの空に響いた喝采の中で、僕はそれでも涙を抑えきれなかった。

僕はこの勝利を、やはりみんなと祝いたかった。

ドロテアと、新しい時代を生きたかった。

「僕の、僕たちの、大切な仲間を……返してください。」

僕の口から、言葉が漏れる。

もう魔王に苦しまずに済む、新しい時代が訪れる。

でも、そこに勇者の仲間として共に過ごした貴方たちがいないのは、僕には耐えられない。

そんな思いにこたえてか、指輪が光り始めた。

指輪の光は、魔王がいた窪地に、4つの光線となって降り注ぎ、そして……

4人の人間に姿を変えた。

僕の仲間たちだった。

僕達が帰ってきてほしいと願った、大切な人たちだった。

「エル!エル!お姉ちゃんがわかるか?」

「イアナ!もう私を置いていくようなことをなさらないでくださいまし!」

「ノースちゃん!ノースちゃん!」

「本物のノースお姉ちゃんだ!うわぁああん!」


そして、

「ドロテア……僕は、幻を見ているのかな」

「幻なんかじゃないよ。ダンが皆を呼び戻したの。

帰ってきてくれって、あたし達を呼び戻したの。

ありがとう。本当に、貴方に後を託して、よかった。」


勇者の復活、そして夜明けとともに散った魔王。

僕達は魔王に奪われたものを取り戻したのだ。


そして、王都は再び、5年前の、いや、5年前以上の祝祭に湧き上がる。

今度こそ魔王は滅びた。復活の度に人類を脅かした存在はもういない。

そして何より、僕たちのそばには、大切な人たちがいる。

エルグランド様はアスミアさんにさんざんに構い倒しにされながらも、この喧騒の中で迷子を親元に届けたり、立ち往生する老人の面倒を見る。

相変わらずのお人よし、「だからこそ勇者なんだ」と言われれば、誰もが納得するであろう振舞いだ。


イアナ様はアルカさんの隣で、職人たちに囲まれている。

街の何人かの力自慢の男たちが冗談で挑んだ腕相撲も全戦全勝。

面白がって二人がかりのずるをするような輩も現れたが、ひるまず一息でこれも押し返してしまうのだ。

少し酒の匂いもする豪快な笑い声に包まれながら、二人は幸せそうだった。


ノース様の両脇にはメイ先生とシルク様ががっつりとくっ付く。

その様子はまるで、仲睦まじく笑う家族のようでありとても微笑ましい光景だった。

更にそこに、魔術学校の後輩たちが並んで押し掛ける。

教会関係者からも熱烈なスカウトを受けている。

ノース様の清くあたたかな心ならきっと、神も祈りを聞き届けてくださる。

きっと彼女を知る者のうち、これに違うと答える人間はいないだろう。


そして僕とドロテアは、二人で箒に乗って空にいた。

学生のころから、二人きりの時間が欲しくなると、僕とドロテアは決まってこうした。

「ねえ、ドロテア。僕は君のことがずっと好きなんだ。」

「あたしも、ダンが好きよ。ずっとね。」

いまさら何を迷う必要があるんだ。

ルビエラさんはこれを予期して、あの二つの指輪をくれたんだろうが。

でも、まだ勇気がわかない。

だとしても、僕のこの思いは本当なんだ!

「ドロテア、その、僕と……結婚、してくれる?」

「うん!ダン!嬉しいな……こんな夢みたいなこと、あるんだね。

いいよ、ずっと離さないから。ずっと、あたしに愛されてもらうから。

いやだといっても魔女のもとからは逃げられないよ。私の王子様。」

ドロテアのぬくもりと、心臓の音が聞こえる。

僕達はついに成し遂げて、そして、此処からまた、もっと幸せな日々を始めるんだ。

青空のもとで、僕はただ、この幸福に浸っていた。

願わくば永久に、この幸福が続きますように……。

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