第18話 最後の決戦
夕陽が見えなくなったと同時に大穴は周囲の石像共々消滅し、ついに魔王が蘇る。
しかし、僕達も絶望はしない。
今日この日が来ると考え、用意を済ませてあるからだ。
そして、エルグランド様たちが残してくれた勇気が僕たちの中に消えずにあるからだ。
さあ、開戦だ。
蘇った魔王は、開幕一番に漂う人の匂いにつられて障壁に拳を振り上げるが、そうは問屋が卸さない。
魔王は古城の設計者の読み通り、人間の匂いの前に闇の魔力の塊と化した障壁を視認すると、あわてたように拳をひっこめた。
そんな魔王の背後から、イアナ様の父主導でくみ上げられたへレポリスが坂を駆け降り転がり込んでくる。
魔王の反応速度では防御も間に合わず、その場にいた全員の聴覚を葬らんばかりの轟音の悲鳴と共に、魔王はその背中に車輪型の傷を負うことになる。
そして、障壁全体に衝撃が走る。
へレポリスは当初想定の通りに障壁の窪みにすっぽり収まり、作戦の第一段階の成功を告げる。
「ダン様、覚悟はよろしくて?」
「ああ、僕たちの思いはすべてここでぶつけよう!」
「二人とも、立派になったわね。100点満点だわ。」
第二段階の主役は僕達だ。
魔王の背にできた車輪型の傷を狙い、ありったけの魔力で勇者の魔法を撃ちこむ。
無論それも、神様に授かったそのままではない。
アルカさんのアイデアによる闇の魔力の吸収と自己強化を術式に組み込んだ魔王特化のものだ。
魔王は上空から執拗に降り注ぐ虹の雨に、当初こそ腕を振るい撃ち落とそうとしたものの、その腕さえもやがてかすり傷が出来、更に勇者の魔法を押し込まれると、とうとう頼りの腕も斬り飛ばされる。
無論、これで第二段階成功を宣言するのは早い。
魔王は斬り飛ばされた腕を自身の闇の魔力でつなぎなおす。
しかし、それでも僕たちはあきらめずに押し込み続ける。
疲弊したものから下がり、バックに控えた人が交代に上がる。
僕やアルカさんも2度、3度と後退しつつもまた復帰し魔法を放つ。
もう100回目にはなろうかという呪文の詠唱を終えたとき、僕は魔王が縮んでいることに気が付いた。
そうか。体を構築する闇の魔力を勇者の魔法に吸いつくされすぎて小さくなったんだ。
どうせなら限界まで小さくしてしまえ。
調子づいた第二段階の参加者による魔法攻撃は勢いを増した。
今や僕たちの中に、この戦いが封印や敗北で終わるなどと考える人間はいない。
そうしてとうとう魔王はガルドス一匹分までのサイズにまでなってしまった。
「さあ、勇者諸君!このアスミアに続け!この勢いなら夜明けに終わるぞ!」
もんどりうってなだれ込むアスミア隊。ここに思わぬ所からの増援が現れた。
「僕達も加勢しよう。ダンが僕たちのためにしてくれることなんだから。」
「これだけのことをしてもらって、ダンマリでは私たち勇者の名が廃る!」
「皆様の為に、私達もできることをしなくては!」
「ダン、やっぱりダンに後を託して正解だったわ。ありがとうね!」
僕の、大切な仲間だった人たちだ。
魔王の中に魂を取り込まれてなお、僕たちに手を差し伸べてくれようとする。
そうだ、貴方たちがそういう人たちだったから、此処にいるみんなが集まったんだ。
さあ、一緒に終わらせよう。魔王に人を捧げ続ける悲しい物語を。
魔王は内外からの苛烈極まる攻撃に手も足も出ないといった様子だ。
しかし、魔王もあきらめが悪く、土壇場の生命力を見せ生き続ける。
しかしそれも終わりの時が来た。
東の空に明るいものが見え始めたその時だった。
「弟を!エルグランドを!返せー!」
その叫びと共に振るわれた剣が、魔王を消滅させた。
後に残った赤く光る球体。
「ダン君、あれが魔王の心臓よ。さあ、終わらせなさい!」
僕は全魔力を集中させ、最後の一撃を放つ。
そして…
砕け散った魔王の心臓から、4つの光球が立ち上り、消えていった。
僕達は、やったんだ!
勝利を確信した勇者たちの歓声が、夜明けの空に高らかに響き渡った。
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