第14話 森林の魔物たち

メイ先生から紹介された魔道具工房に向かう馬車は、深い森を超えようとしている。

この森は栄養に満ちた果実や植物、それらを起点にした多種多様な生態を持つ魔物たちのオンパレードだ。

鋼鉄防具さえダメにするような鋭い足爪を誇る鶏の魔物。

甘い香りにつられた獲物を集団で襲う竜の群れ。

そして、何より恐ろしいのはこれらの魔物から格好の餌食とみなされながらも大あくびからの寝返りでお構いなしにひき潰してしまう巨体の悪魔だ。

僕とアスミアさんは馬車の護衛を任されているが、魔物の数も強さもいつぞやの荒野の比ではない。

鶏の魔物は速やかに迎撃を入れなければ、並の剣では逆に剣の方を痛める程のアスミアさんの聖銀鎧にも傷が付く。

巨体の悪魔も気が立っている個体は雄叫びと共に闇の魔力の塊をやたらめったらに放つ。

「月光よ!我らを呪う闇を祓いたまえ!」

勇者の魔法の一つ、月光の結界でもってこれを防いでも、弾かれた闇の魔力は木をへし折り、僕たちの真上に巨大な丸太を叩きつけてくる。

「くっ!王国騎士をなめるなよ!」

アスミアさんは素早く魔法で強化した大盾を掲げ、丸太をかろうじて受け止める。

今の一撃は防げても、このような攻撃が今後も続けば馬車が潰されるリスクがある。


「もしやと思って、ノースお姉ちゃんに教わった木の実を持ってきました!この森の悪魔の機嫌を損ねたら、まずこれをと聞いたので!」

シルク様が馬車から転がしたのは、甘い香りで1m近くの大きさの果実だ。

悪魔は目の色を変えて果実を拾い、大口を開けてかぶりつく。

悪魔はさながら天国にでも迷い込んだかのような至福の表情で一心不乱に果実の味をかみしめ、ご満悦といった様子だ。

「あれはこれから向かう町の名産のフルーツで、今の悪魔、グレーターデビルの大好物です。私達も着いたら食べられますよ!」

シルク様の解説に、僕もにわかに空腹を感じ始めた。

あんなに美味そうに食べられたら、僕だって同じものを食べたくなる。


そんな空腹に油断した僕は、目の前に飛来した東洋竜のような魔物への対応に遅れてしまう。

魔物の氷のブレスを間一髪で炎の魔法で押し戻したが、魔物の側に痛みを感じている様子は全く見られない。

しかし、この竜のような魔物は見れば見るほど異様だった。

カブトムシに似た頭部、ムカデをとにかくでかくしたような胴体。

それが大きな竜の翼をもって飛んでいるのだ。

氷を吹いて虫なのだから火には弱いか?いやどうだ?

手が止まりかけた一瞬のうちに、魔物の首は一刀のもとに斬り捨てられていた。

「考える暇あらば殴る、この虫魔物に対してだけはその方が効くんだ。」

アスミアさんの剣速に感心しながらも、改めて僕は自己の頭脳に頼りすぎる癖を恥じる。


「護衛感謝だ!そろそろ馬車が街に着くぞ!」

馬車主の方の声に促され進行方向に向き直ると、王都よりも壮麗な街並みが太陽に照らされまぶしく現れる。

この街は南国の贖罪をふんだんに使った美食と美しい街を売りとする観光地として有名だ。

僕達はその美しさにただ、息をのんだ。

そして、先生御用達の工房は間もなくだ。

先ほどまでの暗い森を抜けた爽快感と共に、明るい予感に胸を膨らませた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る