第8話 神の創りしもの、人の造りしもの

翌朝、僕は観光客用の通りから、荒野地域に来た主目的である工業地帯に来ていた。

荒野にある銀山や鉄山の鉱石を加工するために整備されたこの街では、武具のみならず、日用品や装身具、調度品にと様々なものが作られている。

そのため朝早くから通りは依頼に来る人々でごった返している。

目的は勇者の武具の相談だ。

勇者の武具は本来、神から勇者パーティの一員に選ばれたものに授けられるものであるが、今回はそうもいかない。

神の選任を待たないのであれば、勇者の武具は授かりものではなく、自分たちの手で作り出せなければならない。

ということで、イアナ様の槍の整備をしていた工房にこの相談をすることにしたのだが……


「ダン君、勇者の武具は研ぎなおしやゴミ取り位はできても人間にイチから作るのは不可能なんだよ。」

想定はしていた。魔王の脅威は王国に限らず、世界人類の脅威だ。

聖銀が高価であるとはいえ、魔王の脅威は世界人類共通の問題なのだから、当然勇者の武具は各国の軍隊に装備されるはずだ。

しかし現状、勇者の武具は神がお創りになられたものが個々人の技能に合わせて与えられる以外に手に入れる方法が無いのだ。


魔法ならば昨夜のような感覚で新しいものを生み出せるが、魔力を扱うすべを全くの一から学んで勇者の魔法を一通り5年で身につけろというのも酷な話だ。


「まあ、聖銀で物を作れという話ならいくらでもやってやるさ。」

煮え切られない工房主に見かねたアルカさんが食って掛かる。

「敵は魔王、イアナの仇ですのよ。一矢報いたいとは思いませんの!?お義父様!」

「一矢報いるなんて生易しいもんじゃ済まねえよ、あんなトンチキ野郎が穴倉から出てこなきゃうちの娘だってわざわざ死にに行かずに済んだんだ!今度出てくるようなら穴ごと消し炭にしなきゃ収まりつかんさ!」

お義父さま。

この方はイアナ様の父だというのか。

「俺に勇者の武具が打てるなら、剣でも槍でも弓でも、なんなら戦車や大砲だっていくらでも打ってやるよ!ほかのやつらに声かけてへレポリスだって作ってやるさ!

……ああ、そうか。」

子を亡くした父の無念はすさまじいものだった。

それでも、怒りに叫んだ後、落ち着きを取り戻した。

激しい怒りを抱きつつも、飲み込まれない。

イアナ様と同じだった。


「ダン君も勇者の仲間で、確か杖があるだろう。

イアナが使っていた槍はアルカちゃんの城に置いたらしいな。あれらを借りたい。

俺たちここの職人総動員して、錬金術師の先生なんかも招いて人間が作る聖銀武具と、神さんが作る勇者の武具の違いを調べるよ。

このままじゃ終わらせないさ。そうでなけりゃ死んでからイアナにも親父にも顔向けできないからな。」


工房主は、決意に満ちた目で杖を見つめていた。

それはまるで、初めて出会った日のイアナ様によく似ていた。

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