第7話 夜の街は虹のように

酒場に入り早速注文した荒野の地域の名物料理は、重厚感をこれでもかと出すような着地音と共にテーブルに現れた。

丸々としたガルドス肉とジョッキに並々の甘さほろ苦さをしっかりと香りに乗せる琥珀色の酒。

そう、パワフルな肉体労働が主要産業になるこの地域ならではの豪快さ重視の逸品だ。

一仕事終えてきた人間にも味がわかるようにするため、少し味が強めなのが王都の酒場と違う。

「あら、こんなところで出会うなんて奇遇ですわね」

陽気でおおらかな雰囲気も手伝って程よく酔いが回ったころ、意外なことにアルカさんがいた。

古城のある場所からだいぶ離れているのになぜだろう。

「ここはイアナの故郷ですのよ。私にとっても大切な場所ですのよ。ああ、そういえば……」

「イアナだよ!そうだよ!あの子が勇者だなんだと言って飛び出してから仕事が多くて儲かって!」

「城砦イアナの大鎧!大砲だって効きやしねえ傑作だぜ!」

「『あれさえ着てりゃあ、魔王も平気だ』とよ!」

気になる話が出てきそうなところで、酒場の荒くれたちがイアナの名前に反応して盛り上がってしまった。

「場所を変えましょうか。わたくしの話というのは、外でした方がいい話ですのよ。」

ひとまず皿をカラにしてお代を払い、僕とイアナさんは外にでる。

「話というのは昨日教わった霊体を断つ魔法のことですわ。」

あの魔法に何かあったのだろうか。それともやはり、資格無き者に勇者の技を教えてはいけなかったのだろうか。

「あの魔法、いじったらおもしろいことになりそうだと思いましたの。そう、例えば……術者の扱える魔力が少ない状態でも、威力を大きくする方法があったら、私達の目的により適した形になるのではないかと。」


攻撃用の魔法の威力を高めようと思えば、基本的に、先のガルドスに対する冷気ような対象の性質による相性を考えた攻め手をするか、瞑想をはじめとする修練を積み、術者に制御できる魔力を高めてより大規模な魔法にするかの二択だ。


「ないのなら、奪えばいい。それが私たち吸血鬼ですのよ。

このマントも服も牙も、生けるものの命と魔力の源になるエネルギーを奪い去るためのもの。

そう、この魔法も私たちの牙にしてしまえばいい。そう思いましたの。」

そういうなりアルカさんは地面にその発想を描き始めた。

なるほど、対象を切り裂きながら切断面から吸い込んで魔力に変換。

そして刃に吸収された魔力で、刃をさらに強化するというものだ。

ベースになる虹の刃の魔法は、勇者の技の中でも基礎的なものだ。

だからこそ、弄りやすい。

アルカさんのアイデアを盛り込むのもそう大変な作業ではなさそうだ。

アルカさん達吸血鬼の使う捕食のための魔法をベースに、触れたものの魔力を吸収する魔法を作り、虹の刃に組み込まれるようにする。

これをベースに街の外でひとまず実験だ。

今回は昨夜の的用ゴーストを10体作り、縦に並べる。

「切り裂け!」

虹のナイフがゴーストに当たったとき、昨日とは異なる現象が起きた。

刃がゴーストを切り裂くだけでなく、吸い込んでいるのだ。

これには僕もアルカさんも興奮した。

更に3体ほど切り捨てたところで、刃がナイフのそれではなくなった。

集めた魔力による強化が作動し始めたようだ。

ナイフはソードになり、ソードはクレイモアになる。

大振りになり一撃の威力が増すばかりでなく、しかも鋭くもなっているように見える。

最終的に虹の刃は、10体目の後ろにある大岩を真っ二つにしてしまった。

重厚な地響きを起こし、岩は綺麗な断面を見せる。

「凄い……」

思わず口からこぼれた言葉。

アルカさんもアイデアがこのように形になったことでで大満足のようだった。

宿屋に戻る僕たちの足取りは、空に踊る星々のように軽やかだった。

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