第二章 Beyond the Template -再発の旅-
44.主役と脇役
俺たちはどこで道を間違えたのかと嘆いた。
だが、それが人の条理。この世に正解なんてものはありゃしない。
こんな世界間違っているとすべてを恨んだ。
だが、それは自分に向けた刃。許せないのは己の心だと。
認めたくねぇけど、案外似た者同士かもしれねぇな、俺たち。
大地がめくれ、残雪覆う山々が影を生み出す。天より押し潰さんと迫ってくるそれに向け、極大の熱線魔法により風穴を穿つ。
"晴天快晴"を願うその魔法を唱えて切り拓いた先、迎え入れたのは一面の夕闇でなく、無数の太陽――いや、鉄山をも熔かす熱光線の雨だ。
見定め、予測し、
地と山々が湾曲し、地平線が弧を描く。重力は踊りだし、万象は行き場を失い時が止まった雨粒のように宙へ舞う。当然、俺も塵の一つとして翻弄されるも、遊泳するなんて間もなく突如激流に飲まれるように大きな力に引き寄せられる。
星々のように浮き出す山と木々背負う地盤の数々と稲妻のように天地を結びだした河川を潜り抜け、瞬く間になじみ深い黒い瞳が目に入った――途端、そいつの持つ大楊杖が放つ光と歪んだ空間が、眼前を包み込む。
「ッ、"
視界は一転、空間転移をもって開けた世界は群青と紅の境界線。いや、それだけじゃない。
星空の如く、十数の
「"
ざっと40人近く。珍妙だが性別の区別を除き個性を殺したような統一感とシンプルさを纏う
「げほっ、……"
あれが話に聞く"クラス転移術"の使途か。元々は勇者候補を召喚するために開発された御英霊サマの降霊術だったはずだが、上手くいかず結局ああいう形に収まったんだっけか。別の世界と接続して怪物を召喚する術は知られていたが、俺たちと同じような人類を召喚できたのは革命的だがな。
異世界からこの世界に
どいつもこいつも口に変な布みたいなのつけやがって、気味が悪い。戦いに
「弱い者いじめにもほどがあんだろ」
血痰を吐き捨てる。大人数に囲まれてリンチ喰らったガキの頃を思い出す。ついでに反吐も出そうだ。
「なーんだ、"
「そりゃあ、"ご主人様"に力を授かったんだし、みんなで戦ったから何とかなったんだと思うよ」
「おい油断するな。まだ仕留めたわけじゃないだろ」
「なによぉふたりして。ちょっとは共感してよね」
「ご主人様、あとは俺たちが――」
この状況をなめ腐っているとしか言いようがない
空から高みの見物をしてやがった黒髪の魔術師にして現勇者――メイン・マズローを見上げる。
「ほんっとに容赦ねぇなおまえ……元勇者パーティのよしみとかないのかよ」
静かに降り立つ、かつての仲間は重たそうな口を開く。
「仲間だからこそ、情けは不要だと思うが?」
「っ、言うじゃねぇか」
何考えているかわかんねぇ無表情につまらなさそうな目。口元だけ動かして、ぽつりと吐き捨てるような口ぶり。相変わらず鼻につく返しがどうしてだか耳心地が良い。
「だったら
そう言う俺の挑発に、あのメインが乗るはずもなく。ただ冷たい視線を向けていた。
「……なぁ、どうしても譲れないってか」
ああ、と淡白な返事が返ってくる。
「そっちの"転生者"をこちらに渡してくれればいいだけの話だ。僕だって、サブとは戦いたくない」
「にしてはやけに生き生きしてるように見えるがな」
「僕は本気だ」
一瞬の間を置き、わずかに強くなる語気はまるで否定するかのように聞こえた。こいつが図星になった証拠だ。
「ハッ、俺だって大真面目だ。おまえもバカじゃあるめぇし、結末がどうなるかくらい目に見えてるはずだろ」
「僕が望む未来であることに変わりはない」
「本気で言ってんのかよ」
こいつの身に
「勝負は目に見えている。戦況を判断できないほどサブは馬鹿じゃないだろう」
「ここまでやってまだ気づかねぇのか。俺ほどバカな奴はそういねぇだろ。何度も言うけどよ、おまえの要望に応じる気はねぇ」
「それによ」と歯を見せる。「逆境ほど、俺は燃えるんだよ」
左腕の黒い義手から魔力を放出する。それが全身へと流れ、構える長杖へと流れ、制御する。剣のように掲げるその切っ先に、迷いを見せる必要はない。
おまえにも守りたいものとか、どうにかしたい未来とか世界とかあるように、俺にだってあるんだ。この命
あきれたような、あきらめたようなため息。だが、メインの黒い瞳はどこか懐かしむようなそれを見せ、背に担ぐ大剣――聖剣を抜いた。
「……そうだったな。サブは確かに生粋の馬鹿だ。今も、昔も」
「そーいうこった」
勇者とか、転生者とか、チートとか、神とか。
もうどうでもいい。
いまは目の前のこいつと向き合わなきゃ話は始まらねぇ。
上等だ、最後まで付き合ってやるよ。
「馬鹿野郎同士……くだらねぇ喧嘩しようぜ、
おまえが自分を認めるまでな。
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