異世界オルタレーション ~勇者パーティから追放されたレベル999の支援系チート魔術師が追放者同士で最強Sランク冒険者パーティを組むそうだが俺だけが有能だと気づいているのでざまぁされる前に連れ戻したい~
23.脇役の活躍 ~やれやれって言う人ホントにいるんだ~
23.脇役の活躍 ~やれやれって言う人ホントにいるんだ~
ひとつ仮説が浮かび上がる。イチかバチか賭けてみるか。地面に手を付けた俺は先ほど周辺に仕掛けた光る蕾に、別の
「"
蕾から生じたのは雷が描く
奴は逃げない。形状も変えない。曖昧だった輪郭の明確化、つまり実体化の可能性。
これはビンゴかもしれない。
「"
詠唱を合図に、両手で地面に挿した大杖から大量の魔力が体内に、精神に流れ込んでくる。感電したような全身の震戦に加え、皮膚があちこち破けるような痛みは肉繊維や血管から漏れ出ている魔力によるもの。痛くて仕方ねぇ、さっさとやっちまおう。
「ぐぎ……ッ、"
杖を手放し、一歩前進しながら広げた両腕から放電が漏れる。前方へ伸ばした手をパンと合わせ、頭上に生み出したのは大規模の電塊を為す渦二本。U字に形成させ、先端を槍のように並行に伸びゆくそれらは磁力を生じ、地表の砂鉄や導体の欠片を飲みこんでいくにとどめず、その間にもう一つの魔法を同時展開する。
「"
周辺の土を、礫を、岩を、骨を。魔法陣が刻まれた手指を巧みに動かしては九字の印を切り、それらを操っては一点に集結させる。物質の全てを高圧で圧縮し、割れ、モザイク化、再結晶、非晶化、相転移を通じて、硬化に貢献するよう制御。その錬度を高め、精度を上げて作るは一本の巨槍。
まさしく一角の獣が森羅万象を貫くが如く。雲海を泳ぐ竜を狩る雷の矛の如く。
射抜け。
「"
稲妻の如き速度で俺の背後から射出された岩の巨大な槍は、躱そうとした骸の王の胸部を貫いた。白い鎧を砕き、黒い体毛から赤い血が流れ始める。けたたましい咆哮が耳をつんざく。
予想的中だ。鼻や片目から熱く鉄臭いのが溢れ、とろりと流れているような感覚に今更ながら気づくが、もう一歩の手前、そんなこと気にしてられねぇ。
だが、ちょうど光魔法の効果が切れ、再び暗闇が俺の周辺以外を飲みこんでしまう。途端、影蛇が湧き水のように地表にあふれ出し、目の前の奴は溶けるように消えてしまった。先端が砕け、罅の入った巨槍が落ち、割れる。
一気に全身の筋肉が強張り、神経が尖る。ゆらりと空間が歪むようにして闇から顔をのぞかせる死の獣の片鱗。見えにくいが逃してはならない。目をそらさないように見続けていた骸の王の姿が。
「――ッ、消え」
闇に呑まれた。
視界も黒く、轟音は一瞬。聴覚が受け入れるのをやめた。
深海のように、暗く沈むほど自分が自分でなくなるような曖昧さと重み、そして圧力。痛覚もなにもかもが最大限にして感じた後に来るものは無だった。
何が起きたのかもわからない。さっきのような力任せの攻撃や光線じゃない。奴を覆う闇が飲み込んだような感覚にも似る。
だが、それは永遠に続かなかった。
過剰な重力も、重々しい闇も取っ払われ、解放される。
ああ、よかった。ほかでもない、メインの顔がぶっ倒れた俺を覗いていた。
「無事か?」とぶっきらぼうな一言にぷっと笑う。
「助かったぜ。ありがとよ」
伸ばした腕をメインは掴み、起こしてくれた。どうやら転移魔法で避難させてくれたようだ。ごく自然に使っているから今まで気づかなかったけどおまえも普通に転移魔法使えるのかよ。
「やれやれ、僕はいつも通りやっただけだが」
「その言い方なんとかならんの?」
バチコリイキリ野郎め。今日も活きのいいイキりっぷりだぜ。
つか前から思ってたけどやれやれって言うのやめた方が良いぞ。って言ってもしょうがねぇけど。
「なんのことだ?」
「いや……なんもねぇ」
通じないからな。
「ちなみに、あと一歩遅ければそこらの骨の仲間入りだった。回復系の支援魔法はしておいたから、その死人のような色をした痩せこけの肌は直に元に戻るはずだ」
「そんなひどい見た目してんの俺」
「ああ、骸骨一歩手前だ」
自分の両手を見る気も起きなかった。それに淡々と言うもんじゃねぇと思ったが、逆にこういうことで変にリアクションしないのはこいつの昔からの良いところだ。
用意しておいた魔法水剤をさっと飲む。血のめぐりが良くなり、冷たかった体に熱さが灯る。枯れた体に潤いが戻るような。薬だけでなく、それによって促されるメインの支援魔法の効果も伊達ではないな。心なしか乾燥し固まった肌の感覚が薄まった気がする。
「ま、治るならなんでもいい」
それより、と話を続ける。「光属性の魔力の付与を頼む」
「なんだ、気づいていたのか」
「お前だけだと思ってんじゃねぇよ。大魔道士舐めんな」
「サブさん、こっちにもわかるように言ってくださいよ」
後ろにいたレネが小言を挟む。ユージュもリリスもいるし、なんとか合流できたようだな。というかそういう大事な話は共有しておこうぜメイン君。なんで生死の狭間にいた俺に説明求められてんの。
「力だけじゃどうにもならねぇタイプだからだ」と
「だから攻撃が通らないんですねぇ」とユージュは納得の表情。
「いやそんな魔物がいるんですか!? 聞いたことないんですけど」
「現に目の前にいるじゃねえか。いいから集中しろって」と大杖を槍のように回しては構え直す。
「リリス、"
「わかりました」とメインに応じたリリスは、立てた尻尾をゆらゆらと揺らし、小さく口を開けたまま、しかし音を発しているのかこの位置からではわからず、無言で周辺を見つめているようにしか見えなかった。いまアンデッドっつった?
まさかと思ったが、とうとう彼女もアンデッドの類に対しても使役魔法をかけられるようだ。
すぐに骸の地から魔物の死骸からヒト型の骸骨までもが腕を伸ばし、吐くように這い出でてくる。まるで生前の魂が再び元の器に無理矢理戻ったかのように。無論、そこに宿るのは魂でなく力を得た微小の魔物群あるいは透明かつ不定形の魔物と魔力溜まりだけだが。
それらは有無を言わず(言う口もないが)、骸の王の足元へしがみつき、脚、体へと大量に張り付いては覆っていく。自らが鎧の一部と構築するようになっていくところで、メインは杖を掲げた。途端、アンデッドの体は鉄のように硬質化し、奴の動きを封じ込める。やっぱりあいつといた方が幾分か楽だったな。
「あれっ、封じ込めました?」と意外そうにユージュは言う。
「奴は鎧として骸を身にまとっている。つまり流動化を阻害している可能性がある。それと同じ材質でくるんで、固めて束縛してしまえば、多少の時間稼ぎが――」
「そういやさっき魔法付与して矢ぁ飛ばしてたよな」
メインの説明を聞き流し、レネにそう尋ねる。
「え? ああ」と思い出したように声をあげる。「はいそうですけど」
「被弾した瞬間に何十もの矢として広範囲に矢型の魔弾を飛散させることはできるか。この間のAランククエストでやってくれたやつ」
もともと、レネは実用レベルで魔法が使えない。だが、メインの支援によって武器に魔法修飾して改良することを可能としていたのは俺も把握している。できますよと返答が来る。
「俺の出す魔法めがけてそれを放ってくれ」
「りょーかいですっ」と快く返事をもらったところで、俺は杖を地面に挿し、両手を合わせては詠唱する。
「"天陽の樹、夜明けにてその花を。実りを。神に貢ぎ給う。種を恵み与えん、人に豊穣と祝福を"」
骸の王はメインのおかげで動こうにも動けない。影化して流動することもできないようだが、軋む音がやけに甲高く聞こえる。早く手を打とう。
「放つぞ――」
「はい!」と応じたレネは重心を落としては空へと弓を構え、矢を引いている。
「"
二本指を天へと掲げたとき、人間大ほどの光の弾が尾を引いては空へと噴き上がる。
「くらえっ、"
レネがそう叫んで魔法を纏った矢を放つ。ちょうど光の弾に直撃し――光の雨が八方へと拡散した。近くへ、そして遠くへ飛散する小さな光の水滴が着弾するなり、まばゆい光を放つ。
まさに流星群が夜空を翔け、この地に降り注いだよう。瞬く間に闇の世界は霧散し、夜明けを迎えた。アンデッドの束縛を力任せに解いたも、その光から逃げ遅れた骸の王は巨狼の形状を保ち、うめき声を上げながら実体化する。
「ナイスショット」
「ふふん」と鼻を鳴らし、誇らしげな笑みを彼女は浮かべた。
「で、詠唱のつもりかそれ」
「むっ、無言より叫んだ方が威力がたぶん増すんですよ!」
かぁぁ、と顔を赤くしてそう言い返される。誰しも通る道だなと改めて思う。
「そうだな、いいセンスだと思うぜ」と軽口叩くように返し、俺は視線はすぐに目標へと向けた。
「うし、実体化したぞ」
メインとアイコンタクトを取るなり、あいつは次の指示を出した。
「リリス。
「はい、メイン様」
彼女の口から空気が細動するような、空気がか細く噴き出るような音――蛇の威嚇音――が聞こえる。骸の王を守るように瘴気を分泌させながら集まろうとした無数の影蛇が違和感ある挙動を繰り返すと、四方八方に散ったり、地面へ潜ろうとする。待てと言わんばかりに骸の王は一層大きな、しかし力ない咆哮を上げた。
「ユージュ」
「はぁい」
察したユージュは既に剣を薙ぐ。
下から上へ振り上げ。左から右へ薙ぎ。上から地へ振りかぶる。
そう何度も巨大な斬撃波を飛ばし、骸の王の堅い体に傷をつけ、仰け反らせる。だが、やられっぱなしではないのは当然だ。
その口の中で生じた眩い光が漏れる。
「っ、ひゃあ」
「下がっててユージュさん!」
叫んだレネは矢を放ち――発射寸前の口の中へと吸い込まれるように射抜いた。
爆発魔法の付与でもされていたのか、骸の王の口内がさらに激しく瞬き、爆炎を噴き出す。巨体のあちこちから煙と血を噴き出し、体勢を崩しかけた黒い獣の眼光は死んでいない。むしろ、殺意に満ち溢れていたような。
地を踏みこみ、爆炎漏らす巨大な咢を開けたまま、レネたちへと牙を剥け突進してきた。
「"
左腕を覆うように魔法陣を展開し――ひじから先を巨大な
「っ、サブさん!」
「いい子だ犬っころ。そのままおとなしくしてな」
ようやく生物としての片鱗を見せた。生きようとすること、それが自身の弱点だと知らずに。
右に携えた杖に光と負の火属性を修飾する。白くも蒼い冰の刀剣を形成しては――。
「"
宙を舞い、闇の尾を残してはくるくる落ち行く影狼の首は、やがて骸の山に埋まる。
息を深くつく。ようやく終わったか。
近づいてみると分かる。実体化したまま転がっている骸の王の頭部は大きい。これだけで民家一軒分はある。
「こんな腐った
ぐちゅん、と白く剥いた眼球に瞳が戻り、こちらを見た。
ッ、まだ生きて――。
漂泊。
最期の足掻き。頭部だけとなった怪物の口から放たれた魔力の塊は光線として俺を吹き飛ばしたのだろう。防護魔法を魔力単位へ分散するタイプのそれだと感じたとき、背中から感じる断熱圧縮熱は一瞬、すべての骨が砕けんばかりの衝撃が走った。明滅する意識。だがこんなのは慣れて――。
――『負け犬は引っ込んでろよ』
――『夢を見るのは勝手だが諦めろ。おまえはこのままのたれ死ぬんだ』
――『誰かこいつを殺せ。ゴミは死んだ方が世のためになる』
ノイズが走る。
「――サブさぁん!」
「……っ?」
瓦礫を掘り起こし、レネが力任せに俺の腕を引っ張り上げる。吹き飛ばされた距離は相当あったはずだが、いや、自覚せず失神してた時間があったのかもしれない。現に、くだらねぇ記憶を夢のように見ていた気がするし。
生命力ある骸の王を3人が仕留めたのか、あるいはあの一発で事切れたのか、もうおぞましい気配は魔力と共になくなっていた。
「サブさん! 大丈夫ですか!」
「お、おおう。なんとかな……」
「いやなんで無事なんですか!?」
起き上がり、肩を回す。服は汚れたし痛むところもあちこちあるが、まぁ致命傷は免れたか。けど魔法を施していてこれだけのダメージを受けるなら、もう少し対策が必要だ。
「鍛え方が違うんだよ。なぁメイン」
「いや、僕は知らないし。怖ぁ」
「なんでテメェもドン引きしてんだよ!」
レネの後ろでユージュらと一緒にいた魔術師は受け付けないような顔の引きつり方をしていた。声を上げるなり頭痛がするので今ツッコむのはやめよう。あたりを見回し、「とりあえず全員無事そうだな」とつぶやいた。取り出したポーションをもう一本、一気に飲み干した。
「でも、聖剣らしいの見つかりませんねぇ」とユージュ。
「リリスちゃんは気になったとこ見つけた?」とレネが聞くと、「あっちの奥、続いていたよ」とぽつり話してくれた。有能かな?
「でかしたぞ」とメインはリリスの頭をなでる。嬉しそうにされるがままになっている彼女は、獣耳をぴんと立てて、目を瞑って尻尾をぶんぶんと振った。身内でもない人の頭をなでるとキレられるとガキの頃に教わったことのある俺は、なんともいえない気持ちでそのやり取りを見届けていた。
にしても、死の淵を味わったのか、嫌なことを思い出しちまったな。10年以上も前の話だというのに、鮮明に覚えているようだ。
「……っ」
ぐらりと身がよろめく。心配の声を彼らから受け取ったが、なんてことないと笑って突っぱねた。
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