異世界オルタレーション ~勇者パーティから追放されたレベル999の支援系チート魔術師が追放者同士で最強Sランク冒険者パーティを組むそうだが俺だけが有能だと気づいているのでざまぁされる前に連れ戻したい~
24.第三層 "英雄たちの黄泉" ~ちょうどここにヨイショできる舞台装置がありますね~
24.第三層 "英雄たちの黄泉" ~ちょうどここにヨイショできる舞台装置がありますね~
*
気が遠くなるような死の世界を歩く。昇ることもなく、徐々に降りているのが足の裏で分かった。洞穴を潜り、小さな崖の数々を降り、時には死骸の壁を掘った。
数時間の末、俺の死人間近の容姿もすっかり元の健全さに戻った頃、最下層にたどり着く。そこには広い地底湖があった。ただ、その水の色は透明であるも赤く帯びている。
特に魔物の気配はなく、否、魔物を寄せ付けない魔力を帯びているのが分かった。"選別の泉"だと、資料に書いてあったな。要は人間であれば入れるフィルターのようなもので、同時に第三層へと続く門だと俺は見た。水面の底を覗くと、広がるのは闇ではなく光だったからだ。
単に光る植物か石が水底にあるだけかもしれない。だが、それ以外の道はきっとない。ひとまず俺が率先して地底湖に飛び込んだ。
思ったよりも深い。だが驚くほどに水らしい抵抗力はない。冷たくも温かくもない。入り口以上に、水面の先は広い世界が広がっており、まるで夕闇に焼ける空を泳いでいるかのような錯覚に陥る。
水底へと向かった先、俺が出てきたのは
ザパ、と水から上がり、服を脱ごうとするもすぐに流れ落ちては乾いた。臭いは特になかったが、もしかすると水とは異なる、揮発性の高い液体だったのかもしれない。
屋根はなく吹き抜けており、不気味なほどに真っ赤な空が広がっていた。水が赤く見えたのもこの空を映していたにすぎなかったのだろう。本当に山の中なのかと疑ってしまうほどに、ここは外にしか見えなかった。
俺が周囲を見渡していると、真っ黒な浴場の水からメインたちが浮上してきた。おもしろいくらい、レネとユージュがこの場所に驚き、興味を示していた。確かに彼女らの言う通り、いまの俺たちは重力的に逆さまになっているな。
「エリア3……"英雄たちの黄泉"って名前なだけあるな」
「幻想的ですね~」
神殿の広い廊下を歩く。壁画に延々と描かれた写実的かつ油彩的な彩りをメインは見眺めているが、芸術に疎い俺にはなにがなんだか。一方でユージュは崩れかけた青銅色の天井や壁の先から生えている真白の枯れ木をまじまじと見ていた。骨のような質感だが、容易に折れ、そこから乳白色の液体が漏れ出てくる。
「えー、私には不気味にしか見えませんよ」とレネは眉をひそめる。「空は真っ赤だし。建物はうっすら青っぽくて気分下がりますし、植物は木も雑草も真っ白だし、水なんて真っ黒ですよ!? さっきの噴水だって黒かったですし」
「ここ、匂いがない。音もない。変なかんじ」と獣人の知覚をもってしても違和感を指摘している。
「もしかしたら、魔法で構築された隔離空間かもしれねぇな」と俺は呟く。
「なんでもいいですけど、これじゃあ聖剣がどこにあるのか見当もつかないですよ」
「まずは外に出てからだな」とメインは先へと向かった。
廃墟の神殿を抜け、やがて外が開けてくる。そこにあったのは、赤土と真白の森に交じる、青い水晶の山だった。
それはサファイアほど鮮やかでもない。月明かりを浴びた海を帯びる透明感に星の輝きを閉じ込めたような幻想的な煌きは、まさにこの世のものとは思えない幽玄さを宿している。そして何より、相当の魔力と魔性エネルギーが含有されているのが目で見て分かった。
「すげぇな、これぜんぶ
「なんですかそれって」
首をかしげるレネに、俺はそのまま答える。
「純粋で高濃度な魔力そのものが高密度化して結晶になったものだな。錬金術の唯物論的には稀有な物質で、普通ならある程度の三次元的な周期性と規則性、あとは光に対して特徴的な回折性をもってる無機系や金属系がほとんどなんだけどよ」
と言ったときにレネたちの目が遠くなったような気がしたのですぐに話をまとめた。
「要は希少価値がべらぼうに高いんだ。冒険者や貴族にとっちゃまぎれもないお宝だし、産業じゃ質のいい燃煉石よりも遥かにエネルギー変換効率の高い燃料になるし、錬金術じゃ樹脂や金属と混ぜりゃ頑強で機能性ある
「まさに万能なんですねぇ」とユージュ。
「確か、グラム単位で20万
リリス除く女性陣からわかりやすい驚きの声。やっぱり金額って良い指標であると同時、誤解を招きやすいものでもあるんだと改めて思う。
「ルべウスドラゴンの鱗よりも高いじゃないですか!」
「あ、わっ、わぁ……結晶一本で一体いくらの……ひゃあ~」
「さっそく採掘しましょう! ほらユージュさん、腰抜かさないで手伝ってください」
「ただ扱い間違えると爆発したり、過剰な魔力放射で皮膚から骨の髄までボロボロになっていくことがあるから、基本は触らないことが定石だな」
「早くそれ言ってくださいよ!」
そんなやりとりもほどほどに、蒼結晶と白樹の森を進んでいく。空は赤いのに日照りがない。だが眩しいほど明るく感じる。先ほどの墓場とはまるで正反対だ。
結晶を変に触れようとしなければ問題はないのは確かだが、これだけの量となるとまた話は変わってくる。こんな高濃度な魔力と"魔性エネルギー"に囲まれた中、あまり長時間いると汚染して"魔法回路"や"魔力の脈"が不整化したり、細胞の機能不全を起こすといった体組織への影響も与えてしまう懸念もある。とはいえここで野宿でもしない限り、そこまで影響はないはずだ。
メインにそのことを相談したが、一応全員に魔力的汚染防止の付与魔法をかけているから一日滞在する程度なら特に問題ないらしい。いや初めて聞いたんだけど。というかそう断言できるだけのデータあるのかよ。
休憩や食事をとりつつ、調査を進める。白い木々も少なくなり、蒼い岩々や結晶が目立つ。標高も高くなっていき、険しい赤岩の山を登るようになっていった。それどころか、いくつもの赤岩の小島が空に浮いており、山の上空を漂っている。
「だいぶ奥まで来ましたねぇ。びっくりするほど何も出てこないです」
ユージュの言う通り、未だ魔物の一匹も出てこない。きっと、あの泉によって魔物が入らないようにしているのだろう。とはいえ、召喚獣や守護神像のような存在がいたっておかしくはないはずだ。気は抜けられない。
「そんでもあと一体いるのは確実だ。墓場にいた奴より強いだろうよ」
「だいじょーぶ! 次に何が来てもどんと来いってもんですよ!」
「レネ様、油断大敵です」とリリス。
「それなら、あれ相手できるか」
自信満々なレネに対しメインが上へ指さした先。
青白い光を放つ結晶以上に眩く暗闇を照らす光。その光そのものは、唸るような振動を静かに響かせていた。
針状の蒼冥晶を全身に纏う四脚一翼の巨竜。その名も――。
「"結晶王"」
「メインくん、冗談でも言っていいことと悪いことがあるよ」
結晶の山の如き巨竜に指さす彼の腕を下ろす。
感じねぇはずがねぇ。尋常じゃねぇ魔力。それどころか本能から命の危機の警鐘を発令してるぞ。今まで狩ってきた竜の比じゃねぇぞあれ。大きさも全長およそ50メートル。対峙したことのある白鯨や山亀ほどじゃないしろ、大型竜の中でも最大級だ。
なにとんでもないもの生み出してんだ歴代勇者。いやあれ倒せないと魔王にも勝てないのはわかってんだけどさ。
「あれって魔物なんですか? 結晶の小山の間違いでなく?」
「見るからにドラゴンだが」
メインはレネにそっけなく返す。俺は口を開いた。
「参考程度に訊くけどよ、あれのレベルってどんくらいかわかるか?」
「あぁ、550前後だ」
「ひとりぶっ倒れたけど」
「ユージュさん! お気を確かに!」とレネが彼女を揺さぶる。
「リリス、次はお花に生まれ変わっているといいな。あ、たんぽぽ」
「こっちに至っては現実逃避してるが」
「リリスちゃん!? しっかりして!」とレネが小さな頭を振るわす。ちなみにたんぽぽはない。
「どうする。ふたり戦闘不能になったぞ」
「まぁ、ここは僕とサブで行くしかないだろう。レネにはふたりを守る役目があるから」
「よし、まずは二手に分かれて――」
「前衛は任せた。僕は支援に徹する」
「嘘だろおまえ」
前衛ひとりでなんとかなる相手じゃないだろ明らか。支援しなくていいからおまえも前に出ろよ。
「サブさん。後はお願いします」と遠慮気味に言うレネ。
「任せました~」
「さっきの威勢どこいった」
「サブ様。骨は拾います」
「勝手に殺すんじゃねぇ」
てか正気に戻ったなら加勢しろ。
しょうがねぇ、と俺は結晶の尖塔を次々飛び移り、広場とも決戦場ともいえる竜の巣らしき場所に足を付けた。
こういうときにブレイブとシルディアがいれば心強かったが。それと、致命傷に陥ってもプリエラがいたらなんどでも立ち向かえるのに。
今いないやつらのことを考えたって仕方がねぇ。メインがいるだけでも心強いってもんだ。
だが、そんな希望は、結晶王の視線と合わさるなりあっけなく砕ける。
内側から漏れる光は高エネルギー。それが奴の開く口の奥に集結する。
あっ、これ死ぬかも。
「メイン!!! 全力で増強魔法を! あと死んだらすまねぇ!」
「へ?」という彼女らの声に構わず、俺は魔力纏う右腕を前方に構え――。
「"征天壊世"ィ!!!!!」
結晶王の
メインの支援効果があっても勝てねぇなんてな、とんでもねぇエネルギーだなってか熱っつ! 敗けたら灰どころか塵一つ残らねぇぞ。
「――ぐ、ガッ」
……いやどんだけブレス続くんだこいつ! こっちもうもたねぇって! 指溶けるってこれ! 腕がひしゃげ――熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱ァアッ!
「負けるかよごんぢぐしょうがァ!!!!!」
白光が結晶の地を溶かす。ぶつかり合うエネルギーが膨張し、やがて。
相殺し――爆ぜる。全身の排熱と同時、俺の体は後方へと大きく吹き飛んだ。浮遊した岩山にでも貫通したのか強い衝撃を後頭部と背中で覚える。右腕の感覚はない。なだれ落ちる岩石と共にそのまま落下する俺の耳に、伝達魔法越しの声が聞こえてきた。
『サブ。飛ばすぞ』
なんだよ、わかってるじゃねぇか。思わず口元が緩んだ。
空間転移。歪み、ひしゃげ、潰れた景色と感覚は一瞬。眼前には青く輝く竜の頭頂部。気配の察知も早く、黄金色に光る二対の眼球がこちらを向いた。杖を振るっては落下体勢を整え、白く熱し、赤い稲妻纏う左腕を構える。
右腕の必殺技は前座だ。本命はこの左腕――。
「"天撃"ィ!!!」
天より貫くは雷撃。人間一人の拳から繰り出される破壊は天の裁きに匹敵する。まさに隕石を竜の頭上に直撃したようなものだ。周囲のすべてを吹き飛ばさんばかりの衝撃波はダンジョン中に悲鳴をとどろかせる。
再び転移魔法を受け、メインたちのそばに放り出された。腰を打ったが気にしない。それよりも糸が切れたように動かない左腕にうんざりするほどだ。
「どうだった」とメイン。
「ぜぇ……ハァ……最高の、一発だったぜ。あいつを本気にさせたくらいにな」
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