異世界オルタレーション ~勇者パーティから追放されたレベル999の支援系チート魔術師が追放者同士で最強Sランク冒険者パーティを組むそうだが俺だけが有能だと気づいているのでざまぁされる前に連れ戻したい~
13.まるで計画されていたかのように目の前で発生するトラブル
13.まるで計画されていたかのように目の前で発生するトラブル
一瞬、なんのことだかといわんばかりの静寂が訪れる。特に唖然とした顔を浮かべていたのはメインとレネだった。
「サブさん……!? そんなこと言うなんていったいどうしました? 頭でも強く打ちましたか?」
「そこまで心外か!」
「でも、どうして」とメイン。俺は頭をかき、目を逸らす。
「別におまえが冒険者になることに賛成してねぇよ。このルートが魔王討伐に近いってだけの話だ」
「どういうことだ?」
「聖剣の情報をギルドからいただいたんだよ。おまえの言う通り、勇者の権限を行使できないか受付に訊いてみたときに提供してもらった。本来、勇者本人がいねぇと意味ねぇけど、冒険者登録すればそれ以外のメンバーでも支援はできるんだとよ。だからその間だけでもレネさんのパーティに入れてくれねぇか。規約上、5人じゃねぇといけねぇみてぇなんだ」
「ブレイブたちといかないのか?」
「……あいつらは変わっちまった。しばらく会う気も起きねぇよ」
思い出すほど、この右肩から左腿まで斬り裂けた傷が疼く。幾発もの殴打で損傷した骨も内蔵も再生途中だが、またも深く痛み出した。顔に出す代わりに冷や汗を術衣の下で流す。今ちょっと傷口が開いたな。
狂ったように笑えたらさぞ気持ちいいだろうな。俺もどうしたらいいかわからねぇよ。
「そうか」と一言返したメインのぶっきらぼうさも、触れる気にはなれなかった。
「……みっともねぇよな。責任だの覚悟だのデカい口叩いて、結局折れたんだからよ」
矛盾野郎はどっちだって話だ。自分を貫けない男ほどみっともねぇったらありゃしねぇ。
勇者にふさわしい者が聖剣を手にし、使いこなすことができると云われているが、今のブレイブがそういう人間だとは思えねぇ。だが、手にしない限りは魔王討伐も厳しい。
俺の感情やプライドじゃねぇ、この世界の未来を優先しろ。聖剣の地までのルートを確立して、ブレイブに謝罪して提供すればいい。そこから俺がメインの分まで頑張ればいいだけだ。
弱気になっちまったな。俺らしくもねぇ。そう思いつつ視線を上げると、メインらはまっすぐとこちらを見ていた。まるで俺の惨めさを受け入れてくれているようで。
「そんなことない。僕が言える立場でもないが、勇者パーティにサブのような人がいて本当によかったと思ってる。他のみんなもサブみたいだったら、僕もうまくやれたかもしれない」
いやそれはねぇ。断じてねぇ。
いいこと言っている風になっているとこ悪いけど、ここ一日二日過ごしてみて俺一度もおまえと上手くやれたと感じたことはねぇぞ。だいたい口数少ないお前がちゃんと口を開けばあんな鼻につくこと言うやつとは思わなかったもん。もうちょっとマシな話し方だったよなお前、何に影響されたんだよマジで。メンバー全員俺でも性格の問題で一回追い出したと思うわ。
けどまぁ、日々のサポートや行動の速さと、正義感は俺も見習うべきではあるな。性格に難はあっても、まだ優しい心はある。……あるよな?
「へっ、戻る気ねぇくせによく言うぜ」
だが、それを口に出すことなく俺はそう笑って返した。
「協力するよ。サブだけは、仲間だと信じられるようになったから」
てことは、ブレイブとの戦いで一時優勢だった理由も、こいつのおかげかもしれねぇな。まぁ、こればかりは感謝しかねぇけど。
「みんなもそれでいいか」とメインはレネたちの方へ振り返る。
「あったり前じゃないですか! 仕方ないサブさんのために一肌脱いでやりましょう!」
「メイン様が賛成なら、リリスも賛成」
「わたしもそれでいいですよー。困ったときはお互い様ですから」
「みんな……恩に着る」
呟くようにそう言った俺は頭を下げる。
「そうと決まれば、冒険者登録しにいかなきゃですね」とユージュ。「そうだな」とメインは返した。
「すごい……昨日と今日でいきなり5人パーティができるなんて」とレネは感慨深く呟いた。「これも全部メインさんのおかげです」
「そんなことない。僕もレネやサブには救われたから」
「俺がなんかしたかよ」と笑ったときだ。
「誰かァー! あれを止めてくれーっ!」
そんな男の声が聴こえ、その方へと顔を向ける。
大通りの先、豪奢なキャリッジを牽引した二頭の
あれは貴族階級の儀装竜車。それにあの竜は大人しい中型竜のはずだが、暴れているってことは誰かが下らねぇちょっかいをかけたか?
「ちょ、こっちに突っ込んできますよ!?」とレネ。
メインに一声かけようと――って真っ先に前に出たな。まぁ止めてくれるんだろうが、念のため俺も魔法の展開の準備はしておこう。こいつが支援魔法以外で何しでかすか不安でたまらん。
「殺すのだけはやめろよ」
「何を言ってるんだ、そんなことするわけないだろう」
「しそうだから言ってんの」
「ひどいな」
めずらしくぶすっとした表情をメインは浮かべる。しかしその目は前方だけ見ていた。こちらへ突っ込んでくる竜車へと手をかざす。
すると、二頭の竜の走る速度が落ちていき、やがて歩き始めていく。果たして足を止め、俺たちの前に着いたときには脚を曲げて座り込んだ。
ははぁ、と俺は納得した声を出した。鎮静魔法か。闘争本能を抑制させる効果が期待できるけど、過剰に付与すると無気力になる副作用もある。チンピラ相手の時もそれ使えばよかっただろ。
「無詠唱……!?」とユージュが驚く。
世間一般や魔術師界隈でも珍しく認識されているように、詠唱せずに魔法を発動する技術は中々できることじゃない。だけどそういった並外れた実力が認められて俺たちは勇者パーティに選ばれている。
だから元々無能ではないんだよあいつは。勇者パーティという一団が超人集団ってだけで、そん中であいつらに無能呼ばわりされていたっていう話だ。つっても、俺はある種の防御系以外は無詠唱できないから偉そうなこと言えねぇけど。集中するあまり周り見えなくなるし鼻血出るし、とどめに頭パンクしそうになるんだよなあれ。
「おとなしくなった……」
リリスは呆然としてつぶやく。獣人の目から見ても相当の芸のようだ。
「すごいですね! 竜車を止めるなんて」とレネは相変わらず絶賛。
「このくらい普通だよ。他の魔術師でもできるだろうし」
そのぶっ飛んだ感覚を改めてくれればおまえは良い奴になれるんだけどな。もっと周りに関心もてよ。普通とか大したことないって言葉が謙遜だと思ってんのかこいつは。
ていうか暴走した竜車くらい俺も止められるし。いやなんで俺が嫉妬してるんだ。
当然、注目はされるし称賛の声も周りの町人から聞こえてくる。事が治まったとなれば駆けつけた護衛もなにかしら言ってくるだろう。
それを察知して俺は民衆に混じり、様子をうかがう。ひとつだけ例外があるにしろ、ああいう金を持った輩は好きになれねぇし、あんまり関わりたくもねぇ。悪いがメインにこの場を任せよう。
「冒険者よ、この度は助かった」
衛兵の一人が帽子を脱ぎ、メイン等の前で一礼する。
「中にいる乗員は無事か?」と相変わらず鼻につく返しをメインはする。
「おかげさまでな。奇跡的に被害がなくてよかった」
そんな会話をしていたときに、奥の方から慌てる衛兵の声が聞こえてきた。
「なりません、外に出られては」
「いえ、この事態を最低限の被害で抑えて下さった恩人に対し、礼を申したいのです」
貴族様にしては謙遜した態度だな。それにしても、この声どこかで……。
竜車の中から出てきた淑女。その姿を見て、数秒前の自分の偏見をひどく呪った。
「……っ」
ルベリア王女……!?
背中まで流れる、白銀の髪。紅玉の如き煌く紅の瞳。
白磁器のように艶やかな白肌。絵画や彫刻のような美を兼ねた、可憐で儚げな花のような。そう恥ずかしげもなく喩えてしまうほどに、俺の目には他の人とは違う、若くも美しい彼女に対し特別なものを感じさせた。
その落ち着いた朱色を纏う存在感たるや、周囲の町人らは跪いて首を垂れた。俺もそれに合わせる。
けど、どうしてここに。そのときにレネの言っていたことを思い出す。
ギフトの儀式がこの町で行われるとかどうとか。まさか今年がその時期だというのなら、前もってそういう噂や町の準備があるはずだ。報じられているなら祭りでも開催して盛大にお迎えしたっておかしくはないし、こんな隠れてやるようなことでもないだろうに。だとすれば、それ以外の用があってここに……?
考えてもわからない。俺はただ、人混みから彼女がメインたちの前に歩く様子をみることしかできなかった。彼女を守るように囲む兵が視界を遮らせる。遠隔感知魔法で会話を聞き取った。メインたちも同様、王女を前に跪いているようだ。
「皆様には大変ご迷惑をおかけしました。貴方様が治めてくださったのですね、心より感謝申し上げます」
その声を聴けるのは二年ぶりだろうか。出陣の儀の日以来耳にしなかったが、ふしぎと心が安らいでいくのが分かる。
よかった。お変わりなく元気そうで。
「大変恐縮にございます。王女殿下もご無事でなによりに存じます」
よかったぁ、さすがのあいつも王族の前では最低限の礼儀がなってる。
ただ、それよりも嫌な予感が心を曇らせている。
なんだこの気持ちは。何に、いや、どうして……俺は恐れている。
「お顔を上げていただけますか?」
数秒の間が、俺の胸の中をざわつかせた。
ダメだ。わかっちゃいるのに。
俺は本当に馬鹿な奴だよ。
「……? 貴方様は、もしかして――」
「"
兵を無理やり押しのける。メインと王女の間へ駆けつけ、俺は手をかざし詠唱した。
彼女の紅い瞳と目があったとき、景色は一瞬にしてひっくりかえった。
ここは大通りを一つ跨いだ先の小さな路。王女から見れば、話しかけていた人が忽然と消え、通行人から見れば道のど真ん中に突如数人の男女がパッと現れたように見えたことだろう。メインたちが地面に落とされるように転がり、俺は傷の痛みに耐えながら、石畳みの上でうずくまる。
空間的な転移魔法は反動が激しい。遠距離転移よりはまだましだが、胃と頭蓋の中をかき回される気分だ。肺も引くついて思うように呼吸ができないが、気を静めて苦痛を軽減させる。
「あたたたぁ……」とユージュ。
「メイン様、大丈夫?」
リリスはすぐさま起き上がり、メインを気にかける。
「いや、問題ない。みんなも大丈夫そうで良かった」
「急になにするんですかサブさん! いまメインさん、あの王女様とお話してたんですよ! 私も間近でお目にできたの初めてだったのにー!」
わかりやすく怒るレネに、俺は言い返すことも、茶化すこともできなかった。
「……あぁ、そうだよな。本当になにをしてんだろうな俺は」
立ち上がることすらしないまま、顔に手を当てる。
俺たちは討伐遠征の前に直接お会いしてご挨拶したことがあるから、お互い面識があることはわかっていた。勇者パーティの一員なのにどうして個人で動いているのか。そう訊かれりゃ馬鹿正直なこいつは追い出されたとかなんとか言うだろう。そうしたらどんな顔をされるか。こんなちっぽけな内部事情であの御方を悩ませてほしくない。それが真っ当な理由だ。
だが、俺が反射的に動いた理由はそれじゃない。偏執的で身勝手で、到底口にできないような下らない理由だ。
※
『あっはははは!』
『何がおかしいんだよ! ブレイブが笑わないって言ったから俺はちゃんと言ったんだからな!』
『いや、だっておまえ、王女様に告白することがサブの夢だなんて思わなくてよ。まさか出陣式で一目ぼれしたのか?』
『ちげーよ、もっと前からだ。ブレイブと会うちょっと前か』
『てことは8歳の時か』
『……浮浪児だったときに一回助けてもらってるんだ。盗みをヘマして大人にぼこられたときに、たまたま王族の馬車が通ってよ。まだ幼いってのにえらいしっかりしててさ、馬車を止めて、衛兵使ってその場を治めたんだぜ、信じられるかよ』
『おまえも幸運なやつだな。なんで今まで話してくれなかったんだよ』
『そういうことにおまえが関心ねぇからだろ。わざわざ話すことでもねぇしな。親友だろうと秘めておきたいことの一つや二つはあるだろ』
『はいはい、俺が悪かったよ。で、そのあとどうなったんだ』
『ま、王族だなんてボンボン大っ嫌いだったし、王女様自ら差し伸べてくれた手を叩いて突き飛ばしたもんだから、今度は衛兵にぼこられたがな。そんでも衛兵を止めて、横たわっていた俺の手を握ってくれたよ。……気付いたときにゃ、手元にパンがいくつも入った籠と水袋、金貨入りの袋があったぜ。おかげでそんときは生き延びれたよ。おまえがぶんどって移動費とコロシアムの出場費に使かっちまったけどな』
『ええっ、あれ王女様の金貨だったの!? だからおまえめちゃくちゃ怒ってたのか。その、ごめん! 申し訳なかった!』
『もう昔の話だ。おかげでブレイブに成り行きでついていくことになったし、おまえはコロシアムに優勝したし、今がある。だから感謝してんだぜ?』
『つったって……なんだか複雑だな。でも、王女様もその頃からしっかりなされていたのか。この国の未来は安泰だな』
『あぁ。今でも夢みてぇで信じられねぇ出来事だったけど、確かにこの目と手が覚えている。あの若さで寛大なお人だったよ』
『どっちにしろベタぼれだな』
『かもな。そっからずっと一途だ。王女様の傍でお守りできるように騎士団を目指したけど、まさか大魔導士になるなんてな』
『おまけにあの勇者パーティだ。路地裏生まれゴミ溜め育ちのクソガキだった俺たちがここまで這い上がるなんて、人生何が起きるかわからねぇな』
『まったくだ。でも、この国や王女様の未来を託されている俺は世界一幸せだと思うぜ』
『一丁前にかっこつけてんじゃねーよっ』
『痛った!』
『ま、そういうとこがお前のいいとこだよな。でもさ、王族だと婚約者いるだろ。確か西の島国の第一王子じゃなかったか?』
『……わかってるよ、そんくらい。そんでも、玉砕覚悟で想いを伝えるだけ伝えたいんだ。じゃねぇと、踏ん切りがつかない』
『不敬罪にならなきゃいいけどな、あっははは』
『まじめに聞けよブレイブ。俺はこの魔王討伐が無事に終わって帰還したら絶対に伝えるんだ。これ他の奴らには秘密だぞ』
『わかってるよ、俺とおまえの約束だ。でも言ったからには玉砕なんて言わずに告白成功させろよ。おまえが言ったのはただの"目標"だ。夢ならもっと上を見て、もっと馬鹿にされること言っちまえよ』
『目標……か』
『もう一度聞くぞ、おまえの"夢"は何だ』
『……お、王女様とけっ、結婚することだ!』
『よく言った! そんじゃあその夢叶える為にも、ぜってぇ魔王倒すぞ。俺もサブも、メインもシルディアもプリエラも生きて帰って、お前と王女様の式に招待してくれ』
『はは、簡単に言うんじゃねぇよ。……ああ。約束だ』
※
――二年前にブレイブとそんなバカみたいな約束をしたから、全員でこの任務をやり遂げなきゃいけねぇんだ。いや、そんな約束がなくても、俺はなんとしてでも魔王を倒してその夢を叶えなくちゃ、生きる意味を見いだせなくなった。
好きになっちまったんだよ。単純に。
だから会うのも小恥ずかしかったし、メインのことを恩人だと思わせたくなかった俺のエゴだ。
大人げないのはわかってる。しょうもないのもわかってる。
けど思っちまったんだ、王女までも魔法にかかったみてぇにメインに惚れるんじゃねぇかって。そんなの目の当りにしたら、俺はどうかしちまう。
けどそれも無駄なあがきだ。王族だぞ。仮にメインとどういう関係になろうがもう婚約者だっているはずなんだ。俺が勇者パーティの一員だろうが、大魔導士だろうが、その運命の前じゃ無力なんだよ。それに……。王女の幸せを思うなら、想うことを諦めなきゃいけねぇ。
だからこれは、俺の嫉妬で、奢りに過ぎねぇんだ。
「サブ、泣いているのか?」
「……は?」
立ち上がっていたメインにそう言われ、俺は親指で目元を拭う。濡れた感覚に焦り、術衣の袖で強くふき取る。
「泣いてねぇよバカ。じろじろ見んな」
「なにかわけがあるのですか?」とユージュ。レネもどうしたといわんばかりの目だ。
ひざを立て、すぐに立ち上がる。こういう空気は嫌いなんだ。目を合わせることもせず、俺は背中を向けた。
「着地に失敗して地面に鼻をぶつけただけだ。いいから登録しに行くぞ」
どうやら俺までおかしくなっているみたいだ。
聖剣を入手して、こんな悪夢さっさと終わらせてやる。あの人に再びお会いするのは、魔王を討ちとってからだ。
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