14.そこにギルドがあれば登録するのがセオリー

   *


 宿先で買ったものを置き、ギルド集会所に戻っては早速登録の手続きを済ませようと受付へと向かう。昼頃になれば"クエスト"という採集兼討伐依頼を終えて戻ってくる輩が多くなり、にぎやかになっていく。


「あのー。サブさんが言っていたクエストってこれですか?」

 レネが複数枚ある大きな依頼掲示板へと指を指す。常日頃クエストの更新を怠らない彼女だからこそ、すぐに気付けたのだろう。

 ミフェン山脈、古の神殿の魔物討伐。聖剣の地の名は伏せてあるか、慎重なんだか大胆なんだか。


「ああ、それだ。もう公に貼り出されたのか」

「このクエストのランク、Sなんですけど」

「Sってことは最難関ですか?」とユージュはレネに訊く。

「そうですね、いちばん難易度が高いです」レネはユージュに返す。

「メイン様……リリス、囮になら」

「ならなくていいから」とメイン。やけに早い返しだったな。それだけ真っ青な顔をリリスはしていたのか。


 レネたちが不安になるのも無理はない。レネはランクCで、レベルは35だったからな。このクエストに相応するレベルがどのくらいかわからないが、少なくともランクだけ鑑みればレネは対象外だ。残るふたりも似たようなものだろう。

 一見すれば足枷になるが、そんな不利を有利に仕上げるサポートをするのが俺たち魔術師や魔導師の務めだ。これらふたつの違いはあってないようなものだが、魔法の出力を肉体自身でなく"道具"に少しでも頼っている以上、俺は魔導士寄りだろう。最も、大魔導士という称号を授かっている以上は、魔術師のスタイルになろうとも魔導士だと誇りをもって言うが。


「そこはメインの支援魔法がカバーしてくれるだろうし、俺も状況に従って前衛と後方支援に務める。まぁそれでようやくギリギリ生きられるかってラインかもしれねぇが、どのクエストもどの戦も、そんでどの狩りも生半可な気持ちでやるもんじゃねぇのはみんなわかってるはずだ」

 少なくとも彼女ら3人は戦闘の経験はある。それをメインの協力で力を引き出すことができれば問題はない。そう見積もった上で手に負えない魔物が出てきた場合は、メインが前に出ればいい。竜を狩る程度の力を問題なく発揮できるならの話だが。

 そんで、基本的に俺が魔法と白兵戦のデュアルスタイルで対処すればリスクは低いだろう。前に強い魔物を倒せばレベルが上がる云々言っていた気がするが、彼女らにはまだ酷だろうから後方に置いておくのが良い。


「というか、到着してからは自由なんだし、3人は待機して俺とメインだけでいくってのがいちばんいいだろ」

「ふたりだけでSランクのクエストをクリアするんですか……!?」

 レネの驚きを見ていると本当にやばそうだとこっちまで不安になるけど、だからといって引き下がる道はない。

「どんだけやばいのかは知らねぇけど、こっちだって伊達に勇者パーティやってねぇ。それにメインの実力もレネなら目の前で見たはずだろ」

「そうですけど……さすがにそれは冒険者の名折れと言いますか」

 めんどくせぇ大義名分だな。

「今ぜったい心の中でめんどくさいやつって思ってたでしょ」

「なんも思ってねぇよ。冒険者の鑑だと感心してたんだ」

「ウソくさぁ」

「まぁまぁ、ここは現地に行ってからまた話し合いませんか? 受注はどのみち全員必要なわけですし」

 そうユージュはまとめる。それもそうだな、と返したとき。


「リリスも、だいじょうぶですか……? お役に立つこと、できますか?」

 背が低い分、奴隷だった獣人の少女は上目遣いでこちらを見つめる。俺は屈んで目線を合わせ、笑みを向ける。

「大丈夫だ。戦える力はあるんだから自信もて。ま、基本的に俺やメインがなんとかするけどな」

「……」

 獣耳を動かしつつ、彼女は気まずそうにうなずく。子どもが嫌いじゃない分、なんかちょっとショックだな。まさか鼻が利くから血とか薬品の匂いとか服に沁みついていたか?

 立ち上がり、レネたちの目を見る。渋々納得しているようではあるが、響いているようにも見受けられない。


「じゃ、こっからはお前が先導した方がいいだろ」

 そう言い、メインの肩を叩く。

「なぜだ?」

「支持率が圧倒的におまえなんだよ自覚しろ」

「わかったから鼻を摘ままないでくれ」と鼻声で返ってくる。


「でもこれ、冒険者ランクもSじゃないとこのクエスト受けられないと思いますけど」

「そこは訊いてみる。ダメだったら交渉する」

 メインの鼻を摘まむのをやめ、そうレネに返す。さすがにそこは柔軟に対応してくれるだろうと信じたい。ダメだったときは一から頑張ってランクを上げるか、お偉方に直談判するか。

 ただ、それは杞憂に終わった。


「勇者パーティ所属の方がいらっしゃるなら、他の方のランクが基準値を達成していなくても手続きは可能です」

 そう受付嬢に快い返事が返ってくる。万一を想定していた分、肩透かしを喰らった気分だ。


 いやマジでこいつと一緒にいると事がうまく進むな。それ勇者パーティにいたときに発揮してくれよ。いや2年間一人も欠けることなく冒険し続けていられていることが強運の証かもしれねぇけど。


「ただ、勇者パーティのメンバーであるならば冒険者のランクも最高クラスであるという前提ではありますが」

 要は試験で高得点とればいいという話か。なにをするのか全く知らないけど。


「わかりました。それじゃあ4人、登録をお願いしたいのですが――」

「粋のいい若者がそろってるな!」

 そんな豪快で野太い声が響き渡る。左へと顔を向けると、筋骨隆々の大男が歩み寄ってきていた。近づいていくうちに俺より頭ふたつ分は大きいと分かる。まるで巌のような風貌と漂うオーラから圧倒的な実力者だと思わせた。

 加え繊細な色使いと細かな装飾からどこの交易商だと思わせるが、そのいかつい顔つきと体格、そして着崩し加減から海賊にしか見えない。

「ギルド長」と受付嬢。

 とりあえずは会釈する。どれだけ偉いのかはレネの反応を見てよくわかった。構わずギルド長と呼ばれた大男は、品定めするようにじっとこちらを見ては無精ひげをさする。


「特におまえら二人は只者じゃなさそうだ。それに訳ありだな」

 にぃ、と白い歯を向ける。こういう類の人間は苦手だ。人の一挙動ですべて見抜くのはあの一人だけで十分だ。


「ギルド長、仕事の方は」

「現場の視察も仕事の一環だ」

「あとで悲鳴上げても知りませんよ」と呆れた目を受付嬢は向ける。

「がっはっはっは! 相変わらず手厳しいな!」

 まぁそれはそうと、と話を逸らす。


「大体のことはステータスでわかるが、名前だけでも聞いておこう」

 一人ずつ名乗りを上げる。ほぉ、と彼は腕を組む。俺とメインへと目を向け、

「おまえらふたりは聞いたことある名前だな。確か……あぁ、第六期の魔王討伐隊か。どうりでただならぬ空気を感じるわけだ」

 やっぱりギルド長ともなれば知られているのは当然か。


「しかし、勇者パーティの一員がなぜ冒険者に?」

「聖剣の情報をこちらより提供していただいたので、冒険者ギルドの方々にご協力をお願いしようと」

「勇者様はどうされた」

 そこまで謙譲するほどの人間じゃなくなったけどな。なんて言い訳しようか。

「……それは」

「分担して聖剣の入手を任されている」

 突然、横からそうメインが口を割いてきた。


「メイン、お前――」

「そうだと言っただろ、サブ」

 青い横目をこちらに向ける。察した俺はぎこちなくも話を合わせた。

「あ、あぁ、そうですね。あまり公に話すことでもないかと思ってまして」

「そうか……わかった。そういうことなら、俺たちもサポートに徹しなければな!」


 そうニカっと笑顔を向ける。

 なんとか良い方向に事が運んだか。とはいえ、こいつ空気読めるんだか読めないんだか、やっぱりよくわかんねぇやつだよ。

「どこのどいつであれ登録は大いに歓迎するが、まずは規則として試験を行ってもらう。魔水晶でのステータスチェックで問題なければ受付で手続きを済ませ、試験場Bに来い。確か他の登録申請はなかったはずだ」とギルド長は受付嬢へと目を向ける。

「はい、本日は彼らだけとなります」

「よし、それじゃ今日の15の刻に試験を行う。説明はその後だ」

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