9.都合良く転がり込んでくる吉報

   *


「そういえば、勇者パーティなら物資の提供や馬車とか貸してもらえるんじゃないか? 勇者はいろんな権利を使えるはずだが」


 内部崩壊で一杯になっていたからすっかり忘れていた。まさかメインにそう助言をもらうとは。夕食後にぽつりと言うもんだから聞き逃すところだった。

 クビになったあいつはわからねぇが、確かに勇者パーティならいろんな権利を行使できる。アクセス権や宿泊権、調査や軍事サポート等、申請すればいろいろできる。


 ただ、第五期討伐隊の報せもなく、魔王の行方も消え去ったのは痛手だ。掴んでいた情報のほとんどが失われた以上、調査はともかく軍を簡単に動かすわけにはいかない。そうブレイブは言っていたっけ。

 ここのギルドにも話せば申請が通るだろうか。そんな微かな期待は簡単に砕け散る。


「申し訳ありません、貴方様のこともお伺いしておりますが、"勇者"の称号を有する者が代表者にいないと、手続きは厳しくて……」

 人数も少ない夜間の終業時間間際、蝋燭と蛍菫の仄かな照明の下。ギルドの受付嬢に話を伺うも、厄介な問題に当たった。


「そうでしたか……」

「最近は自分を勇者と詐称してアクセスパス等の権利乱用を促す者が多くなってきましたから。こちらの勝手でご不便をおかけし申し訳ありません」

「いえ、こちらこそお手数おかけしました」


 やっぱり代表者ブレイブの存在が必要か。けど今日あんなことがあってお互い頭も冷え切っていないだろう。また俺が大人げなく逆上するかもしれない。明日、あいつらを探して、頭を下げよう。

 その場を後にしようとしたとき、呼び止められる。術衣を翻し、踵を返した。


「あの、サブ・ライト様。勇者パーティの方でしたら、このクエストはご存知でしょうか」

 カウンター越しで差しだされた書類。依頼書、というものか。それを受け取り目を通す。信じがたい情報が目に飛び込んできた。


「"聖剣"……!?」

「ディスタントの町の冒険者ギルドが土地の調査で発見したそうです。かつての所有者でありました第一期魔王討伐隊の勇者アーサー・クラウンが書き遺した石板の遺文も内容共に確認されています。ただ、"ダンジョン"の攻略と開拓が非常に難航しておりまして、こちらの支部にも依頼が回ってきたのです」

 洞窟ダンジョンの攻略という言葉がよくわからなかったが、要はそこを制圧できておらず調査も滞っているということだろう。

「その情報、本当ですか……!?」

「数々の文献や地質調査のデータより信憑性は高いかと考えられます。聖剣と思われる存在も確認できたと調査団から伝達がありましたし」


 まさか第一期魔王討伐隊が使っていたといわれる伝説が現存していたとは。情報がが本当なら魔王との戦いはかなり有利になるし、討伐だけでなく封印の選択も可能になる。これでこれまでの勇者パーティの無念も報われるってもんだ。これを手にし、魔王の居場所を突き止めれば勝利はより鮮明に目に見えてくる。

 話を聞くに、その地を守る魔物の特徴も伝記と酷似しているようで、リスクは高いが今に始まったことじゃない。行ってみる価値はありそうだ。そうとなればブレイブたちにも知らせ……まずは和解するところからか。


「せめて調査を完遂してからお伝えしたかったのですが、このような形で知らせてしまい失礼いたしました」と申し訳なさそうに受付嬢は頭を下げる。少し黙り込んでいた俺は気づき、咄嗟に取り繕った。


「いえいえとんでもない! 本当にありがとうございます。ちなみに、この依頼を受ける時は冒険者の登録をしないといけないんですよね」


「はい、勇者ご本人様がご不在であれば登録していただく規定となっております。ご登録されれば馬車や飛空艇等のアクセスもご利用できますので。また、このクエストを受注される場合、人数も5人あるいは7人以上10人以下とされます」


「やっぱり、それ以外だと危険だからですか?」

「ええ、ダンジョン調査ないし制圧はあまり大所帯ですと被害の方が大きくなります。それに4と6は忌避される数字なのです。とはいえ古くから伝わるジンクスに過ぎませんし、人手の都合もあって一般のクエストでは稀に4人でも可能とさせている場合もあります」


 俺も小さい頃にそれを教わっていたから、パーティが4人になるのを嫌っていた節もある。ブレイブとシルディアはそういうの気にしないやつだったけど。


「その詳細の情報はこちらで閲覧できますか? 土地調査のデータや文献も」

「申し訳ありません、それら情報もご登録されない限りご提供できません」


 そこをなんとか大目に見てほしいが、人間に化けて町中に溶け込む魔物の報告例も少なくはないから文句は言えない。

 我を通したかったら勇者を連れてくるか、こっちが登録するか。こういう決まりごとは面倒に感じるが、規則に従わないと無法者と変わりない。勇者パーティという肩書で許されているが、俺とブレイブは元々あっち側の人間だったからな、一瞬だけ悪い考えが思い浮かぶも今後を考えてすぐに取り消す。


 結局冒険者になる道も出てきてしまったか。

 受付嬢にあいさつしその場を後にする。夜道を歩き宿へと向かうも、頭の中はもやついていた。


 メインの説得もまだできていない。着実に冒険者になろうとしている。しかし、それも結果として魔王討伐に貢献しそうではある。


 あいつの望みは勇者パーティでの居場所を作ること。そのためにはちゃんと俺から話しておく必要がある。この内部崩壊を防げるのは俺しかいないんだ。


 今日はもう遅い。明朝、ブレイブを探して様子を見に行こう。あの怒号を思い出すたび寒気がするが、さすがに頭も冷えているはずだ。ついでにメンバーを外したことに対して過ちだと気づいてくれれば解決のゴールは見えてくる。

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