悪魔の契約書

次郎台寺茶陀

ねがい

「ほんとに……ほんとに何でも……?」



貧乏池沼バイシ★★メンZは

今まさに悪魔と契約を交わそうとしていた。



『そうだ。どんな望みでも叶えてやる』


「け、けど魂を取られ……」


『当然だ。しかし人間はいずれ必ず死ぬ

よってお前が最も恐れる死に方で命を奪う


もちろんいつ死ぬかは私の気分次第だ』


「それじゃ願いが叶っても明日死ぬかもやないか!」


『私を神かランプの魔人と思っているのかこの池沼は


嫌ならいい、私はお前が死ぬ前に良……』


「まま待ってくれ」



「ワイの……望み……」



『ただしひとつだけだ

それから私は多忙ゆえ待ってはいられぬ、

今すぐ決めろ』


「う、ううっ……ワイは……」


『5秒前、4……3……』


「わわわわかった決めただや!


鬼さん!鬼さんにしてくれ!」


『誰だそれ』


「モバゲーの人だ……鬼さんと入れ替わりたい!」


咄嗟にでた願いは池沼が災いし

ずいぶんとスケールの小さい内容であった


『良かろう。ではここに鏡文字で……うんたらかんたら』


【契約成立】



「う、うおお……おれがおれが鬼さんに……あ、鏡 鏡……」


そこには、若い頃はそこそこイケメンであったろう事がうかがえる

白髪の老紳士が映っていた


「うっ……ま、まぁでもかっこいいおっちゃんやんけ!」


Zのテンションは上がった


「爺さんでもええ!なんせ鬼さんは金持ちなはずやし」


『では気の向いた時にその魂貰いにくる

またな』


悪魔は煙のように消えた



「はうあ!」


次の瞬間Zは見知らぬ部屋で目覚めた


(ここは……)


見るからにぼろくさい

安アパートの一室であった


(まさか……ここが鬼さんち……?)


混乱していると部屋に若い女が入ってきた


「おとーさん、ガス2ヶ月入ってないよ

止められるよ」


言いながら紙切れを寄越してきた女は

若いだけが取り柄の貧相なブスだった


(誰やこれまさか……)


まだ布団に入ったままZは慄き


「おおおお前は誰やーここはどこやー」


貧相な女はキョトンとした顔で

Zを見ている


「どーしたの。変な夢でも見たんやろ」


「お、お前……姫ちゃ……」


「姫ちゃ??」


ぷッ……と吹き出し


「その呼び方、ジンやんwww」


軽く笑いながら女は部屋を出ていった



「そ……んな……」


Zの頭の中がぐろぐろ回転する


(……うう……そんなアホな

これが鬼さん!?鬼さんのリアルなんか!?

そんなまさか嘘だ!鬼さんは金持ちで店長で高級マンションで黒ツンべで娘は沢尻エリカ似じゃなかったんかー!!)


「うああああー」



半ば狂乱気味に叫ぶZの姿を

悪魔は見ていた


『ネットの姿がホンモンなわけねーべ……クックックッ』



その頃

Zと入れ替えられた本物の鬼若は


『なんかブサイクなってるー!


えっここ西成!?俺なにルンペン?


でもホームレスもある意味気楽でいーわなwww

死ぬまでてきとーに生きていこwww』



〜〜〜



「戻して……戻してくれーい!」


鬼若宅を飛び出し

ただ走りながらZは叫んだ


「こんなはずじゃなかっただやー

鬼さんは金持ちじゃなかっただかー……はぁはぁ」


『ふっ、浅はかな男よのう』


「……!!」


先程契約を交わした悪魔が目の前に現れた


『よく考えて決めないからこうなる』


「……あっ……あんたが時間がないとか急かしたんやないか!5秒前カウントダウンまでして!!」


『誰も5秒で決めろとは言ってないが?』


「えっ…………!?」


『あれは単に私の口癖だがな』


「そそ、そんな……」


『さーてお気に召さなかったようだな

ではこれ以上その姿は必要ないな。約束通り貴様の最も恐れる死に方でその命貰おう』


「うう……」


『ふふ……』


悪魔はZを見つめ

心の中を読んでいるようだった


『……んん?』


「はぁはぁ……」


『ふむぅ……そもそも死を恐れていないようだな』


「わ……ワイは……雪音クリスや猫被りどもの言う通り


生きててもしょうがないんや

何のために生きてるかわからない人生やったんや……」


『……そうか……』


意外にも同情的なため息をつき

悪魔は

ゆっくりとZのほうへ手を伸ばした


『特例だ。


お前にとって最も幸せな死に方で魂を奪ってやろう』


「え……」


『その前に姿を戻すぞ』



瞬く間にZは元のブ男に戻った。


「……」


『来い』


悪魔はZを連れ

煙のように消えた




「はうあ!」


目が覚めるとZは暗闇にいた。


(まだ生きて……る……?)


だが異常に窮屈で身体が痛い。


瞬時に凄まじい悪臭に襲われる


「う……ああああ……?」


青ざめながら僅かに明るい頭上を見上げると

あたたかい水のようなものが降ってきた。




後日、新聞に載る


【便槽に男性の死体】



【おわり】

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