第8-17話 強襲、反撃
「酷いな……。主要な道はどれもモンスターだらけだ。避けようとすると、必然的に険しい
「構わないよ。僕の移動用のゴーレムは悪路対応型だから」
アビスが顔をしかめると、対象的にマリオネッタが微笑んだ。
「しかし……よくもまァ、こんなにもモンスターを生み出せるもんだ」
現在、イグニたちが駆け抜けているのは道すらない断崖絶壁。
そこをマリオネッタはゴーレムの6脚を器用に使い、駆け下りていく。
そこからは遥かに公国の平原を見下ろすことができ、普段であれば麦の収穫を終えて休ませている小麦畑の茶色が出迎えてくれるはずだったが、代わりにイグニたちの目に飛び込んできたのは無数にうごめくモンスターたちだった。
「あれ、どれくらいいるんだ?」
「見えるだけで数十万ってとこだろ。平地にこれだけ集まって、こっから仲良しこよしで王都を目指すんだろうよ」
アビスはそう言うと、舌打ちを一回。
「これくらい、ジジィの魔術があればすぐに終わる。さっさと『魔王』を倒して、全てを元に戻すぞ」
「あぁ、分かってる」
アビスの言葉にイグニは頷く。
「今の段階で俺たちが手を出したら『魔王軍』に俺たちの情報が筒抜けになる。ここは黙って見逃すぞ」
それはきっと、イグニだけに言った言葉ではなかった。ただ全員が固唾を飲んで見守らなければいけないその状況に対してアビスの紡ぐ言葉は、誰よりも自分自身に向けられていた。
アビスは地平線を埋め尽くす無数のモンスターたちから視線をそらすと、仲間たちに振り返る。
「マルコから聞いたが『魔王』は側に『英雄』をアホほど抱えているらしい」
「まだ懐刀を残してるってこと?」
アリシアの問いかけに、アビスが頷く。
「そうだ。『英雄』は来たるべき魔術師たちとの戦いに残しているつってた」
「来たるべきって……まさか、“極点”?」
「あァ、俺はそう思っている」
しかし、その返答にアリシアは首を傾げる。
「……『英雄』って魔法使いじゃなくて、魔術師よね?」
「そうだ。少なくとも、マルコは魔法について1つも知らなかった。これは『英雄』たちに魔法使いがそもそもいねェか、それとも数少ないもンだと推測できる」
「なら、『英雄』たちは“極点”には歯が立たないんじゃないの?」
「だが、前線で動ける “極点”は俺1人だ」
アビスの言葉にアリシアは閉口。
「俺たちの悪いところが出ちまった。強いもンだから、最初っから本体を叩けば……全て解決すると思ったんだよ。だから、こうして尻拭いをする羽目になってる」
「じゃあ、もし“極点”たちが『英雄』と戦っていれば……」
「ンなもん、勝負にすらなんねェよ」
そういうアビスからは絶対の自信が感じられた。
既に『魔王』に敗北したという情報からイグニたちは気落ちしていたが、そもそも『魔王』が異常。通常の魔術師であれば、“極点”たちと勝負にならないというのは正しい。
いや、だからこそ『魔王』の異質さが際立つというべきか。
「だから、俺たちは『英雄』たちの監視網も避けなきゃなンねぇ。つっても、こんな場所だったら襲いかかってくるやつなんていねェと思うが」
アビスがそう言った瞬間、移動型ゴーレムの足が爆発した。
「……っ!」
「狙撃だッ! マリオネッタッ! 森の中にゴーレムを隠せッ!」
5脚になった状態で、マリオネッタは華麗にゴーレムをさばくと……なんとか状態を立て直した。そして、その状態でさらに加速。彼もまた尋常の魔術師ではない。
「……おい? 襲われないんじゃなかったのか?」
「馬鹿。こういうのは大体想定外なんだよ」
イグニのツッコミに、アビスが返す。
「喧嘩をするのは他所でやってくれ」
マリオネッタはそう言いながら、激しく揺れるゴーレムを制御。
崖をほぼ落下するように滑り降りると、ゴーレムは崖下に広がっている森の中に隠れた。遅れて、先ほどまでゴーレムがあった場所が穿たれる。
「この足じゃ満足に走れない。どこかで止まって足を換装する必要がある」
「それ、動きながらで出来ねェか」
「……あぁ。あいにくと僕は、“極点”の人たちみたいに器用じゃないんだ」
「分かった。おい、この中で狙撃ができるやつはいるか」
ガシャガシャと音を立てながら疾走するゴーレムの後ろにボロボロと部品が落ちていく。誰がどう見たってこのゴーレムには限界だ。マリオネッタの言う通り、すぐに修理しなければ行けないだろう。
森の中に入ったからか狙撃手の追撃は止んだが、それもいつまで持つか分からない。
魔術を使った狙撃には障害物を問答無用で薙ぎ払っていく物だってあるからだ。
「俺ができる」
だから、イグニが立候補したのだが、
「クソガキ、お前には聞いてねェんだ。さっさと魔力を貯めとけ」
一瞬で却下された。
仕方がないので、イグニはアリシアと見たが、
「……わ、私には無理よ?」
と、アリシアには否定される。
そもそも【風】属性の魔術は近距離から中距離向き。
確かに遠距離での狙撃は向いていないと言わざるを得ないだろう。
イグニはそのまま視線をスライドしてローズを見たのだが、
「で、できないわ……。ごめんなさい……」
せっかくイグニから期待されたのに……と付け加えながら、ローズはしょんぼりしてしまった。
「わ、私には無理ですよ」
「うーん。私も狙撃はやったことないなぁ……」
そして、イグニが問いかけるよりも先に“
となると、残るは2人。
だが、
「どうして僕の方を見るんだ! 僕は
当然、彼が狙撃などできるわけもない。
そうなると、必然的に残るは1人。
「ぼ、ボク……?」
ゴーレムの上で全員の視線を集めたユーリは少しだけ困ったような顔を浮かべたが、
「……わ、分かった。やってみるよ」
周りに押されるようにして頷いた。
「俺が
「で、でもボク。狙撃なんてやったことなくて……」
「うるせェ。俺の指示通りに魔術を撃ちゃァ良んだよ」
アビスはそのままユーリの首根っこを掴むと、荒れるゴーレムの上ですっと立ち上がった。
「ゴーレムには簡易的な偽装魔術をかけとく。気休め程度だ。残ったやつらがしっかり守れや」
「ああ、任せろ」
「お前は何もするな」
連続してアビスに叱られてしまったイグニは魔石を持ったまま閉口。
「狙撃手倒してくるから、そこで待っとけ」
そういってアビスはユーリを掴んだままゴーレムの背を蹴って、木々を足場に消えていった。
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