第3-19話 名前と魔術師
「じゃあ1年生たちは、まず戦闘訓練からだね!」
昼食を食べ終わると同時にミル会長がそう言った。
「戦闘訓練ですか?」
「そうだよ。この遠征の目的は生徒会としての戦力増強も兼ねてるからね! まずは戦闘訓練からやろう」
「なるほど」
イグニは頷いた。
「それぞれ練習メニューをしっかり組んできてるから、そこは安心してね」
「練習メニューを……」
「うん。これは毎回会長が作るのが伝統なんだよね」
そう言ってミル会長は微笑んだ。
「まずイグニ君」
「はい」
「近接戦闘にもうちょっと慣れようか。魔術禁止でミコちゃんとやりあって」
「分かりました」
「次はユーリ君ね。まずユーリ君は攻撃魔術を使えるようになるところから始めようか」
「は、はい……」
いまだに攻撃魔術が使えないユーリが緊張した面持ちで返事を返す。
「んーっとね、【闇】魔術を支援魔術として使いこなしてるのは十分凄いとは思うんだけど。いざって時にやっぱり戦えないとダメなの」
「は、はい……」
「だいじょーぶ! 私も【闇】属性が適性だからさ! ちゃんと、それなりに使えるようにしてあげるって!」
ミル会長の励ましに、ユーリは乾いた笑いで応えた。
ユーリは攻撃魔術が使えず、従って戦闘を行う実技系の成績は軒並み悪い。
適性はSなので使えないことは無いはずだが、やっぱり向き不向きなんだろうか? と、イグニは考えた。
「最後にリリィちゃん。リリィちゃんはもうちょっと実力を見たいからヴァリアちゃんとやってもらえる?」
「良いのですか?
「手加減してね」
ヴァリア先輩は生徒会で唯一の2年生の先輩だ。
1つ違いなのでこれからもお世話になるんだろうなぁ……と、イグニは綺麗な金髪を見た。
「じゃ、さっそく動きやすい服に着替えてビーチに集合ね!」
イグニたちは短く応答した。
「こうしてお前と戦うのも久しぶりだな」
「この間戦ったばっかりじゃないですか」
「ははっ。そうだったな」
イグニはミコと向かい合う。
ミコちゃん先輩は動きやすい服装に着替えているのだが、下の丈が短いので太ももが凄いのなんの……。
獣のような俊敏性を誇るミコちゃん先輩の素晴らしい筋肉美が見れるが……それよりもやっぱり太ももが…………!
「イグニ。この間、お前から教えてもらった技あっただろ」
「はい! あの魔力を回すやつですよね」
「おう。オレ、あれをマスターしたぜ」
「マジですか?」
「マジだ」
ミコちゃん先輩がそういって頷いた。
「……俺だって、別に遊んでたわけじゃないですからね」
「よし、来い」
「行きます」
イグニは自分の魔力を
回転数は制御できる毎秒20回転で。
「――シッ」
イグニの短く吐いた息が、遥か後方に流れていくのを肌で感じながらイグニは踏み込んだ。
そして、ミコめがけて拳を振るう。
「速くなったな」
「ありがとうございます!」
イグニは感謝とともに、掴まれた拳を大きく自分の方向に引き寄せることで、腕を掴んでいるミコちゃん先輩を自分の側に近づけて膝蹴り。
だが、ミコちゃん先輩はイグニの膝蹴りを片手で簡単に抑えると両足でイグニの身体をがっちりホールド。
(やわらか……っ!)
毎日ストレッチを欠かさないミコの柔軟な筋肉にイグニの心が
「このまま馬乗りになるとオレの勝ちだぜ」
「させませんよ」
イグニは上半身を、ミコの下半身でがっちりホールドされている状態でバク転。
「おーっ! すげえな!!」
イグニのバネの強さにミコが笑って、下半身でのホールドを解除した。
「がんばれー!」
砂浜の向こうから、日焼けしないようにパラソルの下に入ったサラの応援が届く。
イグニはそちらに手を振って、魔力の回転数を毎秒25回転にまで上げた。
「なぁ、イグニ」
「どしたんです?」
「お前、近接格闘と『ファイアボール』を組み合わせたらどうだ?」
「格闘術と『ファイアボール』を?」
「おう」
ミコちゃん先輩は追撃せずに、優しく語り掛けて来た。
「この魔力を熾したまま回転させる奴だけどよ。これ魔術じゃねえから、回転させたまま魔術って使えるんだよ」
「使ってみたんですか?」
「おう。それで、どうなったと思う?」
「どうなったんですか?」
「見せてやるよ」
そういってミコちゃん先輩は魔力を熾して、
「『
自分の身体を強化。
そして、砂浜に落ちている木の枝を拾いあげて、
「ふッ!!」
それを振った。
バシィィイイイイイイ!!!
次の瞬間、海が裂ける。
と、言ってもわずかに10m程度だが……それでも一瞬だけ完全に海が断ち切れた。
「やばくないか?」
「やばいっすね」
イグニは裂けた海を見ながら、
「だろ? だからお前も『ファイアボール』とこの回すやつ使えば良いんじゃないかと思ってよ」
「確かに。……でも、ミコちゃん先輩。俺1つだけ気になることがあるんですよね」
「うん?」
「この技、そろそろ名前をつけませんか?」
魔術において、名前を付けるのはとても大切なことだ。
それは不確定の事象に対して、1つ『これ』と言った具体的事象に落とし込む作業である。
名前の付いていない魔術と付いている魔術では発動速度も威力も安定性も変わってくる。
魔力を熾して回す技は魔術ではないが、魔術師としては名前をつけたくなるものだ。
「名前か! オレはあるぜ!」
「お、マジですか?」
「おう! ぐるぐる魔力だ!!」
「おおー!!」
イグニはノータイムで拍手。
ミコちゃん先輩は満足げにちょっとドヤ顔。
いや、勿論イグニとて男の子である。
男の子であるからこそ、ちょっとだけ、ほんの少しだけ心の奥底に「ださくない……?」という気持ちが走ったが、それよりもミコちゃん先輩は可愛いなぁ……という気持ちとモテの作法19。――“女性の話は否定しない”。によって、拍手した。
「良いだろ。これはオレの名前だからな。イグニでもあげないぜ!」
「大丈夫です! 俺も俺で考えてますから!!」
「へー! なんて名前つけたんだ!?」
「俺ですか? 聞いて驚かないでくださいよ」
「おいおい、オレはロルモッド魔術学校の3年生だぜ? そうそう魔術名じゃ驚かないですよ」
「『
「か、カッコイイ!! カッコイイぜ! イグニ!!」
「でしょう? ずっと考えてたんですから!!」
イグニはドヤ顔。
「ちょっとそこのお2人? ちゃんと練習していますの??」
「おいヴァリア! こっちは真面目にやってんだぞ!」
「あまりそうは思えませんでしたけど……」
ヴァリア先輩は困り顔。
「ま、ヴァリアにこの良さは分かんねーよ」
そう言ってミコちゃん先輩がイグニの肩に腕を回す。
刹那、イグニとミコの視線が合って、
「「
息ぴったりにそう言った。
困惑しているヴァリアの後ろでサラが「ロマン!」と言って、目を輝かせていた。
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