第2-21話 突入する魔術師
「イグニ! あそこ!!」
ユーリを抱えて空を飛んでいたイグニたちは先行していた『闇の塊』が、ある瞬間にふっと消えたのを見た。
「消えた?」
「違う! 偽装魔術だよ! 幻想で辺りを覆っているんだ!」
「幻想を……。確かに私たちに宣言したときも幻想を見せていました」
脚に水を纏って地上を高速移動していたフローリアがもらす。
「イグニ! このまままっすぐ! 偽装魔術の中に突っ込めば『工房』への入り口が見えてくるはずだ!」
「分かった!!」
イグニは『ファイアボール』に指向性を与えて爆発! 大きく加速すると、『闇の塊』が消えた場所に突っ込んだ。
ぬるっ、という魔力を通り抜ける気持ちの悪い感覚とともに
それと同時に地下へとつながる入り口のようなものも見える。
「『
イグニの詠唱。展開された『ファイアボール』が全て白く染まる。
遅れて、侵入者に気が付いたゴーレムがイグニたちに手を伸ばす。しかし、それよりも先にイグニの『ファイアボール』が放たれた。
「『
ズドドドッ!!!
全長3mほどのゴーレムの腹部に『ファイアボール』が激突ッ!
その身体を木端微塵に打ち砕くッ!!
「脆いな」
「索敵型かも知れないよ?」
「俺は詳しくないんだが、そういう風に分類される物なのか? ユーリ」
「そうだよ。ゴーレムだって簡単には作れないからね。ある程度製作コストがかかるんだけど……それと同じようにゴーレム単体で出来る処理にも限界があるんだ」
「うん?」
「例えば、あるゴーレムの処理できる量が10だとするよ? そしたら索敵で7、戦闘に3とかに割り振るんだ。こうすると簡単な戦闘が出来る索敵ゴーレムが出来る。この比率を弄って最適なゴーレムをその場で生み出したり、処理できる量をどうにかして増やすのが魔術師としての腕の見せ所なんだ」
「じゃあこのゴーレムは?」
「“支配”のマリオネッタの適性属性は【地】属性じゃないんだよね? だからだと思うけど、良くも悪くも普通の出来だと思う」
「普通か」
イグニが呟くと同時に、地下への入り口をふさぐように新しいゴーレムが現れた。先ほどとは色も形も違うゴーレムたちだ。
「イグニ! あれがきっと戦闘用のゴーレムたちだ!」
「分かった! 『
マリオネッタのゴーレムを破った手法でイグニは魔力を込めると、
「『
空気が張り裂ける悲鳴!!
戦闘用のゴーレムたちはイグニたちに近寄ることなく爆発四散する。
「……脆いぞ?」
しかし、イグニは返ってきた反応に首を傾げた。
前にゴーレムを壊したときはこんなに簡単じゃなかったはずだ。
「だとしたら、ゴーレムを生み出した魔術師が他のことに魔力を使っているのかも……」
「『疑似魔法』」
ぽつり、とフローリアがつぶやく。
「もしかして、まだあれを使っているのかも知れません」
「12時間……。いや、13時間近くか」
イグニが誰に言うまでもなく吐き出す。
『魔法使い』である彼からすれば、その程度であれば『魔法』は使い続けられる。何しろイグニの魔法は魔力次第ではあるが数百億年ほど持つのだ。
マリオネッタの魔法が不完全にしろ、『魔法』という名を手にしているのであれば12時間ほどは使えるだろう。
「なら、今がチャンスだな」
イグニが笑う。
「何を考えているのか分からないけど、『魔族』は正面戦闘をしない。むしろ情報戦をメインにしている。ということは、自分の強さをそこに見てるんだろう」
「私たちの戦いの場所にも『魔族』とマリオネッタはいなかったです。正面戦闘はしないとマリオネッタが言っていたから……苦手な可能性はありますね」
「マリオネッタの強さは分かってる。それが『疑似魔法』で魔力をこちらに向けられないなら……
イグニは地下に繋がる入り口をこじ開けて、下に降りた。
――――――――――
昨日の夜にふらりと出かけたまま、クララ様が帰ってこない。
出かける時に『聖女』を守りにいくと言っていた。
「リリィ。君は宿から逃げるべきだ」
「な、なぜですか! ルーラ隊長! 私も戦います!!」
「若いエルフが生き残るべきだよ。敵が『聖女』様だけを狙っているのか。それとも、エルフを狙っているのかが分からない以上、君がここにいるのは危険だ」
ルーラ隊長はそう言って、私のことをアリシアとイリスに預けた。
「ごめんね。君たちにリリィのことを任せちゃって」
「いえ。大丈夫です」
「行きましょう。リリィちゃん」
「隊長!」
ルーラ隊長は悲しそうに目を伏せて、宿にいたエルフの協力者たちに色々と指示を出していた。
現場はこれだけ荒れているというのに、私の心は不思議なことに落ち着いていた。
むしろ……むしろ、心地良さすら覚えていた。
言えない。こんなことは言えないけど、
クララ様が消えてよかった、と心の底から本当に思ってしまっているのだ。
なぜ? と自分の心に聞いた時に、あの時の光景が出てくる。
イグニの手を取って、街に消えて行くクララ様の姿が。
でも、どうしてそれが自分の心の安定に繋がるのかが分からない。
安心感と自己嫌悪で吐きそうになる。
「ユーリ!? ユーリはいるか??」
その時、エドワードがやってきた。
「どうしたの? エドワード」
アリシアたちと一緒にいたユーリが首を傾げる。
「イグニが呼んでる。『聖女』さまが連れ去られたんだ! お前の力が必要だ!」
「分かった。ボクはイグニのところに行ってくる!! リリィちゃんをお願い!!」
「あ……」
ユーリとエドワードが駆けだしているのをみて、私は再び心が締め付けられた。
私じゃないんだ。
少し冷静に考えれば分かったことだ。だってユーリはイグニの友達で、協力することだって今までにあったはずで、そこでイグニはユーリの力を知ってるはずで。
……私じゃないんだ。
イグニに選ばれなかった、ということが私の心臓を握り締めた。
「どうしたの? リリィちゃん」
「顔色悪いわよ」
アリシアとイリスの2人が心配してくれてる。
けれど、この2人も敵なのだ。
だから、私は。
「お手洗いに行ってきます」
「う、うん」
そう言って、2人から離れるとフードを被った人からもらった水晶を取り出した。
「どうしたの? リリィちゃん」
「……話があるの」
そこに映るのは『魔族』の少女。
その後ろには眠っている『聖女』がいる。
「イグニたちが……行くわ」
「ありがと! 準備しておくよ」
「イグニには手を出さないで」
「難しいけど考えておくよ」
「……本当に」
「どしたの?」
「本当に、私の願いを叶えてくれるの?」
「当り前だよ!」
『魔族』の少女は、悪魔のように嗤う。
「私の
「
悪魔の声を聞きながら、私は水晶を再び隠した。
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