第2-18話 『魔法使い』たち・下

 首が刎ねられたセリアはわずかにたたらを踏むが、すぐに彼女の傷跡を光が覆った。


「流石は師匠! 素晴らしい剣術です!!」


 確殺を狙える魔法であろうと、それが必殺にならない相手がいる。


「しかし『100年』を乗り越えた私には児戯に等しい」

「『100年』……?」


 クララが首を傾げる。


「ええ。優れた『魔法使い』にやられましたよ」

「それは……将来に、期待……ですね。でも……」


 クララが地面を踏み抜く。


 その足元を狙ったセリアの剣を踏みつけて、クララは跳びあがると同時にセリアの心臓を穿ったッ!


「私にも……懸けたい、『魔術師』……が、いるんです」


 ヒィン!!


 冷ややかな金属音。それと同時に修復されたセリアの両腕が飛んだ。


「流石はクララ師匠! 凄まじい剣です」

「あり、がとう……」


 空中で反転したクララは建物を蹴って、セリアの足首を斬り飛ばした。


「なるほど……。クララ師匠を相手にするのは分が悪い」

「それなら……引いて、ください……」

「ふむ」


 セリアがわずかに声を漏らす。


 刹那、突如として現れたに一同の視線が向けられる。


「やぁ。そろってるね」


 そこに居たのは、咥え煙草の男。

 顔はくたびれており、“極点”3人を相手にしていても、なお飄々ひょうひょうとした態度を崩さずにいた。


「おじさん、若い女の子からそんなに見られたら照れちゃうよ」


 そう言って、困ったように笑う男こそ……“支配”のマリオネッタ。


「セリア。……立ちなさい」

「……ええ」


 


 その場において、全ての“極点”がマリオネッタを最弱と判断。

 故に、最初に狩る。


「怖い怖い。やっぱり、僕みたいな小心者が前に出るべきじゃあないね」

「『水弾ウォーター・バレット』ッ!!」


 その中で唯一長距離魔術を使えるフローリアが先制攻撃。


 しかし、マリオネッタはそれを防ぐような動作を取らずに魔術が直撃ッ!!

 頭を粉々に砕いてこぼれたのは……ただの、土くれだ。


「ゴーレムかっ!」

「そりゃそうでしょ。君たちみたいな化け物相手に誰も真正面から行かないよ」


 マリオネッタの姿が元のゴーレムに戻ると、声だけがどこからか聞こえてくる。


「……どこ、に?」


 クララは地面に剣をついて索敵。しかし、感じない。

 セリアも同じように魔力の発信を特定しようとするが……捕まらない。


「この間はお世話になったね。人は面白いことに1度相手に勝つと、その相手を舐めちゃうんだよね。だから、おじさん。最初は負ける様にしてるんだ」


 マリオネッタが紫煙を吐き出す。

 その姿は先ほどとは大きく離れた場所にあった。


 あれもおそらくゴーレム。


「そうすると、2回目にでしょ?」

「卑怯なッ!」


 フローリアの叫びにマリオネッタは肩をすくめた。


「狡猾って言って欲しいね。まあ、こんなのそれなりに歳を重ねた相手には通用しないよ」


 マリオネッタの気配は察知できない。


「だから、君たちの敗因は……その若さだよ」

「私……年齢は……それなり、なんですが……」

「おっと。これは失礼」


 マリオネッタが慇懃無礼に礼をする。


「まあ……どうしてここに現れたかって言うとさ。『依頼主』からの宣戦布告なんだよ」


 マリオネッタの後ろに少女の姿が現れる。

 少女の後ろには眠ったままのローズがいる。


 それを見た瞬間、セリアとフローリアが息をのんだ。


「『聖女』は私たちがいただく」

「……“魔族”」


 少女の言葉にセリアがわずかに息を吐いた。


「『魔王』様の復活は、近い」


 それだけ言うと、マリオネッタの後方にいた少女は消えた。

 最初から幻覚。だから、フローリアは。


「セリアッ!」

「なんだ。“水の極点”」

「地面をッ!」

「なるほど」


 セリアがそれに頷いて、強化した地面で道路を踏み抜いたッ!!!


 ドン!!!!!


 一瞬、地面が隆起するとその波が伝わって周囲を激しく揺らす。

 マリオネッタの姿を映しているゴーレムも立っていられなかったのか、地面に倒れこんだ。


「『登竜門ウォーター・フォール』」


 その中で唯一身動きの取れるフローリアは水に乗って跳びあがると、周囲を索敵。


「クララッ! そこから10時の方向! 路地を右に曲がったところにいるぞッ!」

「……んな馬鹿な」


 隠れていたマリオネッタは自分の位置を補足されたことに衝撃。


「地震を起こして動きを止めて場所を特定って。君たち怖すぎるだろう」


 しかし、マリオネッタは逃げない。


「んー。でも、そっか。女の子を前にして逃げるってのも男らしくないもんね」

「……情報、吐いて……もらい、ますよ」


 揺れの中、空中を移動することで瞬きする間に距離を詰めたクララがマリオネッタを見る。


「いや。まさか」


 マリオネッタはその時、取り出したどす黒い塊を飲み込んだ。


「僕の2つ目の名前……。知らないわけじゃないだろう?」

「覚悟を」

――『支配の魔法』」


 刹那、3人の世界が暗闇に飲み込まれた。


 ――――――――――

「それで、どうなったんだ!?」


 イグニの言葉に、治癒が終わったフローリアは黙りこくった。


「私は……私の『魔法』で戻ってきた。しかし、戻ってきたのは私だけ。セリアも、クララも……まだ」

「ど、どういうことだ? 『疑似魔法』って!!?」


 エドワードが慌ててそう聞く。


「分からない……。私たちがいたのは……不思議な『世界』だった。でも、あれは魔法じゃない。0から1じゃなくて……。多分、元々ある世界を使ってる。疑似的な『世界の構築』。だから……別の世界に、いたんだ」

「マリオネッタは!?」

「あの世界にはいなかった。逃げたんだと、思う」


 イグニは自らの歯で強く噛みしめた。


「エドワード。ユーリに連絡を。ローズの宿に来るように伝えてくれ」

「分かった! イグニはどうするんだ!?」

「フローリアさんから話を聞く」

「『聖女』さまの宿で待ち合わせだ!」


 エドワードはそう言って、駆けだした。


 イグニもフラフラになったフローリアを連れて宿を目指す。



 それを後ろから見張る者たちが数人。

 影に隠れる様に、イグニ達を見張っていた。

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