極点の炎魔術師〜ファイヤボールしか使えないけど、モテたい一心で最強になりました〜
シクラメン
第1章
第1話 ”適性”の儀
「イグニよ。良く聞け」
イグニは自分の目の前に座る男を二つの目でしっかり見つめた。
何を隠そう。目の前にいる男こそ世界最強の一角。
“極点”の魔術師に他ならない。
老いたとは言え、その魔術は極みに達しており、常人であれば1秒とかからずに灰にできる。
「う、うん。どうしたのじいちゃん」
イグニは焦る気持ちを抑えて、自らの
白髪を後ろで束ね、しわしわの肌を隠すようにローブを身に纏う。それでいてなお、ギラギラとした瞳は、狩人を思わせた。
「モテの極意その1。――“強い男はモテる”」
「つ、強い男はモテる……!」
“極点”と呼ばれる最強の魔術師は、大真面目な顔で孫にそう伝えた。
「ああ。ワシがここまでモテるのは“最強”だからだ」
「じいちゃんが最強だからっ!」
それは疑いようのない事実だ。
街を歩く100人に聞けば、100人とも彼が“最強”だと口をそろえて言うだろう。
「じゃからの、イグニ。これから行われる『適性の儀』が全てじゃ」
「う、うん!」
『適性の儀』。それは、この国どころか世界中で行われている儀式である。
人の身を超えた術である魔術。
その魔術はいくつかの種類に系統が分かれている。
地・水・火・風・光・闇・生
『適性の儀』とは12歳になった少年少女たちが、己の最も適性のある属性を知ることの出来る儀式を指す。
適性を知った少年少女たちは、それから自らの先を決めるのだ。
魔術の研究者を選ぶ者。
冒険者の道に進む者。
才の無さを受け入れて魔術から離れて生きる者。
「イグニよ! お前がモテたいなら、最強の“適性”を得るしかない……ッ!」
「最強の……“適性”……ッ!?」
「ああ。その適性とは……」
――――――――――――
「イグニよ。イグニ! 起きているのか」
「は、はい! お父様!!」
父の声で目が覚めた。
どうやら一週間前に会った祖父との夢を見ていたらしい。
馬車の中で居眠りをしたというだけあって、イグニの父は顔を真っ赤にして怒っていた。
「全く、普段から人の話は聞かない。勝手に家から抜け出す。お前は長男としての自覚があるのか!」
「す、すみません。お父様……」
イグニは馬車の中で身を縮めた。
「全く。弟のフレイは優秀なのに。どうしてお前はそう無能なのだ」
「お父様。お兄様をあまり叱らないでください。お兄様は夜遅くまで勉強して、疲れているのですから」
イグニは弟のフレイに庇われたことが恥ずかしくて顔を赤く染めた。
「良いか、これから行われる『才覚の儀』でお前たちが手にするべき適性は“光”だ。タルコイズ家の才覚をお前たちが引き継ぐのだ!」
「「はい。お父様」」
2人そろって首を縦に振る。
「他の適性ではだめだ。タルコイズ家は“光”の一族。絶対に一族から“極点”を出さなければならない。……忌々しいあの男さえいなければ」
イグニの父は吐き捨てる様にそういった。
忌々しいあの男。
誰、と言わなくてもイグニにはよく分かる。
タルコイズ家から出た
いや、もう家から追放されているからただのルクスである。
イグニの父は彼のことを一族の汚点と呼び、恥さらしとまで呼んでいるのだ。
『貴族には貴族の流儀がある』
とは、彼の父がいつも口にしている言葉である。
イグニがそんなことを考えていると、馬車が止まった。
……教会についたんだ。
ちらり、と外を覗くと同年代の少年少女たちが緊張した面持ちで教会の中に入っていくのが見えた。
「イグニ、そしてフレイよ。心してかかれ。“極点”は一族の悲願なのだ」
「……はい。分かっております。お父様」
「もちろんです。お父様」
イグニとフレイは一礼をして、馬車から降りる。
他の少年少女たちに紛れるように、教会に向かっていると後ろからちょんと肩をつつかれた。
「イグニ。元気にしてた?」
「あれ? ローズ」
誰かと思ってビックリした。
イグニの後ろに立っていたのはローズ・アクルマルン。
“水”属性の名家であるアクルマルン家の1人娘。そして、イグニの
空色の髪の毛に、透き通るような青い瞳のかわいい少女だ。
「今日は頑張ろうね。イグニ」
「うん!」
「私は“水”。イグニは“光”。2人で“極点”を目指そうね!」
「もちろん」
それは2人が6歳の時に交わした約束。
ローズはイグニと会うたびにこの話をしてくるのでイグニは少しだけ照れくさくなってしまう。
「ダメだよ。兄さん。光の“極点”には僕がなるんだから」
「はは。じゃあ勝負だな」
フレイとイグニは同い歳の異母兄弟だ。
だが、仲良くここまでやって来た。
フレイはイグニに足りないところをたくさん持っている。そして、ちゃんと支えてくれるのだ。
「見てイグニ! あんなに神官様がいっぱい!」
「ろ、ローズ。神官様を指差したらダメだよ……」
教会の中に入ると、普段は1人しかいない神官がなんと10人以上もいるではないか!!
神官たちは水晶を目の前にして、子供たちの適性をどんどんと叫んでいく。
「【水:B】!」
「おお! Bランク!?」
中に入ると、わっと歓声が沸いた。
「Bランクだって。すごいね」
「大丈夫。俺たちの方がもっと上だよ」
神官が適性を口に出すのは最も適性のある属性だけである。他の属性については、そのあとに貰える『ステータス』と呼んでいる板を見れば良い。
常人であればDランク。あるいはそれ以下。
その中でBランクを出した少年は勝ち誇ったように笑みを浮かべていた。
「【光:D】!」
「【火:C】!」
「【闇:E】!」
どんどん神官たちが少年少女の列をさばいていく。
「次の者、前へ!」
「わ、私だ。行ってくるね」
ローズが呼ばれたようで、前に出る。彼女は緊張しているのか、ガチガチなフォームで神官の前に歩いていく。
「……む。これは…………!?」
「ど、どうされましたか!!」
神官の中で一番偉そうな人が水晶をのぞき込んで大きく目を開いた。
「これは……! まさか!!」
「どうされたのですか!」
「せ、【聖:S】」
わなわなと震えながら神官がぽつりとつぶやいた。
……聖属性っ!!?
突如告げられた事実にイグニだけではなく、会場全体が一気にどよめいた。
「せ、聖属性!!? 100年に一度しか現れないというあの!!?」
「しかもSランク!? 嘘でしょう! 神官様!」
「う、嘘ではない……! 水晶は、嘘をつかない……!!」
神官たちが慌ただしくしている中、当のローズはぽかーんとした顔を浮かべているままだった。
「嘘だろ!? 【聖】属性のSランク!?」
「そんな話、聞いた事無いぞ……」
「で、伝説の始まりだぁ……!!」
神官たちの比じゃないくらい周りが騒ぎ出す。
……もしかしたらローズは事の重大さに気が付いてないのかもしれない。
【聖】属性とは【水】属性の上位に存在する属性で、持っているだけで男であれば聖人。女であれば聖女に認定され、国から
そして、上位属性のすさまじいところは例え最低値のFランクであろうとも、下位属性の【水:S】ランクよりもはるかに上の力を持っているのである。
そんな上位属性の、Sランク。
……ローズの“極点”入りは時間の問題だろう。
人知れず、イグニの心臓がドクン! と、強く脈打った。
「……こほん。君は、アクルマルン家の子だね? 後日、国王から手紙が届く。それまでは騎士団が護衛に当たるだろう。なに、安心するとよい。人より才があるというだけだ。次の者、前へ!!」
次はフレイが呼び出される。
「頑張れよ!」
「ありがとう。兄さん」
フレイが前に進む。
「ほう。君はタルコイズ家の子だね?」
「はい」
「うむ。…………うむ?」
「どうかしたのですか?」
「……これは、いや。そんな…………」
再び神官が戸惑う様子を見せる。
「【極光:SS】」
「き、【極光】!?」
それは光属性の上位属性。しかもSSランク!
100年に1人しか出ないと言われる超高位ランクだ。
だが驚くべきところはそこじゃない。
光の上位属性は物語でしか聞いたことがないものだ。
フレイがまさかそれを手に入れるとは!
「上位属性が2人も出るなんて」
「今年は当たり年ですね」
「次の者、前へ!」
……イグニの番だ。
「は、はい!」
呼ばれて、イグニが前にでる。
「頑張ってね」
こそっとローズがイグニの耳元でささやいてくれた。
……ああ。頑張るさ。頑張るとも。
さあ。どんな属性が来るのだろうか?
【光】のSランクか? それとも【極光】か??
それとも【闇】だろうか?
もしかしたら伝説に聞く【
イグニの期待が高まる中、神官は静かに告げた。
「【火:F】」
その瞬間、教会が静まり返った。
「……はい?」
「ん? 聞こえなかったのか? 【火:F】だ」
「……いや、いやいやいやいや」
頭の中が真っ白になる。
背筋に冷たいものが走っていく。
そんな馬鹿な! 最も適性があるのが【火】属性!?
しかも最低値のFランクだって!?
「……もういっかい」
やり直してください。
と、イグニが言おうとした瞬間に神官が口を開いた。
「次の者、前へ!」
……終わった。
イグニの頭の中は、それで埋まった。
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