キスしないと出られない部屋(ふわとげ)

目を覚ますと見知らぬ部屋に居た。

そこは見渡す限り白一色で…


「どこだ?ここ??」


「う…」


横からうめき声が聞こえて、その人物が起き上がる。


「久真か!あー、良かった知ってる人で!」

「え?あ?槇先輩?」

久真は起きたばかりでぼんやりしている。


「そーそ!俺だよ、槇!っていうか、ここどこかわかるか?」


辺りを見渡す久真。


「…知らない場所ですね。」

「だよなー!」


その時ピコンと音がなり、白い壁にデカデカと文字が浮かび上がる。


『キスしないと出られない部屋』


「えぇ?なんだこれ?」

「…?」


実はこの二人、付き合ってはいるもののキスの類いはまだしたことなかったのだ。


「ホントにキスしないと出られないのか?」


「あ、先輩。よく見たら出られない部屋の文字の下に小さく『お題をクリアしたらドアが出現するよ』って書いてます。」


「クソー!!扉さえあったら魔法でなんとかしたのに!!」


·

·


久真はなんとかする方法を考える。

そういえば…


「久真氏!このマンガめちゃくちゃ良かったので読んで欲しいです。」

「あ、うん。」

ネズミから受け取ったマンガは奇しくも「○○しないと出られない部屋」案件のマンガで…その知識をなんとか活かせれば…!!


一か八かで槇に問いかける。


「あの…槇先輩。俺に考えがあるので、ちょっと目を瞑ってもらえませんか?」

「いいぞ!」


元気に即答する槇にちょっと心配しつつ…久真は槇の頬にそっと口付けを落とす。


「ん?」

「目開けても良いですよ」


するとピコンと音が鳴り、壁の文字が変わる。


『キスしないと出られない部屋(キスは口同士で)』


「ウソ…マンガではこれでいけたのに(小声)」


「も~注文が多いヤツだなー!!

こうなったら仕方ない、俺も腹をくくるぞ…来い、久真!!」

両手を広げて久真を受け入れる体制になる槇。だがその顔は赤く染まっている。


「槇先輩大丈夫ですか?めちゃくちゃ顔赤いですけど…」

「それは言わないで!余計恥ずかしくなるだろ!!」


するとまたピコンと音が鳴り、壁の文字が変わる。


『ディープキスしないと出られない部屋』


「あ、先輩が渋ったからか、なんかお題が段々過激に…」

「どうするんだこれ!!」

「どっちみちやらないと出られなさそうだし……やるしかないですね。」


覚悟を決めた二人は顔を近づけ……そして唇を重ねる。


最初は軽いキスだったが、だんだん舌が入り込み、濃厚なものへと変わっていく。


「ふぅ……」

息継ぎのために一旦離れる。しかしすぐに再開され、どんどん深みにはまっていく……。


「ぷはぁ……もうダメかも……」

「槇先輩しっかりして下さい!」


槇の腰砕けになりかけた時、急に部屋の照明が落ち、真っ暗になった。


『ミッションクリア!』

天井からそんな音声が流れてきた。


『おめでとうございます。貴方達は見事、部屋からの脱出に成功しました。』


「マジか!?」

「やった…!」


『さて、ここからが本題なのですが……』

急に不穏な空気が流れる。


『ここから出るとお二人の記憶は部屋に入る前に戻ります。つまりこの部屋で起こったことは全く覚えていません。』


「えぇ?」

「どういうことなんでしょう……?」


『よって、部屋から出た後のことはお二人だけのヒ・ミ・ツ♡』

「はぁあああ!!??」


「…でも…よく考えてみてください先輩。

記憶がなくなるってことは…ファーストキスをやり直せるってことです。ファーストキスが命令されつつやったっていうのも…、なんか嫌でしょ」


「なるほど!久真は賢いな!」

「…いえ」


「じゃあ…ん!!」

槇は久真に小指を出した手を差し出した。

「槇先輩…??」


「この記憶は消えちゃうけど…いつかちゃんとキスしてくれよな!」

「はい…!もちろん」


そうやって二人は指切りをして、部屋を後にした。


(終)

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