19 滑稽話


 滑稽話の続きならば、

 始まりはやはり夜の森。

 鳴く鳥の声はどこか遠くに、

 吸い込まれるように溶けて消えゆく。


 小さな獣のあの二匹は、

 いったいどこに消えたのか。

 桜の枝を切って盗んで、

 樹を病ませたのは誰なのか?


 森の屋敷が今日は賑わい、

 絢爛たるかな夜の舞台は。

 天鵞絨色のドレスをまとった、

 あの娘はいったい誰なのか?


 風景は二重に揺すれ、

 折り重なっては入り乱れ、

 とうに主役が誰かなど、

 見失わずに済むものはなし。

 

 風景は十重に二十重に、

 騒然たるかな夜の舞台は。

 誰かは誰かの手のひらの上、

 その誰かは誰の手のひらに?


 あるいはこんな夜の舞台も、

 無為な余興の副産物と、

 暗幕の中の舞台から、

 いつかは気付く者もあろうか。

 

 屋敷の主は席を外して、

 暢気に茶会を開いている。

 終演の幕が降りた舞台で、

 誰も彼もが役を演じる。


 白い屋敷の薔薇園に、

 子供らは尚も笑い合う。

 噴水は絶えずひかりをはなち、

 花は芳しく香り立つ。


 けれどそれは、

 こことは違う幕の向こう。

 舞台のうえの哀れな役者の、

 これはひとつの滑稽話だ。


 

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