16 空にまいあがった

 景色なら、はじめから青かった。誰も気付かないほど当たり前に。ハイビスカスの飾り、似合っていた。覚えてはいない。笑うのを忘れるくらいに。呼び声は遠く、言葉はわからず、目の前のすべては、空へと、吸い込まれていく。寂しさも、抜けない棘も、みな、風にまいあがって、吸い込まれていく。よどまないままでいつも、きみみたいになれたら。景色なら、いつのまにかこうだった。誰も気付かないほどひそやかに、塗りかわって、毎日は、でも閉め切った部屋を忘れてはいない。泣かないときめたわけでもなく、べつに泣く気にもならずに、白けながら眺めた、雑踏を、映画のように。呼び声は遠く、言葉はわからず、目の前のすべては、空へと、吸い込まれていく。忘れたくないことなんて、いくつもあった気はしないけど、それも風にまいあがって、空にまいあがった。

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