6 蝉時雨
もうとっくに使われなくなったバス停のベンチに座って、きみがソーダ味のアイスを食べていたとき、塩素の匂いに濡れた髪のまま、日焼けした足を無邪気にさらしていたとき、この街はまだ新しかった、そんな気がしている。水着の入った袋を振り回して、自転車で先をいく誰かを追いかけていたとき、まだ夏は夏らしくひかっていた。そんな気がしている。誰にとってもそうであったとは言えないにしても、そんな気がしている。
ところで、どうしてきみはそんなに走り回っていたんだろう。
おんなじように走り回ればわかるだろうか?
この街は新しかった、ということは、この街は古びてしまったのか? と問えば、そうではないことがわかる。
新しいとか古いとか、そんな言葉がとどかないところにだけ、あの蝉時雨がある。それは信じてもいいことだ。
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