4 灰皿

 秋が終わるのが寂しいものだから、冬が寒くてしかたないものだから、やめたはずの煙草を手にとってしまうのだ。枯木があまりにみすぼらしく、空気がきよらかにさえぎらないものだから、とても見てはいられないのだ。だから冬になると、やめたはずの煙草を手にとってしまう。はじめからおわりまでひとりでいたならば、煙草なんぞは覚えなかった。

 街が着飾る姿はどうも空騒ぎに思えてならない。それは誰かのせいではない。

 晴れた日。誰かが煙草を吸っている。空の上で、神様が煙草の灰を落としている。冬があまりにみすぼらしいものだから、神様は街を灰皿にすることにきめた。

 この街には灰が降りしきる。

 ところで、きみはどうしてここにいるんだっけ? 以前にもお会いしたことがありますか? 聞いたようなつもりで、聞いたような素振りで相槌を打ち、一秒のちには忘れている。なにはともあれ一本いかが。冬は寒くてしかたがないから。

 この街には灰が降りしきる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る