1 鈴

 しずけさ。

 きょう、一枚の窓のむこうがわに、ひそやかな暴力をみる。

 声、鳴き声、鈴のような、聞き取るのに難儀するような、こえ、は、そこで生まれたように思われる。

 あのちぎり絵のようなぼんやりとしたひざし、きみには見ることがかなわないのか。

 四、五人の男たちが、つめたい風のなか、建物の陰で一服している。

 ぼくは頭の中で、嘘になった本当と本当になった嘘の数をかぞえて落ち込んでいた。

 納得をしなければならない。

 覚えているだろうか?

 かぞえなければならない。

 鈴のようなこえをききながら、ぼくはひそかに、

 どうしてやわらかく透明でいられないのか?

 あるいは、

 どうしてやわらかく透明でいたいのか?

 を、考えている。

 信号機がいま赤に変わる。

 横断歩道には誰もいない。誰もいない。

 あの鈴の音を誰がきくだろう。

 誰が鈴をぬすんだりするだろう。

 ゆうべ積もった雪はあすには融け、

 凍った土が泥となり靴を汚すようになるころ、

 声は草木のように芽吹く。

 蝉のようにかしましくひびく。

 その鈴の音が、

 ぼくが殺した者たちの声が。

 あのちぎり絵のようなぼんやりとしたひざし、きみには見ることがかなわないのか。

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