第19話 魔物襲来3
アルムは宙に浮かせた直径二二センチほどのウォーターボールを、よく訓練された番犬のように左右に二つ従えて、オオサソリの目の前に立ちはだかった。
先ほどゼニスが助けた村人三人は少し離れた所、南の通りに面した建物の影に隠れた。そのうちの一人、中年の男は巨大なオオサソリを目にするやいなや、恐怖でもっと遠くに逃げようと試みるが、足が
オオサソリは正面のアルムに目もくれず、逃げるのがままならない三人の村人たちに目をつける。
アルムは方向転換する隙を狙って右手の平を空にかかげ、噴水の真上一〇メートル上空に予め置いておいた『ウォターボール』を発動させる。水球が青く光りだし高圧縮するように少し縮む。彼女は唱える――
『ブレイド』
ウォーターボールは切れ味鋭いロングソードのような水の
――だが、オオサソリは反射的に向きを変えて、水の刃をかわす。
「クソ!」
アルムは手を正面にかざし、すかさず地面に突き刺さっている水の刃を鋭く動かす―グワァン!と風を切る音を鳴らしながら鋭い刃がオオサソリに襲いかかる。巨体では流石にかわせない。青い水の刃は硬い外骨格にめり込み、そのままオオサソリの
まだ終わらない。アルムは水の刃を反転して次に胴を狙う――が、しかし! 上空に浮いたウォーターボールの魔力は尽きてしまい、それに伴い『ブレイド』の魔法も消え失せた。『ブレイド』はどんなものも切り裂く威力はあるが、魔力の消費はとても激しかった。
アルムはオオサソリと距離を取るために左手後ろにじりじりと下がり、右手を前に出して新たな魔法を唱える。彼女はほとんど詠唱することはないが、声に出すことによって魔法の威力が増すこともある。
『――スピア』
切れの良い言葉と共に自身の周りにある二個のウォーターボールの片側から、レーザービームのような水の矢を放つ。鋭い水流の線は目の前のオオサソリの頭を狙う。モーテルの頭を貫いた時の魔法だ。
しかし、スピアは外骨格に多少の傷は残すものの刺さらない。――なぜ? 『ブレイド』よりは威力は落ちるが『スピア』でも貫通はできるはず、彼女はそう思う。
「クソ、魔力で硬化でもしてたか!」
アルムは一筋の汗を掻き、肩で息をし始める。オオサソリは彼女を見限ったように反転して、村人たちの方へと向きを変える。その様子を見たアルムは建物の壁に沿って村人たちのいる方向へと走る。
「硬化してる間は遅い!」
彼女はオオサソリを越して村人の前まで行き、体を盾のようにして立ち
「ダ、ダだよ ……て」
村人の一人が言った。恐怖でもはや言葉になっていない。たぶんアルムに向かって言ったのだろう。彼女はその言葉を気にも止めず、新たなウォーターボールを背中から出す。
今度のは大きい、球体部分で一八センチ、輪っかを含めると四〇センチほどにもなる。自転している水球は日の光を反射して眩しく輝いている。アルムはそれをオオサソリから見えないように巧妙に背中で隠す。
音のない息をゆっくりと吐く。足は地に踏ん張ってはいるが上半身は楽な姿勢を保つ。経験的に体をリラックスさせることが魔法の鋭さを増すことを彼女は知っている。
「この大きさで『ブレイド』を唱えれば、硬化してようが確実にぶった斬れる!」
オオサソリとアルムは睨みを効かせながら、時が止まったかのような時間が流れた。実際は数秒もたっていない――
先に、仕掛けたのはオオサソリだ。右の鋏がアルムをめがけて襲う。すかさず彼女は正面に見せている二個のウォーターボールを合わせて、一メートルほどの円形の『ウォーターシールド』を張る。鋏がシールドに
アルムが攻勢に転じようと、背に隠していた『ウォーターボール』がシールドを超えていく、その時だ――
「おりゃあぁ〜!!」
雄叫びとともにオオサソリの背に鉄球が落ちてきたかのような大きな衝撃がかかった。――ドスンッ! ゼニスだ。
二階から飛び出し背に乗ったゼニスは間髪入れずに左から右へと斧を振う。スパン!っと綺麗に頭を落とす。そして、二、三と胴体も切り落とす。魔力で硬化しているはずのオオサソリがいとも簡単に
オオサソリはしばらく脚が奇妙に
「……ゼニス」
何よりも生きていたゼニスを見てアルムはホッとした。眼の前に張ったシールドを解き、背に隠していた大きめの『ウォーターボール』も彼女は解いた。バシャンとただの水のように地に落ちる。
一度出したウォーターボールの魔力は戻ることはない。まだ村に魔物が
魔物の気配がないこの場は魔力を温存しといた方がいいだろう、と彼女はそう思った。
「ガッハハハハッ! み~んな無事で何よりだ」
「ふぅ……。心配したよ、見たとこ大事に至ってなくて良かった」
アルムは
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