第43話
「まーね、アンタなんかより、ずっと良いわ。可愛いし」
彩奈が答える。
「いや、あのこの格好のときに容姿のこと言われるとちょっと.....恥ずかしいっていうか。メイクして貰えたとはいえ私可愛くないし」
「いやここで、そーいう反応辞めてくれる?話進まないから」
照れる私に対して呆れる彩奈。
そして、美咲さんに向き直る。
「アタシはアンタが嫌いだ」
「それが私のファンに言いたいこと?」
「そんなわけないでしょ。アタシが言いたいのは、アンタが被っている化けの皮の話。アンタはアーティストぶってるけど、全然売れてないし、全然売れてないから前の事務所じゃグラビアやらされてたし、今の事務所じゃアタシと芸人もやった」
「何が言いたいわけ?」
「今のアンタに価値がないってことよ」
「.....へぇ」
少しの沈黙の後、美咲さんは小さく返事をする。
「猫かぶってるままで売れるほど、この世界は甘くない!」
「じゃあ、どうしろって言うわけ?またコンビ組んで欲しいの?でも私のこと嫌いじゃなかったっけ?ツンデレ?」
美咲さんが少し悪戯っぽい口調になる。
彩奈に煽られて、少し苛立っているのだろうか。
それとも、美咲さんの本音が出始めている?
「生憎、今の私には最高の相方がいる。アンタなんかいらないから」
彩奈は冷たく言い放つ。
「それを今から見せてあげる」
「?」
「安心して。アンタの歌よりは良いショーを見せて上げる」
彩奈は何やら覚悟を決めたのか、大きく息を吐き出した後、一瞬口を真一文字にキュッと結び、そして解いた。
「ハル」
私の方を見ずに彩奈が私の名前を呼ぶ。
「今からネタやるよ」
「へ?」
唐突過ぎて、私は固まってしまった。
「いや、あの、ネタ合わせとか一切やってない気が.....」
「すいませーーん!!」
ぶつくさ文句を言う私を無視して、彩奈がお客さんに向かって明るい声を出す。
「いやー、ごめんなさいね。突然現れたのに自己紹介がまだで。アタシたちはですね、えーっと....あ、コンビ名まだ決めてないわ。アタシ、アヤニャンとこっちのハルピョンによるユニットコンビでーす!略してハルアヤ!ハルアヤでいいや!ヨロシクお願いしまーす!」
突然の問いかけにお客さんも驚いているのか、会場はシーンとしている。いや、ちらほらと拍手は起きているか。
100人集客の小規模な野外フェスだが、中には目当てのアーティストや芸人がいて、彼らを観に来た人もいるだろう。そんな人たちは今、わたし達が乱入してきたことを快くは思っていないだろう。いや誰でもそうか。知らない全身タイツの女2人が出てきたら、困惑以外の感情が見つからないだろうから。
彩奈はどうする気なんだろう?
彩奈は言葉を続ける。
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