第40話

「え、アレのどこが良いわけ?」

彩奈がギロっと私を睨む。

「え、いや、あの。な、何で、そんな怒ってんの?」

「怒ってないから」

「いや怒ってるよね絶対?めっちゃ怖いんだけど」

「いや怖くないから」

「いや怖いかどうかは私に判断させてよ」

依然、彩奈の表情は怖い。明らか機嫌が悪い。

いや怖いよ彩奈。ギャルの睨みって、その辺のヘビより怖いんだから気を付けてよ。カエルなんて萎縮して動けないどころか、睨まれただけでオタマジャクシに退化するんだよマジで。

.....なんて冗談を言える雰囲気ではなく、私は口をつぐんだ。てか、思考がどんどんバカになっていってる気がする。きっと、全身タイツなんか着てるからだ。そうに違いない。

彩奈から情報を引き出すのは諦め、もう1人のげんなりした奴に話を聞くことにした。

「てか、何でそんな顔してるんですか?」

「別に。つまんねーと思っただけだよ」

「そりゃ、お笑いじゃないから、笑えるとかは無かったですけど、良い曲でしたよね?」

「良い曲ってだけじゃ、ダメなんだよ」

「え、何でですか?」

「芸能人だからな」

「いや、それ答えになってないんですけど」

意味が分からない。

「つーか、アイツに比べたら、お前の方が芸能人やってるかもな」

行原が少し嫌味っぽく言う。

いやいや、あの子のこと、毛嫌いし過ぎでは?

普通に私はあの子の歌声に感動してしまってたのだけど。少なくとも、私にあのパフォーマンスは出来ないし。私からしたら、2人が美咲の才覚に嫉妬しているようにしか見えない。

人間は、ないものねだりの生き物だから、仕方ないのかもしれないけど。

そんな私の考えをよそに、行原がパンと手を手を叩くと数分前に言った言葉を繰り返した。

「さ、出番だぞお前ら」

「いやだから何すれば良いんですか?」

「その格好で出ればいーんだよ」

「出て何すればいーんですか?」

「それくらい自分達で考えろ」

「丸投げかい」

私は小さく溜息を吐く。

こんなノープランなまま、乱入してしまって会場は白けないだろうか?不安しか無い。

隣に立つ相方に尋ねる。

「ど、どーする彩奈?」

「ま、なるようにしかならないでしょ」

凛と答えているが、果たして大丈夫だろうか。てか行原も彩奈も肝が据わりすぎている。私が小心者なんじゃなくて、きっと二人が異常なのだろう。

「は、恥ずかしく無いの彩奈?」

「いや、逆に恥ずかしくないように見える?」

「あ」

愚問でした。

「さ、アイツが二曲目歌い出す前に、さっさと乱入して爆笑掻っ攫ってこい」

行原にポンと背中を押される。

「また、無茶なことを」

「早よいけ」


そんなわけで、私たちは再び戦場へと駆り出されることとなった。



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